いろいろな読み方ができる小説 角田光代「私の中の彼女」

本屋さんでみつけた角田光代の文庫本「私の中の彼女」。 あまり重いものが読みたくない気分の時にちょうどいいくらい。 重すぎず軽すぎず、入口あたりはうだうだしているようでいて、いつの間にか引きこまれて一気読みとなりました。

3.15私の中の彼女

自己評価の低い女子大学生・和歌は、大学で出会った恋人・仙太郎にぞっこん。 読む本も観る映画も美術もなんでもかんでも自分よりもずっとセンスと感度がいい仙太郎に憧れ、仙太郎の尺度で世界をみつめ、いつも一歩先を行く仙太郎の背中に追いつこうともがき、ひたすら仙太郎との結婚を願っていた。 仙太郎はバブル時代の潮流に乗って成功していくのに対して、和歌は平凡なOL。 ある時、たまたま実家の蔵で祖母が書いた文章をみつけたことで、和歌の人生はゆっくり動き始める。 小説を書くことに目覚めた和歌の目に映る仙太郎は少しずつ変化し始めて…。

自分であらすじを書いていても特におもしろいとは思えません(笑)。 起伏のあるストーリーを追うとか感動するとか文学的な作品に触れたいとか、人生のためになるとか、そういうことを読書に期待する人にはおすすめしません。

覇気も自信もない和歌にイラッとする人もいるかもしれませんが、角田さんと同世代だとすんなり受け入れられる女性像でもあります。 働く女性像がまだ確立されていなかった世代に属する私には、うだうだしている和歌の内面がとてもリアルでした。 自分に才能があるのかないのか、何か自分に合う仕事があるのではないかと探そうともせず、恋人の仙太郎を勝手に理想化して依存している和歌。 主体性のない和歌が祖母の過去に興味をひかれ、手探りで小説を書き始め、書くことの面白さに目覚めていくのと同時に、色あせていく恋人。

長い長い間たった一人の男性に恋し続けた女性の恋愛と喪失の話でもあり、書くことにとりつかれた一人の人間の話でもあり、二代にわたる娘と母の葛藤の話でもあります。 結局、著者がこの小説を通して何をいいたかったのかは判然としないので、読後のカタルシスは全然ありませんし、小説として非常に成功している作品ともいえませんが、読み終わった後に自分の中でしばらく反芻してしまうような、心に引っかかるものがありました。 うーん、同じことが視点が変われば全然違ってみえてしまうということを描いた小説…なのかな(自信なし)。

3.15枝垂れ紅梅

角田光代という作家のことを知っている人が読むと、本筋とは別のところで非常に興味深いと思います。 今までけっして自分を投影したような、作家である自分と重なる人物を書かなかった角田さんでしたが、賞をとってデビューした頃や、作家として生活できるようになるまでの苦しい日々、文壇の付き合い、娘の生き方を認めようとしない母親との関係性、同棲していた恋人(実際には結婚していた)などなど、角田さんには珍しく実体験がにじむ作品でした。 それでも、けっして日本的な私小説っぽくベタベタした感じはなく、とても淡々とした筆致。 そこが角田光代らしい。 大作ではないけれど、おもしろかったです。


3.15白椿開花

先週から今週前半はふだん不活発な私にしては怒濤のスケジュールで、バセドウ病と花粉症の通院、確定申告、無料のバスツアー、ストレッチ教室、叔父の忌明け法要、仕事仲間への結婚祝いプレゼント探し、かつてお世話になった仕事関係者とのランチ、叔母と従妹がお雛さまをみにきて一緒に近所のイタリアンに行ったり。 で、疲れて昨日・今日は家でのんびり過ごして充電。 週末から細かい仕事がポツポツ入っているので、少し休めてよかった。


■いろいろな記事にたくさんの拍手をありがとうございます。 母が突然入院してヨレヨレでしたが、ふだんの生活が戻ってきて、結構元気に過ごしています。
Category: 角田光代

