和菓子×デパ地下×ミステリ 坂木司「和菓子のアン」

書道のお手本を買いに本屋さんに行って、ついでに文庫コーナーをひさしぶりにのぞいたのですが、ピンと来る本がみつからずウロウロ。 いままで読んでない作家の小説を読んでみようと、タイトルとおいしそうな和菓子の装丁につられて坂木司「和菓子のアン」を購入。



梅村杏子は食べることが大好きな、ちょっとぽっちゃり体型の女の子。 勉強は苦手で特にしたいこともみつからないまま高校を卒業して、デパ地下の和菓子屋でアルバイトを始めることに。 名前と福々しい外見から「アンちゃん」というあだ名を付けられた杏子が、挙動が怪しい上司、不思議な注文をする客や何やら怖い雰囲気の客…日々の小さな出来事の事情を読み解いていく。

今まで読んでいない作家を新規開拓するつもりで選んだけど、ちょっと軽すぎた。 平和な読みものでした。 ドロドロしたことは一切起こりません。 面倒なものは読みたくないとか、息抜きのために読みたいとか、電車の中の退屈しのぎにしたいという人におすすめ。 和菓子のうんちくは和菓子の本場の京都人にはちょっと物足りないな。 どちらかといえば、デパ地下の舞台裏の方が興味深かったです。 閉店になってからの従業員向けのセールが羨ましい(笑)。 そうそう、デパ地下での「兄」という言葉の意味は知らなかった。 現場ではホントにそんな風に使っているんだろうか? 

7.12泰山木の花

この記事は7月半ばに書きかけて放置。 その頃は梅雨明けの青空をバックに、気がつかないほど高いところで泰山木が純白の大きな花を咲かせていました。 夏も終わろうとする頃になってようやく書き終えてアップって、我ながら時間かかりすぎだ。

多彩な試みに挑戦した意欲作 桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」

桜庭一樹の作品を読むのは初めて。 以前、テレビで桜庭さんが原稿執筆をガーッと集中して書いた後、午後だか夜だかにそれはそれは楽しそうに本屋をめぐって本をたっぷり買いこんでいる様子をみました。 とにかく本が好きなんだなという印象が強く残って、なんとなく気になっていました。

単行本を買おうかどうしようかさんざん迷った「赤朽葉家の伝説」が文庫になっているのをみつけて購入しました。 でも、よく考えてみると、文庫本で840円って結構高いな。

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)
(2010/09/18)
桜庭 一樹

商品詳細を見る


山陰の山ふところに抱かれた赤朽葉家は、製鉄業で財をなした旧家。 豪壮なお屋敷を舞台に、千里眼の祖母、漫画家の母、ニートの「私」、三代の女性の生き方を昭和の世相をからめて描いた大河(?)小説です。 本の帯に、日本推理作家協会賞受賞作とありましたが、ミステリではありません。 推理小説やハードボイルドを期待して読むと「なんだ、これは!」と腹が立つかも。 賞の名前と内容があまりにもミスマッチ。

女性三代の物語というので、漠然と有吉佐和子の「紀ノ川」みたいな小説かと思っていたのですが、ぜんぜん違いました。 そういう「しっとり語る」系ではまったくなくて、第一章は寓話風、第二章はライトノベル風(ライトノベルを読んだことがないので、あくまでもイメージですが)、第三章は推理小説風(でも推理小説ではない)と、さまざまな文章の書き方に挑戦した作品です。 著者が意図したことすべてが成功していないとしても、おもしろく読めました。 虚構にどっぷりはまる時間、という読書の楽しさをひさびさに味わわせてもらいました。 凍りついた心も少しずつ回復してきているのかも。

