喪失の物語 梨木香歩「海うそ」

眠りに落ちるまでのベッドタイム、毎晩ゆっくりゆっくり時間をかけて梨木香歩の「海うそ」を読み終わりました。 特に読みにくい本ではありませんし、長編といってもさほど長くもないのですが。

ストーリーを追うよりも、ゆっくり味わい、言葉を反芻し、頭の中で架空の島に流れる空気や湿度を感じ、植物が繁茂する風景を思い浮かべながら読む小説だと感じました。

4.30海うそ

舞台は鹿児島の(たぶん)南に浮かぶ架空の小島、遅島。 昭和初期、人文地理学の研究者である主人公は恩師の調査記録に興味をもち、遅島に滞在して、歴史や民俗、伝承、植物や地質を探査する。 胸の奥に深い喪失感を抱えた主人公は、遅島内に残る、廃仏毀釈によって暴力的に排除されてしまった修験道の寺院の痕跡を巡りつつ、何かが決定的に失われてしまった風景に自らの思いを重ねていく。 そして50年後、不思議な縁に導かれて再び島を訪れた主人公が目にしたのは…。

最後のページを読み終わって本を閉じたとき、書店でこの本を手にしてよかったとしみじみ思いました。 いろいろなことが重層的に描かれていて、スッキリしたカタルシスがあるような種類の小説ではありませんが、読み終わった後にじわじわと心の奥底にしみました。 東日本大震災後の心にぽっかり穴が空いたような喪失感について、きっと考えて考えて考えた末に、これが梨木さんなりの答えなんだろうなと受け止めました。

読後に心に浮かんだのは「さよならだけが人生だ」という言葉。 この言葉、そして出典元の漢詩「勧酒」が意味するのは人生を否定するものではない、改めてそう思いました。 大切な人、愛着のあるもの、心のよりどころになる場所、思い出の風景、人生のひとときを一緒に過ごしたのにいつのまにか会わなくなった友人や知人たち、そして健康や乳房といった身体のパーツ…。 人はいろんなものを失いながら生きている。 それは否定すべきことでも、目をそらすべきことでも、乗り越えるべきものでもない。 生きるということは本来そういうもの。 諦観とはまた違って、静かに「そういうもの」と知ること。 この小説の最後の最後にでてきたひと言にハッとしました。 あえて引用はしません。 興味をもった方は自分で読んでみつけてください。 でも、もしかしたら、まだあまりたくさんのものを失っていない若い人にはピンとこないかもしれません。

書店の店頭でなんの予備知識もなしに、この本に出会えてよかった。 梨木さん、ありがとう。 また、いつか読み直してみたいです。 そのときはどんな風に感じるだろう。

喪失感がテーマでありながらも、決してビターではないし、ニヒリズムに堕すこともない。 絶望でもない。 かといって前向きに生きていきましょう!といったメッセージでも、もちろんありません。 梨木さんらしさが詰まった小説世界。 梨木さんが好きという方はぜひ。


4.30狸谷

読み終わったのは4月末。 読了直後にたまたま行った狸谷山不動院で、小説の舞台を想起させるような雰囲気があるなあともろもろ胸に去来するものがあったので、古い写真ですがアップ。

4.30狸谷入口

山すその境内全体を包む神仏混淆の余韻。 山伏もいて。 日本における古い仏教=真言宗だからかな?



解体工事のすさまじい粉塵は窓を全部締め切っていても家の中にも漂い、空気が悪くて耐えられません。 家にいたくない…のに、光回線導入が思いがけず、いろいろ面倒なことになって、今日は工務店さん&電気屋さんと打ち合わせ。 路地奥の古い家って面倒くさいことがいっぱい! はぁ、ADSL打ち切りの6月末日までに無事に開通するんだろうか(ドキドキ)。

■いろいろな記事に拍手をありがとうございます!
Category: 梨木香歩

まさに身辺雑記 梨木香歩「不思議な羅針盤」

読書ネタは本当にひさびさ。 ぽつりぽつりと読んではいるんですが、なかなか感想を書けずじまいになっています。 勢い(?)をつけようと、まずは大好きな梨木香歩さんのエッセイ「不思議な羅針盤」の感想を。