胸にしみる一編との出合い 川上未映子「愛の夢とか」

ぐずぐず読んでいた川上未映子の「愛の夢とか」を読了しました。 谷崎潤一郎賞を受賞した短編集です。 谷崎潤一郎賞の小説って、実はどれもあまり好みじゃないんだけど。 本屋さんでみかけた表紙がきれいで川上未映子ならということで、内容を知らないままジャケ買い。

11.4愛の夢とか

高校生の時からつきあって21歳で別れた恋人と交わした遠い日の約束。 その約束の日に思い出の植物園へと向かう女性を描いた「日曜日はどこへ」。 ガーデニングをしている主婦と、ピアノ曲「愛の夢」を毎日弾き続ける隣家の女性との淡い交流を扱った表題作「愛の夢とか」。 大切なマイホームを手放さざるをえなかくなった専業主婦の家への執着が、やがて思いがけない展開をみせる「お花畑自身」など、7つの短編を収録。

読み始めて、ああやっぱり谷崎潤一郎賞は生理的に受けつけられないかも…と挫折しかけ、「他の人はこれがおもしろいと思うのだろうか?」と疑問になってAmazonのレビューをのぞいてみました。 すると、最後の「十三月怪談」がとてもよかったという声多数。 で、結果、途中で放りださないでよかった! 「十三月怪談」がものすごくよかった。 この一編を読むために、この本に本屋さんの店頭で出合ってよかったとつくづく思いました。

この短編集のテーマはたぶん喪失。 東日本大震災後に書かれたと読了後に知って、なるほどと思いました。 大切な何か、淡い何か、あるいは遠い日になくしたもの…いろいろあったのですが、うーん、いまひとつもやもや。 人の死を真正面からとらえた「十三月怪談」が圧倒的にすばらしかったです。

もともと「死」について深く考えこむことが多かった主人公の女性は、腎臓の病気であっけなく死んでしまう。 しかし、死んだ後も目にみえない存在になって愛する夫を見守ることに…と書くと、まるで幽霊譚のようですが(題名からもそんな印象を受けるのですが)、そんなに安直なお話ではありません。 「十三月怪談」の感想をネットでザッとみたところ、「幽霊譚」とか「スピリチュアル」といった読み方をしている人がかなり多くて驚きました。 みんな、斜め読みして誤読しているのでは?? 

後半は妻と死別した夫の視点で描かれ、最後まで読むと「ああ、そういうことだったのか」と納得しつつ、ひさびさに涙腺が決壊しました。 この小説はぜひ予備知識なしに読んでください。

病気で亡くなった兄嫁と、事故で亡くなった兄、それぞれの最期がこんなふうだったらいいなと心から願いました。 川上未映子さん、これを書いてくれてありがとう。 二人を見送って大きな穴が空いてしまった私の魂も、これを読んで救われました。 死別という悲しいテーマでありながらも、安直でない明るさがあって、震災で大切な誰かを失った人の心も少しは救われるのではないかと思います。 「十三月怪談」はまたいつか再読したい一編。 おすすめです。

11.4今年初めての山茶花


昨日、叔父の容態が急変したと連絡があって、母と二人で病院へ駆けつけました。 呼吸苦でとてもしんどそうで、叔母はみていられなくて涙ポロポロ。 モルヒネが効くとずいぶん楽になって、お粥をペロッと平らげ、「ああ、美味しかった」としみじみ言ったり、酸素マスクをつけたままでも結構あれこれ話ができて、ちょっとホッとしました。 食べることはまだ大丈夫で、ちゃんと美味しく感じられるみたいで、苦しい中でそれだけでもよかった。 あれだけ食べられるのだから、まだ大丈夫なんじゃないかと思いたい。