特に、「山の民」に置き去りにされた赤子・万葉が、玉の輿にのって赤朽葉家の若奥様になってからの部分が、とても楽しく読めました。 読みながら「これってガルシア=マルケス『百年の孤独』だよね」と思っていたら、あとがきにあの小説を意識して書いたとありました。 摩訶不思議なできごとを当たり前のことのように淡々と語る手法に果敢に挑戦して、山陰の山の中に桜庭一樹という作家がひとつの世界をしっかり構築したことにびっくり。 日本の小説は身近なことを描いたものが多くて、海外小説のように「壮大な虚構」というスケールに欠けていると日頃から感じていましたが、この小説はエンターテイメントに徹しながらも、なかなかいい線いってます。 それだけに第二部での変調は、私の好みではなくて。 最初から最後まで「万葉」路線で語る小説を読んでみたかった。

でも、これから桜庭一樹をどんどん読んでみよう、というのでもないのだけれど。 何かが心に深く残るわけではなくても、この本のようにただ「読んで楽しい」という読書もアリだと思います。 あとがきがおもしろかったので、機会があったら「読書日記」を読んでみたい。

20代に読んで、有吉佐和子にはまるきっかけとなった「紀ノ川」。 いまの私が読んだら、どう感じるのかな。 いつか再読してみよう。

紀ノ川 (新潮文庫 (あ-5-1))紀ノ川 (新潮文庫 (あ-5-1))
(1964/06)
有吉 佐和子

商品詳細を見る


いまはこんな表紙なんですね。 イメージとぜんぜん違う…

■いろんな記事に拍手をありがとうございます。

濃密な時代背景がすばらしい 佐々木譲「警官の血」

あれもこれもやりたいと気ばかり焦って、まったくもって何もできていないのは春のせい? 寒暖の差が激しすぎて体も心もついていけません。 家でうだうだ何もしたくないときは、ふだんは手にとらないサスペンスやミステリの長編小説を読んで現実逃避。 文庫化されてすぐに買ってあった佐々木譲「警官の血」を一気に読みました。 おもしろくてすごく読み応えありました! さすが直木賞作家。 というか、いままで直木賞もらってなかったんですね、佐々木譲さんは。 読んだことなかったけど、サスペンスとかミステリでは重鎮というイメージだったから意外な気がしました。

3.23警官の血

戦後直後の混乱期、とにかくなんでもいいから仕事が欲しくて警察官の大量採用に応募した安城清二から、その息子・孫までの3代の警官人生を描く大河小説です。 警察官という職業になんの思い入れもなかったのに、やってみたら意外に自分に合っていたという初代・清二の夢は「駐在さん」になること。 ところが長年の夢が叶った矢先、謎の死を遂げてしまいます。 父を亡くし貧しい母子家庭に育った2代目・民雄は、高校卒業とともに警官への道を志し、父と同じ「駐在さん」を目標としていたのに、希望とはまったく違う潜入捜査を強いられて…。

初代の部分が一番おもしろくて、戦後の世相がリアルに伝わってきて非常に興味深かったです。 悲惨な最期を迎えたとはいえ、初代の人生が一番生き生きと充実している感じで、2代目・3代目は組織の力に人生をねじ曲げられて気の毒。 このあたりは親子3代の人生を、貧しいけれど懸命に生きていた戦後、豊かになるとともに心が荒廃していく高度経済成長からバブル期に重ね合わせていて、構成が非常によく練られた小説です。 初代の清二は上野の交番を経て谷中の駐在所勤務になるのですが、まったく土地勘がないワタシでもそこに流れる時代の空気と町がもつ独特の雰囲気を感じることができました。 ふつうの警察官ではなくて、町の人たちとともに生きる「駐在さん」っていう存在もいい感じ。

3.23雨のスミレ

3代をつなぐ縦糸となるのが初代の非業の死なんですけど、これはミステリというほどの謎があるわけではなく、真相が最後に判明しても動機の点でいまひとつ釈然としないところも確かにありました。 それでも、そういうことはこの小説にとっては些末なこと。 ミステリとしてではなく、戦後の日本を描いた小説として出色。 そして重厚な長編なのに不思議なほど読みやすいんですよ、この小説。 「時間を忘れておもしろい小説が読みたい」という方には、特におすすめです!