3.24不思議な羅針盤

2007年から2009年に雑誌「ミセス」に掲載された梨木さんのエッセイ28本を収録した文庫本。 取りあげられているテーマは梨木さんらしい植物や生物について、あるいは社会情勢への危惧感、ふだんの生活から想起されたことなど、ジャンルも方向性もさまざま。 初エッセイ集(…かな?)「春になったら苺を摘みに」のような、きまじめな濃密さは薄くて、いわゆる「身辺雑記」といった感じ。 梨木ファンなら、著者のふだんの生活がかいま見えて十分に楽しめると思います。 病院の待合室で読むのにちょうどいいくらいのゆるさでした。

梨木さんはいいなあ。 自然へのまなざしがとてもステキだ。 そして、フラットというかニュートラルというか、何事も並列というか、例えば大人と子ども、人間と動物や植物…全部同じ価値をもつものとして接している梨木さん独特の繊細な距離感がとても好きです。 非常にまじめで、しっかり芯が通っていて、いわば正論を吐いているんだけれども、まったくお説教くさくならないのは、その柔らかなお人柄の故なんだなあ。 そして、そんな梨木さんが多くの読者を獲得していることにホッとしたりもして。

それにしても、行動力があるんだなあと、エッセイを読むたびに感心してしまう。 自分で車を運転して遠方へでも、人里離れた山の中へでも、どんどん興味の対象へ向かっていく人なんですね。 彼女が書いている小説から感じられるよりも、ずっとずっと行動的。 そして、いつも思うのは、エッセイに家族の気配がないこと。 意識して書かないんだろうけど、ここまで徹底している人は珍しい。  この本の中でも子どもがいることが一度だけさらっと出てくるけれど、「お母さん」であることを振りかざすようなところが一切ない。 潔いくらいに、まったく。 こういうスタンスも、女性作家としてはとても珍しくて好ましい。

初めて梨木さんのエッセイを読む人なら「春になったら苺を摘みに」か「水辺にて」の方が方向性にまとまりがあっていいかもしれません。 1編のエッセイの中でも、話がスライドしたりして、起承転結的な構成ではないからなのか、実は読んだとたんに細かい内容をケロッと忘れてしまっていて、本としてはあまり深い印象が残っていないのです。 


3.24貝母

クチナシの木の傍らで、今年も貝母(バイモ)がうつむくように花を咲かせています。 風にゆらゆら揺れる、はかなげな風情の草でありながら、意外に倒れたりしない。 何かにつかまりたそうにクルンと先端の葉を伸ばしている姿もいじらしい。 地味だけれど、独特の存在感があって好きです。

梨木さんが集合住宅の敷地内で、草の中に貝母(バイモ)の花をみつけたという冒頭の1編を読みながら、草むらにしゃがみこんで「ようこそ、ようこそ」と貝母の花に話しかけている姿が目に浮かぶようで(実際にはお顔も知りませんが)。 私もつい植物や小鳥に声にだして話しかけてしまうので、さらに親近感が湧きました。

今日はストレッチで心身を気持ちよくほぐしてきました。 そろそろ梨木さんの「海うそ」を抱えてベッドへ。


■いろいろな記事に拍手をありがとうございます! バセドウも落ち着いてきたようで、この3日ほどは本当にひさびさに「普通に元気」と実感できるようになりました。
Category: 梨木香歩

自意識過剰から解き放たれるには 西加奈子「うつくしい人」

ひさしぶりに何の予備知識もなく、本屋さんの店頭で気になって買ったのは西加奈子の文庫本「うつくしい人」でした。 特に好きな作家なわけでもないし、西加奈子ならもっと有名な本もあったのですが、ただなんとなく。 そういえば西加奈子って直木賞をとったんだっけなどと思い出して。



背表紙の「他人の目を気にして、びくびくと生きている百合は、単純なミスがきっかけで会社をやめてしまう。発作的に旅立った離島のホテルで出会ったのはノーデリカシーなバーテン坂崎とドイツ人マティアス。…」という紹介文を読んで、自意識過剰な姪2号のことがパッと頭に浮かんだんです。 どうすれば自意識から逃れられるのか、姪2号のヒントになるような本かもしれないという期待もありました。

こんなにスラスラと本を読めたのは本当にひさしぶり。 ものすごくおもしろい!というのではないのだけれど、重くてどんよりした前半部分にもかかわらず、サクッと読了。 これは私が精神的に回復してきたからか、梨木香歩のすばらしいエッセイで読書に弾みがついたからなのか?