自分で感じていた以上に心身ともに疲れていたようで、今日は一日中ぼんやり。 母も私も、何も手につきませんでした。






Category: 川上未映子

表現のきらめきがすべて 川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」

今年最初に読んだのは、川上未映子の長編小説「すべて真夜中の恋人たち」。 途中でだれてしまって休み休み読みましたが、終わってみれば、これはこれなりにおもしろかったような気もしています(曖昧)。

恋愛小説を読みたい気分ではなかったのに、著者+装丁の美しさ、そして主人公の仕事が校閲というところに興味を覚えて買った本です。 

1.31すべて真夜中の恋人たち

フリーランスで校閲の仕事をしている「わたし」は、職場の人とも言葉を交わせないほどに、人付き合いに臆病。 誰にもほとんど会わずに済む校閲の仕事に満足し、仕事以外には世間との接点が皆無の、閉じた世界で一人生きてきた。 しかし、次第に心身のバランスが壊れ始めた時、偶然に冴えない中年男の三束さんに出会って…。 芥川賞作家渾身の恋愛小説です。

これは恋愛ではなくて、ただひたすらな片思いのお話でした。 主人公が孤絶した生活の中で壊れそうになっていく過程がやたらに長くて辛くて、読んでいてもしんどかった。 それに、言葉を扱う仕事をしているのに、自分の感情を言葉にできないために、他人と素直に関わることができない主人公の狭い狭い生き方にイライラ。 自己完結してる恋にもあまり共感できず。 後半になってようやく話が進んで、やれやれ。 終わり方は予定調和のようでもあるけれど、それはそれで後味がよくてホッとしました。

物語を味わう小説ではないなあ、というのが私の感想です。 物語がどんどん動いていくのが好きな人はやめておいた方がいいです。 川上未映子を始めて読む人にもおすすめしません。 私はこの人の表現=言葉の選び方が感覚的に好きなので、文章そのものを味わいました。 ところどころにキラッと光る感性があって、息長く続くセンテンスなのに、くどさを感じさせない独特の筆致もいい。 でも、この小説はちょっと冗長過ぎ。 3分の1くらい削ったら、ずいぶん良くなりそう。

内容とは関係ありませんが、本のカバーのストーリー紹介に主人公の仕事を「校正」と書いてあって「?」。 校閲と校正は違うと思うんだけど。 この文章を書いた人、ホントに中身読んだ??


1.31ベージュ恋猫

早朝から深夜までうちの周りをぐるぐる、愛しい誰かを声の限り呼んでいるこのヒト。 全身全霊、恋の季節。 いいねえ、狂おしいほどの情熱。 ちょっと羨ましい(笑)。


金曜日に大阪へ仕事の打ち合わせに行って夕方帰ってきたら、なんともいえず気分が悪くて、頭も身体も鉛がつまったかのような疲労感。 丸2日、家でただひたすらぼんやりと過ごして、ようやく何かをするエネルギーがでてきた感じ。 ずっと「やらなきゃ」と思いながらだらだら後回しにしていた仕事関連の雑用を片付けて、気分がスッキリしました。 このしんどさは薬で甲状腺ホルモンが急激に減っているからなのかな。 全身的なしんどさはいつまで続くんだろう。 明日はまた病院へ。

■いろいろな古い記事にもたくさんの拍手をありがとうごさいます! 励みになります。
Category: 川上未映子

日本の過去を振り返る 角田光代「ツリーハウス」

話題になっていた角田光代「ツリーハウス」が気になって単行本を買うべきかずいぶん逡巡していたのですが、文庫化されてやっと読めました。



仕事を辞めて再就職をするといいつつも、中華料理店「翡翠飯店」を営む実家で無為な日々をズルズル送っている現代の若者・良嗣。 同居している祖父が亡くなってはじめて、祖父母がどのような人生を送ってきたのか、まったく知らないことに気がつく。 「帰りたい」と意味不明なことを口走る祖母に付き添って、祖父母がいたという中国の旧満州へ、ひきこもりの無職の叔父とともに旅立って…。 祖父母・父母の世代から現代の良嗣の兄弟たちの世代まで続く、日本のどこにでもいそうなごく普通の家族がたどった三代の歴史が明らかになっていく。