「読書夜話」のぎんこさんに「警察小説を読むなんて珍しい」と指摘された通り、めったに読まないジャンル。 でも「警官の血」が期待以上だったから、佐々木譲の小説はもう少し読んでみたいかも。


連日の雨に降りこめられて、ぼんやり(してちゃいかんのだけど)。 日中でも薄暗くってテンション下がります。 けど、植物にとっては優しい雨なんですね。 庭のあちこちで、雨に打たれながらスミレが可憐な花を咲かせています。 今年は、上の写真の薄紫のスミレが増えてうれしい。

■みなさん、拍手をありがとうございます。 適当に作ったビーズのネックレスが意外にも好評で驚きました(笑)。

■sifakaさん、拍手コメントをありがとうございます。 シルバーカッパーは赤っぽい銅色の上に白っぽい銀を不均一に吹きつけたような質感で、銅古美や銀古美よりも明るい色。 どちらかといえば鳩のチャームはマットなピンクゴールドに、チェーンなどの金具はマットなシルバーに近いかな。 ネットで探してもなかなかなくて、流行ってないみたいです(笑)。 貴和製作所のオリジナルなのかな??

■Tさん、たくさんの共感をありがとうございます(笑)。 ね、なんでハンドメイドの素材っていろいろ欲しくなるんでしょうね。 素材をいっぱい集めて妄想するのが至福のとき!(爆) 「ガラクタ捨てれば~」は自分にとって不必要なものを見極めて、ばっさり捨てる覚悟を授けてくれる不思議な本なんですよ。 ワタシにとってハンドメイド素材はガラクタじゃないから、絶対捨てませんけどね。

無名の郷土画家発掘の裏にあるもの 篠田節子「薄暮」

ブログを書くとたびたびフリーズして記事が消えてしまうため、ブログを更新する気力がめっきり落ちてしまいました。 自動バックアップにしておいてもごっそり消えてしまったりして、画面を見つめて夜中にひとりゲッソリ。 だいたいブログ以外ではあまりフリーズなんてしないし…どうなってるんだろう? どう考えてもIE8にしてからの不具合、ブラウザの問題と思われるけどPC音痴にはわからない。

さて気を取り直して、何度目かの書き直し(泣)。

篠田節子の小説を読むのはひさしぶり。 本当は新興宗教のことを書いているという「仮想儀礼」が読みたかったんだけど。 上下巻に分かれていて結構な値段になるので、単行本を買うのはちょっと…。 図書館でも人気で、予約をして借りたのでは上下巻をバラバラの時期に読むことになりそう。 それもイヤだなということで、文庫本化されるまで気長に待つことにしました。 そこで、最新刊らしき「薄暮」を図書館で借りてきました。

2.7薄暮

中央画壇に背を向け、新潟の片田舎で絵を描き続けて無名のまま亡くなった画家。 その作品をたまたま目にしたエッセイストが雑誌に書いたことから世間に知られることになり、雑誌編集者・橘は地元の人々の熱意に引き寄せられるようにして画集をだすために奔走しはじめる。 ところが、献身的に画家を支えた未亡人から思いがけない横やりが入り、さらに画家を経済的に支えた旦那衆も絵画の値上がりを目の当たりにして足並みが揃わなくなり、あやしげな画商の姿もちらついて…。

無名の貧乏画家に尽くし続けた女の情念、そして美術品をめぐる人間の欲をえぐった長編小説です。 未亡人が抱えるどろどろした複雑な思いが強烈で、新潟の陰鬱な冬空を思わせるような重苦しさに包まれた話なのですが、ミステリ風の味つけもあって意外にさっくり読めました。 突然の絵画ブームのしかけ、画商の存在や著作権のことなど、一般人がうかがい知ることのできない美術界の舞台裏が、かなりリアルに(たぶん)描かれていて興味深かったです。 人間の嫌な部分が次々に出てくるから読み心地は決して良くないし、読み終わった後に「人生観が変わる」といった建設的な内容ではないけれど、それでも読ませてしまうのは小説家・篠田節子の手腕ですね。