3.19雨のサンシュウユ

自意識過剰、そして自己嫌悪と自己愛でぐちゃぐちゃに悩んだ経験のある人なら興味深く読めると思います。 私も多感な時期から、大人になってもずいぶん長い間にわたって自意識過剰でウジウジしていたので、主人公のバカバカしいような心の動きが理解できるんですよ。 「自意識、何それ?」というタイプの人は読まない方がいいと思います、主人公についていけないでしょうから。

前半のもどかしいような展開はもう少し刈りこんで短くしたら、もっとすっきりした構成になったのではという気もしますが、この面倒くさい前半部があるからこそ、後半、主人公が旅先で自らを解き放っていく心地よさが強調されるのかもしれません。 終盤に、マティアスとカートに乗って夜風を切って走らせながら無邪気に笑った主人公に、思わずホロリとしそうになって電車の中だったので慌てて目をパチパチしてごまかしました(笑)。 自意識の沼から自らを解き放った主人公と一緒に、読んでいる私も意外なほど気持ちよくなれました。

3.19雪柳の雨粒

何かが解決するわけでもないのですが、希望の光を感じさせる旅の終わり。 私もひとり旅がしたいなあ。 舞台はひょっとして直島かな? ああ、直島のベネッセに泊まりたいなあ。 最低でも2泊はしたい…けど、高いのよねえ。

3.19雨の馬酔木


昨夜から本降りの一日でした。 それでも驚くほど暖かで、植物が一気に動き始めました。 草木にとっては慈雨なんでしょうね。 私にとっての慈雨は読書…だったはずが、兄のことがあってからめっきり活字が読めなくなっていました。 最近続けて2冊読了できて、ようやく少し元に戻ってきたのかも。

陽射しや風を感じさせる詩のようなエッセイ 梨木香歩「水辺にて」

梨木香歩のエッセイ「水辺にて」。 これほど読み終わるのが惜しいと感じる本に出会ったのは、本当にひさしぶりです。




単行本のときから気になって何度も手にとりながら、なかなか買わなかったのは、カヤックでの川下りという行為にまったく興味がもてなかったから。 「梨木さんって意外にアウトドアなんだ」(自分が結構アウトドアというか山好きなくせに)と勝手に決めつけ、ちょっとついていけないかも…なんて思っていました。 ところが読んでみると、カヤックに乗った梨木さんは、いわゆるアウトドア系の人とはまるで違う世界に浸って、予想していたのとはまるで違う風景を眺めていたのでした。

もう一つ、梨木さんの小説を読んでいて「この人って本当に真面目な人なんだろうな」とたびたび感じていたので(「西の魔女が死んだ」とか「村田エフェンディ滞土録」は特に)、そんな真面目な人のエッセイってますます生真面目でついていけないんじゃないか、なんて思っていたんです。 しかし、ひょっとしたら小説よりもエッセイの方が著者は自由に心を泳がせられるのかもしれません。 先入観をもたずに、もっと早く読めばよかったと思う一方で、いまの私だから一層深く心に響いたのかもしれないとも思えます。

3.13ミヤマカタバミ

梨木さんらしい世界観、自然と人間の関係のとらえ方、いまは消えてしまった村や人たちの営みへの想像力、そして森や風・雪の匂い、生き物のひそやかな気配、陽射しの温もりを切りとる言葉のすばらしさ。 繊細な自然描写を読むだけで、たっぷりと深い森で深呼吸したようなみずみずしさが身体の細胞の一つ一つに染みこんでいくようでした。 ああ、好きだ、大好きだ、こんな文章! 最近めったに巡りあえないような文学的な表現にうっとり。 

冒頭でスウィフト「ウォーターランド」とその舞台が登場したり、私の大好きな星野道夫に触れていたりして、「おお、梨木さんとはやっぱり趣味が合うな」などと偉そうにニンマリ(何様だ、私は)。 また、水面の下に広がる世界へと傾斜していく心の動きなど、「家守綺譚」「冬虫夏草」「沼地のある森を抜けて」「f植物園の巣穴」とつながる著者独特の感性がかいま見えるのも、梨木ファンの読者にとっては興味深いところ。