5.8菖蒲

ずらずらと大家族の面々が登場してたくさんの名前と人間関係がすぐに頭に入らず、さらに現代と過去が頻繁に入れ替わる構成で、最初はちょっと戸惑いましたが、後半はひさびさの一気読み。 感動とか大好きとか、そういう小説ではないのだけれど、やっぱり日本人として特に若い世代には百田尚樹「永遠の0」とともに読んでおいて欲しいと思いました。 昭和の歴史、反戦…そういうむずかしい話だけでなく、改めて考えてみたら祖父母の世代のことって意外に知らないんですよね。 田舎の庄屋だったとか「士族の娘」とか…曾祖父母の世代だと江戸時代!? この本を読んだら、自分のルーツについて思いをはせるかも。

いまの政権の対外的な強硬姿勢や憲法改正のハードル引き下げ…昭和の歴史を読むと、サヨクじゃないワタシでもこのままその時の勢いのようなもので国の方針を簡単に決めてしまっていいのか不安に感じます。 アベノミクスだって為替レート上の操作で景気がよくなったかのようにみえているだけなんじゃないのか?? かといって投票したい政党が一つもない現状って…。

5.8苧環

わが家の庭では端午の節句に遅れて、ようやくアヤメが咲きました。 オダマキも咲き始めたところです。 ワタシの遍路は行くことが確定して、昨日は山用品の店でひさびさにいろいろお買い物しました。 以前着ていた山用衣類はほとんど処分してしまっていたし、なかなかにステキな出費…ま、山へも着ていけるからね。 よしとしよう。 歩き遍路って実はすごい贅沢なんですよね。 車やバスで回るよりずっと時間もお金もかかるんだなあ。


■いつも拍手をありがとうございます。
■おりおりさん、コメントをありがとうございます。 ぼちぼちだらだらな毎日です(汗)。
Category: 角田光代

ミステリではなく青春小説 近藤史恵「エデン」

近藤史恵のベストセラー「サクリファイス」がとてもおもしろかったので、文庫化されるのを心待ちにしていた続編の「エデン」。 おもしろかった!



近藤史恵はミステリ作家だし前作「サクリファイス」がミステリ仕立てだったから、「エデン」もてっきりミステリだと思って読み始めたのだけれど。 これはツール・ド・フランスを舞台にした自転車競技のプロたちの青春小説。 ミステリなんだから、このさわやかさがどこで暗転するのか…ひょっとして、この女性があの人と□○△※になったりとか?…と、前作のドロリとした結末を前提にしてやきもきしながら読んだけれど、心配は無用でした。 ペダルをこいで、身体一つで風を受けながら峠道のアップダウンを疾走する感覚が心地よくて、読んでいる間も読後感もとってもさわやか。 先日読んだ「横道世之介」よりも私はこっちの方が好きだな。 華々しいマイヨ・ジョーヌには無縁のアシスト専門選手である主人公チカ。 続編で彼にまた会えるのが楽しみです。

ミステリとして読むとおおいに不満かもしれません。 でも、この著者の読みやすくて心地いい描写はストレートな小説でも問題なくいいです。 どうしてこんなにスラスラ読めるのかと不思議なくらいですが、だからといって作品として浅いとは思いません。 ロードレースの複雑な駆け引きとか慣習も説明的でないのに、読んでいるうちになんとなく理解できるというのも近藤史恵がなかなか手腕のある作家だから。 自転車競技なんてぜんぜん興味ないわ、という人にこそおすすめします。 

近藤史恵の小説はほかのテイストのものを2、3読んでみたけど、やっぱり「サクリファイス」系が断然いい。

2.6山茶花

水曜は「確定申告を書いてしまうぞ!」と意気込んだものの、完成には至らず。 毎年訳がわかんなくて手こずっていたエクセルの使い方が、ほんのり分かっただけでも収穫でした。 ホッ。 ま、来年までには確実に忘れてると思うけどね。 下の記事につけた南天の写真が年明けのと同じだと今ごろ気づくくらいだから、最近の記憶はかなりあやしい(汗)。