人間が胸の奥に抱えるどろどろした情念をテーマにしていること、ふだんは知ることができないさまざまな業界の裏側をのぞきみる面白さ、読者をひきつけるミステリアスな展開(ミステリではなくて)、そして読者をやるせない気持ちにさせる物語の最後を必ず一筋の光を感じさせるシーンで締めくくる親切心…ああ、これが篠田節子の小説なんだと独りごちしました。 重くて知的なエンターテイメントという感じ。 前回読んだ「ロズウェルなんか知らない」がちょっと意外なほど軽くて作風が変わったのかと思ったのですが、本質的に変わってなくてファンでもないのに妙に安心しました。


ああ、やっと最後まで書けた…またフリーズしたらイヤなので、とりあえずアップ。
Category: 篠田節子

山岳小説としての緊迫感が物足りない 笹本稜平「還るべき場所」

笹本稜平「還るべき場所」をようやく読み終わりました。 山岳小説の傑作ということでネットでは非常に評判がよく、読書家の児玉清さんが昨年のベスト本にあげているくらいだから、ものすごく期待してたんですが。 寝ても覚めても主人公はなかなかリベンジの登山にでかけない…異様に読むのに時間がかかりました。 最後の3分の1は緊迫感がある登攀シーンであっというまに読めたんですけどね。

12.25還るべき場所

主人公の矢代翔平は世界第2の山=K2の絶壁を登攀中に、ザイルで結ばれたパートナーであり恋人である栗本聖美を滑落で失って以来、山に向かうことができなくなっていた。 恋人の滑落死から4年、クライマーとしてともに山を目指してきた友人から、K2を望む高嶺ブロードピークへの公募登山隊にガイドとして同行することを求められ、因縁の場所へと旅立つ。

物語が動きだす前、序盤でつまづきました。 主人公のうだうだした心情とか、主人公の若かりし頃の超無謀な山行とか、まったくもってどこにも感情移入できませんでした。 先鋭的なクライマーという人種も征服欲とか名誉欲が強そうな人が多くて、個人的にあんまり好きじゃないからよけいです。 死んでしまった恋人・聖美の山に対する考え方には共感できたので、作者はいろんなタイプの山屋を描くことに成功しているのかもしれません。

公募登山や未踏ルートを目指すクライマーなど、現在の8000メートル級登山の実情が詳細に書かれていて、そのあたりはへぇ~と感心したんですが、なんか冗漫な印象。 いまひとつ物語に入りこめずに終わった一番の要因は、文章がワタシに合わなかったことかと思われます。 特に変なくせがある文章ではないんですが、語り方がくどい感じがしました。 作者にとってはこだわりのある主題なんでしょうがまったく同じフレーズが何度も出てきたり、似た表現が繰り返し出てきたり、そういうところが理屈ではなくワタシの肌に合わなかったようです(山岳小説にはもっとハードで乾いた文体の方が合ってる気がする)。 そんなところが気にならない人はかなり楽しめるのかも。 やっぱり井上靖の「氷壁」の方がずっと山屋っぽいな←ただ山の装備や社会状況などの時代背景が古すぎていま読んだら違和感ありそう。 というわけで、ひとりで勝手に期待しすぎて空振りしたということでした。 読むのがもったいないと半年近く熟成させたのがいけなかったな。 一年の最後に「これだ!」という本を読んで締めくくりたかったのに…と思っていたら、次に読み始めた本がすごくよくて、これで今年の読み納めにしようと考えています。

12.25チロリアンランプ

冬枯れの庭の真ん中で、ひとりだけ元気に真っ赤な花を咲かせているチロリアン・ランプ。 ブラジルの熱帯・亜熱帯地方が原産というのに、地植えしても冬の寒さにも負けず花をたくさんつけています。