と、また長文ダラダラ書いてしまいました。 でも、梨木さんもなんでも文字化しようとしてどんどん長くなっていく傾向らしく、一方的に親近感を抱いてしまいました。 そうそう書き始めると、あれもこれも書きたくなるんですよね(笑)。


わが家の庭で、今年もミヤマカタバミが咲いてくれました。 小さな小さな白い花が陽射しを浴びると薄い花びらを広げる。 その健気さが毎年みても、しみじみ愛おしくて、ひざまずいてまじまじ見入ってしまいます。 梨木さんだったら、森の中を歩きながらも、こういう小さな花を足元にパッとみつけるんだろうな。 梨木さんと一緒に森を歩いてみたいなあ。


3.31サンシュウユ

サンシュウユももうあとひと息で咲きそう。


■いろいろな記事に拍手をありがとうございます。
Category: 梨木香歩

戦時下の庶民の生活 中島京子「小さいおうち」

直木賞作品の中島京子「小さいおうち」が文庫化されていたので読んでみました…て、最近こればっかり。 何を読んでいいのか勘が鈍っているから、芥川賞や直木賞受賞作は文庫化を待ってとりあえず買ってます。 読んでいる途中はおもしろいような退屈なような微妙な感じで、最後の章で印象がガラッと変わる小説でした。



昭和初期に東京に建てられたモダンな洋風住宅を舞台に、若い女中タキが美しい奥様にお仕えした日々――家政婦一筋に生きてきた老齢のタキの目から語られる、きらめくような懐かしい記憶のかけら。 刻々と厳しさが増す戦時下にもかかわらず、輝くような魅力を持った奥様のもとでの暮らしは意外なほど明るいものだった。 旦那様に連れられて現れた青年が、静かで充足したタキの生活に小さな波紋を引き起こして…。


読んでいる最中は正直、まどろっこしいような話の進展にときどき眠気を誘われたりしたのですが、最後の章で一転して(ほぼ予想したような展開であったにもかかわらず)不覚にも電車内でホロッとしました。 本を閉じてから後もしばらく悲しいような温かいような複雑な余韻があって、読後感はなかなかのもの。 戦争を背景にしていること+この読後感で直木賞をとったんだなと納得。 まどろっこしい感じがするのは、意図的に素人語り風に書いてあるからなんでしょう。 Amazonのレビューに最後がはっきりしないのがイヤだという意見がいくつかありましたが、「タキは○○と考えて××したのでした」なんて最後にハッキリ書いてあったら、思い切りしらけると思うけどなあ。

一応ほめてるんですけど、では「この小説が好きか?」と問われれば返答に困るのです。 なにかピタッとこない感覚。 よーく調べて書いたんだなということはわかるんですけど。 この人の作風がどうも好みに合わないみたいです。

もやっとした気分を抱きながらも、庶民が戦時下でも案外のんきに暮らしていたことなど時代背景を知ることもできるので、やっぱりこの小説は読まれるべきなのではないか、そんな風に感じました。 一読の価値はあります。

9.6ツユクサ

宮崎駿もインタビューで、当時はみんな「まさかアメリカと戦争するなんてことにはならない」と浮かれていた、そして気づいた時にはもう後戻りできないところまでいってしまっていたというようなことを言っていました。 危機感の欠如って日本人の得意技なのか? 福島の原発での汚染水問題だって、もうずっと前からわかっていたはずなのに政権が代わっても原発再稼働ばかり熱心で廃炉のことは放置。 それで、オリンピック招致の最終プレゼン直前になって突然、政府が乗り出すなんていかにもポーズって感じ(それでも何か対策をとる方が放置するよりずっといいけど)。 日本の政府はいつも外国から何か言われないと動かないのね。 オリンピック招致の空騒ぎに違和感たっぷりの私は、ひとりブツブツいってます。

ものすごい暑さの後は雨、雨、雨。 雨が上がったら突然、秋!? 何を着たらいいのか戸惑うばかり。


■いろいろな記事に拍手をありがとうございます!