■拍手をありがとうございます。
Category: 近藤史恵

生き生きと甦った古典 角田光代「曽根崎心中」

角田光代が時代小説!? どんな風になるんだろうと気になって買った単行本。 うっかりクリスマス頃に読み始めてしまいました。 クリスマスソングが流れる季節に読むにはちょっとふさわしくなかったけど。 心中ものの感想で年明けを飾るのもどうなの?ということで、なかなか感想を書けなかったけれど、おもしろかったです。



近松門左衛門の古典「曽根崎心中」を角田光代が翻案。 著者にとって初めての時代小説だというのに、まったく違和感がないことに驚きました。 遊女を取り巻く時代背景、当時の大阪の花街を過不足なくとても簡潔に描いていて、そのさじ加減が絶妙! 予備知識がなくてもすらすら読めてしまいます。 自然体でサラサラッと書いたかのようでいて、実はじっくり練られていると感じました。 現代風の言い回しなど一切なしで、でも現代人がちゃんと共感できる話になっているなんて脱帽です。 大阪弁が完璧なのは誰かが添削したんですよね、もちろん。

一見、遊女が叶わぬ恋に殉じたという単純な話のようでいて、真実なんてもうどうでもいいと思い詰めざるを得なかった背景がうっすらと暗示されていて、読み終わった後になんともいえない余韻が残りました。 感動とか落涙といったことじゃなくて。 ほかの古典もいつかカクタさんに書いてもらいたいな。

2.5南天

今年は食べものが豊富なのか、門先の南天の実が鳥に食べられずにいまもたっぷり残っています。 ヒヨドリとメジロはこのところ毎日、椿の花の蜜を堪能している様子。 急ぎの仕事が片付いて、お習字の練習をぼちぼち。 ただいまのんびり中。 読んだ本の感想を順次アップしたいと思っているのですが、できるかな。

■いつも拍手をありがとうございます。
Category: 角田光代

不穏な気配 鹿島田真希「冥土めぐり」

芥川賞受賞作の鹿島田真希「冥土めぐり」は本屋さんでさんざん迷った末、表紙にひかれて単行本を購入。 著者はドストエフスキーにのめりこんで日本正教(←ずっとロシア正教だと思っていた)に改宗して、夫も正教の聖職者だと報道されて、いったいどんな作品を書く人なんだろうとずっと気になっていたんです。 

芥川賞だからなあ…と身構えて読んでみると意外にそうでもないようで、最後まで読むと(併録されている短編も合わせた読後感は)「やっぱり芥川賞」なのでした。



生活破綻者の母と弟の呪縛から逃れるように、平凡な公務員の同僚と結婚した女性が主人公。 結婚してまもなく脳の病を患って体の自由がきかなくなった夫を介護しながら働く、地味な毎日を送っている。 ある日、母親が執拗なまでに繰り返し語っていた優雅な高級リゾートホテルが格安の保養所になっていることを知り、夫とともに1泊の旅に出る…。


えっと、ひと言でいうと、無垢な夫に魂を救われるという話…でいいんでしょうか? なにか不思議に要約しきれないものを抱えたような感じがする作品です。描いている内容はしごく真っ当で健全…なはずなのに、どことなく不穏なものが背景に漂っていて、でも実際には何も起こりません。 ひどい人たちとしてお母さんと弟のことが何度も作中で主人公の視点で語られるんだけれども、どうしてそこまで反発するのか、主人公に感情移入できない浅い描き方に思えてなりませんでした。 なんとはなしにつかみ所のない、モヤッとした読後感が独特といえば独特。 好きか嫌いかと聞かれれば、ビミョウ。 もう一冊読むかと聞かれたら、うむむ。 という感じ。