やっと年賀状が書き終わった! やれやれ~。 これでやっと大掃除に着手できます。

古典的文学をまじめに論じた本 清水義範・西原理恵子「独断流『読書』必勝法」

実は西原理恵子の絵、好きじゃないんです。 だから、どうして世間でこんなに話題になっているのかわからないし、わかろうとして読む気もしないまま今日に至っています。 唯一、サイバラの絵に触れたのは、清水義範との共著「おもしろくても理科」。 本の内容は清水センセイとサイバラのコンビが軽妙な味をだしていて、とてもおもしろかったけれど、サイバラの絵そのものには魅力を感じませんでした。

6.14独断流読書必勝法

というわけで、本屋さんに平積みされている新刊本「独断流『読書』必勝法」も、「表紙の絵がなんだかなあ」と買うかどうか迷いました。 読んでみたら、とてもよかった。 買ってよかった。 サイバラの絵の印象から内容的に軽いものを連想させてしまうんですが、中身は清水義範が古今東西(といっても現代の作品はなし)の名作といわれる小説を題材にして、ものすごくまじめに文学を論じています。 ワーワーめちゃくちゃにこき下ろすような書評ではなくて、ホントにまじめ。

清水義範は名作をていねいに読み直して、ストーリーだけではない味わい方、あるいは名作の裏側事情を、愛情をもって真摯な言葉で解説しています。 けっして「上から目線」ではなく、「こんな古くさいブンガク、読む価値あるの?」と思っている人にもわかりやすく味わいどころを書いていて、好感が持てます。 こんなにまじめな本、ひさしぶりに読んだ気がする。

6.14アジサイ紫

まじめな清水センセイに対して、サイバラはどんどん逸脱して、後半はまるで本と関係のないことばかり描いているんですが(それも、かなりおゲレツなネタ)。 それでも、1つ下の川端康成の感想とコメントのところに書いたように、「伊豆の踊子」への深い洞察だけでサイバラを見直しました。 「伊豆の踊子」について、ずっともわもわと抱えていた釈然としない気持ちの元凶をズパッと言語化されていて、目からウロコが落ちて視界が一気に開けた気分。 サイバラに対する高い評価はこういう洞察力にあるんだと納得しました。 清水センセイからでた課題図書には興味がわかなかったらしいけど、この人、子どもの頃からかなり本を読んで自分で考えているんですね(マンガの端々に出てくる)。 アイルランド人作家のジェイムズ・ジョイス「若い芸術家の肖像」のところで、「『ダブリン市民』が生涯読んだなかでダントツにつまんなかった」と、思い出しつまんない泣きしつつ「『アンジェラの灰』はすごい好きだったなー」というコメントに、うんうん、わかってるじゃん、サイバラ!と独りごちしました(「ダブリン市民」読んでないけど)。 いま話題沸騰のハルキをサイバラはどう読むんだろう? 知りたいなあ。

6.14アジサイ白

この本で取りあげられているのは「坊ちゃん」「ロビンソン・クルーソー」「伊豆の踊子」「ガリヴァー旅行記」「細雪」「ハムレット」「陰獣」「嵐が丘」「高野聖」「罪と罰」「河童」「谷間の百合」「濹東綺譚」「黒猫」「暗夜行路」「ボヴァリー夫人」「金閣寺」「若い芸術家の肖像」「万延元年のフットボール」「魔の山」。 ね、すごいラインナップでしょ? 「谷間の百合」とか「ボヴァリー夫人」なんて、サイバラじゃないけど、いまどき読むひといるの?と思った反面、ハーレクインロマンスを読み過ぎちゃった主婦の話みたいな「ボヴァリー夫人」をちょっと読んでみたくなりました。 一時、片っ端から読んだ谷崎潤一郎や三島由紀夫の何にワタシがひかれていたのかも腑に落ちました。 ミシマに遅れた世代として生まれたおかげで、清水義範のような先入観なしにミシマに触れられたのはラッキーだったなとか、ドストエフスキーは大人になってからの方が断然おもしろく読めるというのはまったく同感だなとか、いろいろ楽しめました。