社会からこぼれ落ちた青年に明日はあるのか 乃南アサ「ニサッタ、ニサッタ」

本屋さんでみかけて買おうかどうしようか、ずいぶん長いこと迷いました。 乃南アサ「ニサッタ、ニサッタ」。 文庫本の帯は「悪いことなんかしていないのに、どこまで転げ落ちるのだろう? 現代日本で働く若ものをリアルに描く長編小説」。 なんか重苦しくて暗そう。 でも、表紙の装丁は明るいし、乃南アサなら読後感が悪いということもないのではと考えて読んでみました。

 

大学卒業後に就職した会社を些細なことで辞め、転職した会社が倒産。 派遣会社に登録していろいろやってみるものの、自分が悪かったり運が悪かったりでどこも長続きせず、挙げ句の果てに派遣会社の担当者と喧嘩してクビになってしまった主人公・片貝耕平。 金欠でアパートの更新ができなくなり路頭に迷った末、パチンコで一発逆転を狙うが…。 サラ金に追われた耕平が流れ着いたのは、都会の片隅にある新聞配達所だった。 やっと腰を据えてまじめに働き始めた耕平だったが、思いがけないトラブルに巻きこまれ、再びあっさり勤めを辞めてしまい…。

要するに、考えが甘くて自分に甘い、そして何か起こると他人のせいにしてしまうようなイマドキの若者がどんどん坂道を転がり落ちていってしまう話です。 主人公にはまるで共感できないし、同情もまったくできません。 読んでいると、主人公を説教したくなってきます、世の中なめるなよって(笑)。 でも、おもしろかった! 上下巻を一気読みしました。 最後は主人公と一緒にホロッと泣きました。 おすすめです。

ホームレス寸前のギリギリまで落ちていく主人公。 日頃の心がけが悪いからとはいえ、一歩間違えば他人事ではないと切実に思わされました。 重いテーマなんですが、どこかカラッとした筆致なので深刻になりすぎず、最後にはちゃんと救いがあるので(解決にはなっていないのだけれど)安心して(?)読めます。 100歳近いお祖母ちゃんの言葉と手の温かさに主人公と一緒に癒されました。 やっぱり核家族より三世代同居の方がいいのかも。

4.2山吹

庭でいっせいにいろんな花が咲き始めて、東京での仕事のテープ起こしをするべきなのに気もそぞろ。 小雨の中、カメラをもってあっちでパチリ、こっちでパチリ。 最近、ファインダーをのぞきながら、長田弘の詩「世界はうつくしいと」の一節が何度も何度も心に浮かびます。 春の雨が降る午後にみる山吹の黄色はひときわうつくしい。


■拍手をありがとうございます。

春の庭の片隅で 長田弘「世界はうつくしいと」

仕事が暇すぎて不安になりそうなんだけれど、気温が急上昇して植物が一気に芽吹いて花を咲かせ始めたので、水やりしたり植えたり掘ったり雑草抜いたり常緑樹の落ち葉を掃いたり、庭仕事だけでも結構時間をとられています。 加えてお習字の練習も家で週に2回はしていて、始めれば熱中して2時間くらい字を書いているし、時間があればこぎん刺しの在庫消化もしているし、たまには気合いを入れて本を整理しようと大葛藤の末に200冊ぐらい文庫本を捨てたし。 不安になっている暇がありません。 いいことです。

東京はもう桜が満開なんですって、ビックリです。 京都は一分咲くらい。 早咲きのものは満開で、他の桜はようやく咲き始めたところです。

3.25雪柳

わが家の庭では雪柳が咲きこぼれています。 雪柳は葉っぱのやわらかな緑もきれい。 そよ風に揺れる雪柳をファインダー越しにのぞいていて、ふと先日買った長田弘の詩集「世界はうつくしいと」を思い出しました。

最近、私に欠乏しているのは美しい言葉や表現だという気がして、小説よりも詩が気になっていて。 でも、詩人ってほとんど知らなくて、本屋さんで何気なく買ったのがこの詩集でした。

うつくしいものをうつくしいと言おう。
風の匂いはうつくしいと。
…(略)…
遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。
…(略)…
何ひとつ永遠なんてなく、いつか
すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。


詩集全体としては「大好き!」というのではないのだけれど、タイトルにもなっている「世界はうつくしいと」と「カシコイモノヨ、教えてください」は深く心に残る詩です。 長い長い喪が明けたような私にとって、今年の春はこれまで味わったことがないほど胸にしみる美しさ。 それを平易な言葉で結晶させた詩だと感じました。 興味のある方はぜひ一度読んでみて欲しいです。 震災で家族を亡くされた方の目にも、いつか春がこんな風に映りますように。