サッと読むと読みやすそうなのに…やたらと句読点が多い、平易な言葉で書かれているわりに不思議にちょっと読みにくい文体です。 ポツポツと切れた文体はこの作品を描くために使ったもののようで、併録されている短編はわざとだらだらと続くような文体でした。 併録の短編はヘンタイ的な世界観と粘っこい視線がひと昔前の「これぞ芥川賞」みたいで(単に私のイメージとしてですけどね)、これを先に読んだら本を途中で放りだしてしまっただろうな。

10.18白いマツムシソウ

清里で咲いていた名残のスカビオサ(マツムシソウ)。 薄紫のマツムシソウが好きだけど、真綿色もいいなあ。

清里から帰ってきて、京都の家の中が寒くて母がひどい風邪をひき、それが父にうつって、二人ともお医者さんに行ったのにいっこうに風邪は治らず。 ついに昨日から私も風邪。 来週はキビシイ日程の仕事がびっしりなのに。 今週中に治さないと(汗)。


■いつも拍手をありがとうございます。
■とりほさん、完全燃焼よかったですね。 厳しかった夏の疲れがドッとでませんように。 柳生真吾さんは残念ながらこの日はいらっしゃいませんでした。 声がソックリな方(兄弟かな)がいらして一瞬「オッ」と思ったんですが(笑)。

ドラマティックな何かを待つ女たち 角田光代「ドラママチ」

読んだまま感想を書いていない本の備忘録としてメモ。

読む本に困ったら手にとる角田光代。 普通の「好き」っていうのとはちょっと違うんだけど、カクタさんの本はつい読んでしまいます。 読んでスッキリするわけでもなければ感動するというのでも全然ないのに。 普通には目を背けたくなるような、見ないふりをしたくなるような、心の奥のモヤッとしたネガティブなものを拡大鏡でのぞきながら解剖していくような感じ…なんていうと読みたくなくなるでしょうけれど(笑)。



東京の中央線沿線に点在する街を舞台に、平凡すぎる自分に心底うんざりしている毎日に風穴を開けるドラマティックな出来事を「待っている」女たちを描く短編集です。 女が待っているのは妊娠、プロポーズ、性根の悪い姑の死、いまの自分とは違う”ほんとうの自分”が突然キラキラと現れる瞬間…。

ドロッとした初期の角田光代ワールド(直木賞受賞作「対岸の彼女」とは違う)を軽そうにみえるオブラートで包んだ風味。 かなり好きでした。 平々凡々に生きている自分に対してジタバタしているみっともなさ、苦しさ、狂おしさ。 閉塞感を描きながらも、フッと肩の力が抜けていくような読後感があって、鬱々しすぎてなくてよかったです。 東京の中央線は私にとっては完全に未知な場所だけれど、街の感じもおもしろかった。 「森に棲む魚」や「三面記事小説」みたいにブラックじゃないので、安心して(?)読めますよ。


9.26ヒックリカエル

ヒックリカエル!(笑)

仕事の打ち合わせに行った先に、こんなキュートな照明があって思わずパチリ。 カメラをもってなくて残念…携帯のカメラ機能を初めて使ってみました(世間から遅れすぎ)。 意外にキレイに写ってました。 

■いつも拍手をありがとうございます。
Category: 角田光代

平凡な日常の裏にひろがる闇 角田光代「三面記事小説」

たまりにたまった読書メモを自分のための備忘録として、少しずつアップしていくつもり(あくまでも予定)。 夏休み最後の週を迎えて、お天気の記録を古新聞をあさって必死で探していた(ネットがない時代はたいへんだった)小学生の頃からちっとも成長してません(笑)、私。 いっぱいネタがたまっているから、なるべくあっさり書くつもり(これもあくまでも予定)。 以前から「長くて読む気がしない」と友だちから苦情多数ですので。 短く書く努力はします。