審美眼の背景にあるもの 白洲正子「日本のたくみ」

いったいいつから読んでいるのか?と自分で突っこみを入れたくなるほど、読み終わるまで時間がかかりました。 別にずっと読んでいたわけではなくて、たまに外出中にパラパラとページを繰る程度だったためです。 読まずにいられないほど引きこまれることはなかったけれど、放りだすほど退屈でもない本でした。
 
4.21日本のたくみ

陶芸や木工、染織といった伝統工芸から、古来から受け継がれてきた石積み、独創的な花活けによる表現、モダンな抽象彫刻、さらには贋作作りや素人には立ち入れない刺青の世界など、さまざまな日本の手仕事の現場を訪ね歩いた随筆です。 伝統工芸にとらわれない幅広いジャンルを扱っていて興味深く読みました。 特に印象的だったのが、滋賀に伝わる穴太積みと呼ばれる石積み、古伊万里の贋作に手を染めた陶工の足跡をたどる旅、そしてオリジナルの染めを追求してきた”お嬢さん”作家。 そして最後の「後記」が実は一番味わい深かった。 頑固で偏屈な職人さんとしっかり向き合ってきた方なんだなあと、それくらい熟練の職人による手仕事を愛しているんだなあということが行間から伝わってきました。

ただ、こういう生まれも育ちもとびきりいい人に「これはすばらしい!」と言い切られると、一般人は「はあ、そうですか」としか言えないんだよな…と、心の隅に引っかかるものはありました。 工芸品そのものの美しさや、工芸品から自由気ままに広がっていく古典への言及について、特に論拠が示されなくても納得するしかないのかなあと。 まあね、審美眼なんて最終的には客観性のないものですからね、論拠ってわけにもいかないんでしょうが。 トータルすると、読んで損はないけど「白洲正子ってやっぱりステキ~!」という感じではなく、またご縁があったら読んでみましょうという程度。 どちらかといえば自分の感覚に似すぎていて、目からウロコといった感動がなかったのかもしれません。

4.22花韮

「白洲正子って、いったいどういう人なんだろう?」と以前から疑問があって。 いままで読んだのは、白洲正子の言葉のいいとこだけを寄せ集めて編集されたムック本だけ。 言っていることは格好いいけど、なんでこんな風に言い切れるのかなあ…とずっと気になっていました。 伯爵の孫とかアメリカ留学したとか、多少の経歴を知ってはいても、どういう人なのか?という疑問は消えず。 この本を読み始めた頃に白洲次郎のNHKドラマが放映されて、「なるほど、こういう人だったのか」と読書+ドラマでようやく納得できました。

NHKのドラマは映画と同じくらい映像に凝っていて、みごたえがありました。 3回で完結なのに、なぜか第3回だけがずいぶん間を開けて8月に放映される…あんまり映像に凝りすぎて間に合わなかったのかな? 育児にも家事にもまったく興味が持てず、能以外は没頭できるものがみつからなくて悶々としつつ、なんとはなしに文章を書き散らしている白洲正子がリアルでした。

美を散りばめたエッセイの小箱 澁澤龍彦「フローラ逍遥」

植物の本をあれこれ探していて出会ったのが澁澤龍彦「フローラ逍遥」です。 澁澤龍彦はまったく未体験でタイトルしか分からないので、とりあえずインターネットで図書館に予約。 想像以上に美しい本でした。