3.25ラッパ水仙

いままさに咲こうとしているラッパ水仙の形も美しい。


3.25藪椿

巣作り中のヒヨドリやメジロにつつかれず、木陰できれいに咲いた藪椿の赤も美しい。


3.25ハコベ

一抱え以上もある山桜の老木の足元で、ひっそり咲いているハコベも美しい。

和風マジックリアリズム 西加奈子「炎上する君」

本屋さんの店頭で目にとまった文庫本、西加奈子の短編集「炎上する君」。 ずっと以前に「さくら」を読んだだけで、特に読みたいと思わずにいたんですけど、あまり重くない(重量的にも内容的にも)文庫本を読みたい気分だったのでなんとなく買いました。



収録されている短編はいずれも不思議なテイスト。 ちょっとだけ寓話風味をまぶした物語です。 主人公は自分を取り巻く人や環境とうまく折り合いをつけられないような、生きることに不器用な人たち。

最後の短編「ある風船の落下」が一番気に入りました。 全体を通して淡々と乾いた語りで、最近よくある安易な「泣けるいいお話」というのではないところがよかったです。 ただ、文章の味わいというか、生理的な好みというか…この人の不思議テイストが私にはピタッとこなかった。和風のマジックリアリズムとでもいったらいいのかな? 南米の小説は自分が生きているところとはあまりにも違うから、日本人の私が読むとよけいに寓話感が強まるのかも…とこれを読んで気づきました。 身近な風土が背景だと、なんとなく生々しい感じで浮遊感が薄まるような。 最初の「太陽の上」が「あなた」を主語に書かれていて、この手法は多和田葉子の「容疑者の夜行列車」と同じなんだけど、やっぱりそれだと多和田葉子の文章の方が密度が濃くて心ひかれるものがあったなあ。  

これから読もうかなと思っている方は、絶対に巻末の解説を先に読んではいけません。 どれもとても短いお話なのに、ご丁寧にあらすじがきっちり全部書かれているので。 こんな解説、ありえない。


1.7街路樹

世の中は今日から本格的に仕事が始まったようですが、今年の私は「え、いまやっと仕事始め?」って感じ。 今年は2日から仕事を始めて5日は午前2時まで粘り、6日の午後早めに完了。 なかなか私にはむずかしい内容だったので必死。 「集中できた」という感覚がとてもひさしぶりに味わえて、ひさしぶりに締切ギリギリでない時刻に仕上げられた自分に満足しました。 こういう感覚って、とても大事なんですね。 ずいぶん長いことトンネルの中状態だったので、自分の仕事ぶりに満足するというほどでもないけど、達成感というか、きっちり一区切りついたという気持ちがすがすがしい!

ということで、今日はオフに。 運動不足解消のため、本屋さんを目指して片道2.5kmを大股で歩いて片道30分。 汗ばむくらいのペース。 夕空を見あげたら、街路樹に花? 花殻? 冬空をバックにしたシルエットがきれいでパチリ。 ついでに、ブログにひさびさに読書記録を書いてみました。

■拍手をありがとうございます。

結婚って何?というソボクな疑問 中島たい子「結婚小説」

図書館でバラバラの時期に予約した本がいっせいに揃ってしまい、珍しく現代の日本女性作家の本をまとめて3冊読むことになりました。 どれから読もうか迷ったのですが、仕事の途中に読んでも気分的に落ちこまなさそうな中島たい子「結婚小説」から。 この本は、確か新聞の書評を見て興味を持ったのだったっけ(記憶あやふや)。

3.6結婚小説

あまり売れていない地味な小説家・本田貴世は、担当編集者から「次作は『結婚小説』を」と依頼されますが、自分自身がアラフォーで独身=いわゆる「負け犬」であるゆえに「結婚」をテーマにした話がどうしても書けません。 そんなとき、友だちから頼まれて妙齢を対象とした蕎麦打ち見合いパーティーにサクラとして参加。 その場で急性蕎麦アレルギーで倒れたことが、思いがけずドキドキするような出会いを引き寄せて…。 貴世は結婚小説が書けるのか? そして”自分にとっては北極星よりも遠い”と思っていた結婚ができるのか!?