まずは角田光代「三面記事小説」。



床下の遺体の上で長年生活していた夫婦、不倫相手の妻を殺す依頼をした女、妹への激しいコンプレックスを抱えた姉がたどりつく恐るべき結末。 いずれも新聞の社会面で読んだことがあるような、かなりドロドロとした事件をベースに、カクタさんの想像力で肉付けして新たな物語をつくりだしています。
 
怖い…。 すごく怖かった。 ホラーじゃないし、ミステリでもない。 でも、読んだあとに背筋がスーッと寒くなるような短編集です。 文庫本の表紙から受ける印象そのまま。 血塗られた事件なんて関係ないと思っている平凡な自分にも、ひょっとしたらこんな恐ろしい闇が心の奥底のどこかにあるかも、そんなものないとは言い切れないと思わせられた筆力はさすが角田光代。 カクタさんっていったいどれだけ引き出しを持っている小説家なのかと、内容とは関係ないことに感心したりして。

精神的に弱っているときに、この本を何気なく手にとったことを後悔しました。 かといって「嫌い!」と全否定というわけでもないんですが。 読むタイミングに注意が必要な本です。 
Category: 角田光代

芥川賞ブンガク 川上未映子「乳と卵」

100ページほどの短編なのに、文庫本化された直後に買ったものの、数ページ読んでは挫折の繰り返し。 大島真寿美「ピエタ」の後に、薄いからと手にとって大失敗! 世界観もテイストも違いすぎで読む気がなくなってしまいました。 今日は遠方まで電車で行く仕事があったので、川上未映子の芥川賞受賞作「乳と卵」をやっと読了しました。 宿題をひとつ片づけたような気持ちです。

乳と卵(らん) (文春文庫)乳と卵(らん) (文春文庫)
(2010/09/03)
川上 未映子

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豊胸手術を受けるために上京してきた姉とその娘を迎えた「わたし」。 姉はホステスをして生計をなんとかたてているシングルマザーで、不可解なほど豊胸手術にこだわり、その娘は母親とも叔母ともまったく口をきかず筆談で受け答えをするのみ。 「わたし」のアパートで過ごす3日間が終わるとき、母と娘の葛藤が露わになって…。

もうなんといったらいいのか、これが現代の純文学ってやつなんでしょうね、きっとね。 月経だとか排卵だとか受精だとか、生々しい。 こういうことは今までもブンガクですでに何度も表現されているような既視感があって。 こういうどろどろは苦手。 しかし、女性の産む性としてのどろどろと胸の奥でとぐろを巻いているものを吐きだしたかのようにみえて、実は最後まで読むと結構、小説の骨格はまっとうというか古めかしい印象なのでした。

大阪弁の完全な口語調で、改行もなくズルズルと進むさまは、本当に目新しいのかどうかについてはちょっと懐疑的。 大阪弁なら田辺聖子がいるし、ズラズラと息の長い文章の積み重ねは「がんばりません」頃の初期の佐野洋子を彷彿とさせます。 ひとり語りで展開していく女性同士の話であるのにもかかわらず、「ピエタ」とは対極にある感じ。 ただ言葉のセンスがいいし、勢いのある長い文章も私は苦痛ではなかったです。 これしか読んでなかったら、今後、川上未映子に食指を伸ばすことはなさそうでしたが…

ヘヴン」を読んで、胸の奥にずしんと直球で作者の思いが伝わったので、今後も注目していきたい作家ではあります。



ヘヴンヘヴン
(2009/09/02)
川上 未映子

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強烈で残酷ないじめをテーマにした「へヴン」は、作家が魂を削って書いた小説だろうと思います。 未映子チャンって、前衛みたいにみえて、実は根の部分では意外にクラシック。 そういうスタンス、嫌いじゃないです。 「ヘヴン」を超える大作を待ってます!

■ブログ拍手をありがとうございます。 「まほろば駅前多田便利軒」みたいな、過去に読んだ本もぼちぼちアップしていきます(たいした量ではありませんが)。
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