3.11フローラ逍遥

新書サイズなのですが、花をめぐる25のエッセイとともに、それぞれの花にアンティークの植物画3枚が添えられ、巻末には詳細な図版解説がついている、とても贅沢なつくりの本です。 澁澤龍彦らしい(といっても読んだことがないのであくまでもイメージなんですが)博識さで心の赴くままに綴ったような短文は、プリニウスを引用するかと思えば万葉集や芭蕉が出てきたりして、まさに古今東西を縦横にさまよい歩く「逍遙」そのもの。 「フローラ」という言葉の響きもヨーロッパの空気をまとったエッセイの雰囲気に沿っていて、この本ほどタイトルと内容が一致しているものも少ないのではないかしら。 連載中は全然違うタイトルだったそうですが。

日本だけでなく中国や韓国でも古来から人気の「梅」が、西洋ではまったく関心を持たれなかったという指摘に、なるほど。 「椿」はあこがれの花なのにね。 「ヒナケシ」をみても西洋人は可憐とはまったく感じないことへの違和感も、なるほど~。 一番すばらしかったのは「金雀児(エニシダ)」のエッセイ。 エニシダが黄金色に波うつフランスの野原が心の中に広がっていく文章に陶然としました。

澁澤龍彦の洒脱な文章と古い植物画の趣がぴったり合った相乗効果で、本全体からなにやら高貴な香りが立ちのぼってくるようでした。 植物の絵がなかったら、正直、どうってことのないような短文と感じそうなものもありましたが、独特な世界を内包した本でかなり欲しくなりました。 ただいま、所有欲と戦い中デス。

3.11ミヤマカタバミ

植木屋さんに徹底的に抜かれ(植木屋さんには雑草にしかみえない)、昨夏の猛暑で干からびて、わが家の絶滅危惧種に指定されていたミヤマカタバミが咲きました。 うれしいなあ。 また会えてウレシイよ。 葉っぱだってほとんどないのに、けなげにうつむき加減に咲いている姿にじんとしました。 地面に這いつくばって、まっさらな一眼レフで撮りました。 前日はかわいく撮れなかったので、再度挑戦。 ホワイトバランスや色調がまだ感覚にぴったり来ませんが、前日よりはましかな。 カメラに慣れるまで、しばらく試行錯誤が続きそうです。 ああ、マクロレンズが欲しい~ッ!

村おこしに賭ける青春群像 篠田節子「ロズウェルなんか知らない」

今朝7時頃、地鳴りとともにドスンと一度だけ縦揺れがありました。 阪神大震災と同じ季節…寝ぼけ眼ながらゾッとして心臓バクバク。 あの震災の朝以来、地鳴りというものが聞こえるようになったんです、どんなにぐっすり眠っていても。 今朝の地震はたいしたことがなかったからベッドの中でうだうだしつつ、「ひとり寂しい老後」などと心配していても、老後にならないうちに死ぬことだって大いにあり得るんだなあ…などと考えました。 で、二度寝してしまったんですが(汗)。

近頃、読書が進みませんが、2009年の初めに読んだのは、ずいぶん前に買ってあった篠田節子「ロズウェルなんか知らない」。 ずっと以前、一時期集中的に篠田節子を読んでいたことがあったのですが、ずいぶんご無沙汰していた作家です。 「聖域」とか「カノン」は何やら恐ろしげな雰囲気に充ち満ちていて、「女たちのジハード」はフェミニズムをテーマにしながらも明るく健康的なお話だし、それ以外に題名も忘れてしまったけれど、もっと娯楽小説風の軽いものもいろいろあって、飽きさせない幅広さを持った作家なんですが、ワタシの好みにぴったりでない部分もあるような。 近頃の篠田節子はどうなんったんだろう?という好奇心で、本屋さんで見かけた文庫本を手に取りました。

1.14ロズウェルなんか

温泉や史跡といった観光資源が皆無で、過疎に悩んでいる村を舞台にした「村おこし」騒動顛末記。 村を牛耳っている年寄りたちから、いまだに「若手」扱いされている40代独身男たちが現状を打破するために悪戦苦闘する、ちょっと遅めの青春群像が軽妙なタッチで描かれています。 苦肉の策として、UFOが飛来するという噂を流して地域活性化を図ろうとするのですが、それが想定外の事態を引き起こして…。