うへへ、アラフォーやや上の独身のワタシが「結婚小説」を読む図…は少しばかり恥ずかしいので、家で読むだけなのにカバーをかけちゃいましたよ。 明るいユーモアを交えた軽妙な語り口が楽しく、またストーリーとしても「それで、あんたはどうするの?」と主人公の動向が気になって気になって、あっというまに読み終わりました。 とても軽い読み心地なのに、結婚というものについて改めて考えさせられる小説でした。 それにしても、読んでいる間は「わかるわかる!」と、うなずきすぎてむち打ちになってしまいそうなほど(笑)、微妙な年頃の女の内心をうまく書いています。

3.6雨の馬酔木

単なるユーモア小説のようにみえて、実は、いま、この2010年の日本でなくては成立しない現代的なテーマを扱った、芯のある小説です。 主人公が下した決断に共感するかどうかは、人それぞれ。 読み終わって反発を感じる人も多いと思います。 ワタシも主人公たちの幸せな姿にホッとしながらも、「大賛成!」と諸手を挙げることはできず、10年後の貴世はどうなっているのか、とても気になりました。 それにしても貴世のカレ、ステキすぎます。 ワタシもこんな方と知り合いたかったわ。 でも、現実にはこんな男性、いないよ…。

働く女性にとって「結婚って何なの?」という素朴な疑問について、読者ひとりひとりが考えるきっかけにになる本です。 独身のアラフォー世代の女性に、特におすすめです。

3.6雨のクリスマスローズ

暖かな春の雨に打たれて、昨年一目惚れして買ったクリスマスローズが咲きました。 つぼみのまま1ヶ月?2ヶ月? やっとやっと会えた気分。

ふつうの短編集 西川美和「きのうの神さま」

前回の直木賞候補で、やたらに評判がいい西川美和「きのうの神さま」。 初めて読む著者なのに、珍しく期待いっぱいで単行本を買いました。 が、う~、読む順番が悪かったのか、期待が大きすぎたのか、近頃、集中力が欠けているワタシの頭のせいなのか。 重くて濃い長編小説「ヘヴン」で頬を張られたほどの衝撃を受けた直後に読んだために、この静かな短編集をじっくり味わえなかったのかもしれません。

1.24きのうの神さま

僻地医療を題材にした映画「ディア・ドクター」と同じ題名の作品も収録されていますが、映画のノベライズではなくて、まったく違う話だそうです。 収録されている作品はいずれも僻地医療そのものがテーマというわけではなく、僻地医療という素材を通して、さまざまな人生の一瞬を切りとろうとしています。

「ディア・ドクター」は映画「ゆれる」と同じ題材=大人になった兄弟の心の微妙な距離感を描いた作品で、これが一番心に残りました。 映像の人なのに「小説の書き方がうまい」とは感じましたが、描き方も言葉の選び方にも特に新鮮なところがなくて、小説家でこれくらいの短編なら書く人がいくらでもいるような気がするんですけど…気のせい? ワタシの目が節穴なのか?? ま、ワタシには合わなかったということです…ひさびさに単行本を買ったのに。 映画「ゆれる」はなかなかおもしろかったから(「ディア・ドクター」はみてない)、これからもおもしろい映画を作ることをメインに活動していって欲しいです。 この短編集も映画制作のための取材費捻出するべく書いたようですから(前借り?)、映画の副産物みたいなものらしいです。

1.24芙蓉の実

土曜日は母が作品をだしている写真展をみに大阪まで行ってきました(残念ながら母の写真はリンク先のスライドショーには出ていません)。 80歳を超えたジジババばかりの作品展なのですが、みなさんの感覚がとても若いことに本当に驚きました。 そして、思い切り絞ったアンダーな写真がもつ重み、プロのカメラマンがプロラボに指示して焼かせたプリントの美しさも再認識しました。 芙蓉の種の写真(上)なんて、母の先生なら「こんなしょうもないもん見たくない」とバッサリなのは必至だわ(笑)。 思いがけず多くの方が来てくださっているようで、それも驚きでした。 誰にでも場所を貸すギャラリーとは違うから、それだけ写真好きな方がよく足を運ばれる場所なんでしょうね。

■HP作成への応援(?)拍手をたくさんありがとうございます! 各ページの枠は作れて、それぞれをリンクで結べたんですが、肝心の中身がない…もうちょっと羊毛でいろいろ作らないとページが埋まらないことに、いまさら気づいたのでした。 相変わらず途中でフリーズして記事が半分消えたりして、やたら遅くなったので、個々のお返事はまた明日にでも。