最初はしばらく物語に入りこめなかったものの、後半は一気読み。 普通におもしろくて肩が凝らずに読める手軽な小説です。 主人公となる村の男性陣のキャラがたっていないのか、なかなか誰がどの境遇に置かれているのか頭に入らなかったり、政府や自治体による地域活性化事業の矛盾、さらにオカルトブームといった社会問題に対するこだわりが前面に出すぎて話の流れが滞るところが少しありましたが、それでも楽しめました。 社会に対する提言をしよう…という意図がちょっと出過ぎてるのかも。 こんなに長編にしないで、もう少し刈りこんだら、もっとテンポ良くなったような気がしてやや残念。 う~、しばらく篠田節子はいいかな…。

1.14シャコバサボテン

玄関に置いたシャコバサボテンが満開になりました。 祖母が大好きだった花。 よく見ると不思議な形です。

トラツグミのつがい、あの日以来見かけません。 どうか元気に飛び立ってくれたのでありますように。 トラツグミ一羽でもこんなに悲しいのに、ガザのニュースを聞くたび、やりきれなくなります。 子どもたちに憎悪の連鎖を背負わせるような愚かなことがいつまで続くのか…。 ユダヤ人にとってもアラブ人にとっても比較的中立的な立場の日本のような国が、ほんとうは本気で働きかけるべきなんでしょうのに。 政局だかばらまき予算だか知りませんが、目の前のこと、自分のことしか考えられない政治家ばっかりでウンザリです。 せめて派遣の規制だけでもさっさとしたらどうなんだ!と、ニュースを見てはひとりで怒ってます。
Category: 篠田節子

老いをみつめる眼差しにひるむ 佐野洋子「神も仏もありませぬ」

中島敦の短編集はおもしろくないわけではないのに、読み始めると眠くなってしまって、さっぱり進みません。 その間に、たまたま本屋さんでみつけた佐野洋子の新しい文庫本「神も仏もありませぬ」を一気読み。 ああ、なんてすごいんだ、佐野洋子は!

12.1神も仏も

一番最近読んだ「覚えていない」がいまひとつパンチに欠けているように感じて釈然としなかったのですが、この本はひさびさにすごいエッセイを読んじゃったなあ、とノックダウンされました。 老いや生きることについて、真正面から佐野洋子の流儀で書いてあって、その真実をえぐる言葉の鋭さと、誰にもまねができない佐野洋子の視点に、ただひたすら「恐れ入りました」とひれ伏す気持ちで読みました。 以前のように長々と続くクセのある文体ではなく、かなり普通の書き方になって、エッセイストとしてはさらにスケールアップした感じです(←やたらエラソーですね、ワタシ)。 呆けて「自分は4歳」というお母さんを前にして考えた歳をとるということ、最期を目前にしても静かな愛猫の姿にひるんだこと、「ふるさと」というものへの複雑な想い(戦前の中国生まれだから)…真実をつく言葉に何度もウルッときました。 病院の待合室で読まなくてよかった。 といっても佐野洋子ですからね、フツーのお涙頂戴的なノリとは全然違うんですよ。 ケロッとすごいことを書ける佐野洋子って、やっぱり天才エッセイストだ。

老いや死についての冒頭部分が強烈だったのですが、佐野洋子ですから別に重いわけではないし、ほとんどは周囲の友だちとの日常を慈しむスタンスですから、怖がらずに佐野洋子を知らない人もぜひ読んでみてください。

12.1ちくま文庫しおり

本にはさまっていたしおり。 ちくま文庫のキャラクター? なんだか、らしくなくてカワイイ。 母は「カバ」と言って譲りませんが(笑)。

12.1山茶花

今年はウチでも山茶花(さざんか)がいっぱい咲いています。 
Category: 佐野洋子