若ければ共感できるかも 宮下奈都「太陽のパスタ、豆のスープ」

今夏は暑さが厳しくて読書はほとんど進まず。 そんな熱帯夜が続いていた8月、眠れない夜にぼつぼつ読んでいたのが宮下奈都の小説「太陽のパスタ、豆のスープ」でした。 本屋大賞の「羊と鋼の森」を読んで、宮下奈都が自分の好みに合うのかどうか判断がつかず、もう1冊読んでみようということで、評判が良さそうなこの本を手にとりました。

ダラダラとちょっとずつちょっとずつ読んでいて、かといって放りだすほど退屈というほどでもなく…もやっと曖昧な感想で、ブログに書かないままになっていました。 

8.26太陽のパスタ、豆のスープ

結婚式目前で突然、婚約者から一方的に婚約解消を言い渡されたアスワ。 なぜ?と落ち込んでも理由はわからず、腰かけ気分で勤めていた会社では婚約解消されたことで居心地が悪くなり、すっかり不幸のどん底気分。 そんなアスワに叔母のロッカさんがすすめたのが「ドリフターズリスト」作成=「やりたいこと」をリストアップすること。 特にやる気がないまま、いつのまにかユニークなロッカさんのペースに乗せられて…。 20代の平凡な事務職OLが自らの足で人生を歩みだすまでの再生の物語。


重厚な読書をする気力がないときにはちょうどいいくらいの軽さ。 高校生から20代くらいの女の子が大失恋した後に読んだら感情移入できるかもしれません。 私はこの小説を楽しめるほどピュアじゃないんだよな、というのが正直な感想です。

この著者は本当に真面目な人なんだなあ。 その生真面目さ、真っ当さは嫌いではありません。 でも、食べることは生活の基本で大切にするべしとか、小説で伝えたいことがあまりにも真っ当で、描き方もストレートすぎて、うーん…。 ちょっと説教くさくなりかかってる気がしました。

タイトルをみて、一時流行った美味しそうな料理の描写が満載の小説かと思ったのですが、そうでもありません。 料理のシーンがあまり美味しそうじゃないのも残念な感じ。 「やりたいことリスト」も以前、このブログで取りあげたことがあったので「お!」と興味をもって読んだんだけど、特にどうということもない展開で。 驚いたのは、実在の豆屋さんが店名もそのままで小説ででてきたこと。 私も買いに行ったことがあるお店だったから。 あの店の豆料理キットをどこかでみかけて、小説のアイディアを得たのかな。 

9.14高砂芙蓉

一番心に残ったのは、「結婚していない、ちょっと変わり者の叔母さん」の存在感。 あれ、私もひょっとして姪からみたらこんな感じなのかな?(笑) ただ、「姪と独身の叔母さん」という関係性では、以前読んだ梛月美智子「るり姉」の方がずっとしっくりきた記憶があります。 いま思えば「るり姉」って、まるで私のことだった…あの頃は体内に得体の知れないものが巣くっているなんて知りもせず他人事だったんだなあ。 人生って何が起こるか、ホントにわからないものです。


上の写真は、近所の買い物で通りかかる家の前でパチリ。 何の痕跡もないアスファルトや石段の隙間から夏の終わり頃になると突然、緑の葉がニョキニョキとでてきて、あっという間に花を咲かせる。 その生命力がすごいなと、毎年足を止めて眺め入ってしまいます。 木槿(ムクゲ)をひとまわり小さくしたようなこの花は、調べてみると高砂芙蓉というらしい。 今年、種がついたら分けてもらおうかな。


9.14ステッチ中

刺繍熱はまだまだ続行中。 針先から花を一輪一輪咲かせるみたいで、やっぱり花を刺繍するのはとても楽しい!


■いつも拍手をありがとうございます! ひさびさの読書メモなのに、あまりおすすめじゃなくてすみません。 いまは「帰ってきたヒトラー」を読書中。 これもなんだかなあ…。

良くも悪くも素直でまっすぐ 宮下奈都「羊と鋼の森」

本屋大賞を受賞したというニュースで初めて存在を知った宮下奈都「羊と鋼の森」。 タイトルがピアノという楽器を表現していると聞き、さらにこの装丁がステキで迷わず買いました。 著者の名前もよく知らなかったのですが、この小説は直木賞候補になったのですね。

7.19羊と鋼の森

クラシック音楽もピアノの音色もほとんど知らなかった高校生が、たまたまみた調律師の仕事にひかれて調律師を目指すことを決意。 主人公の男の子が先輩たちに囲まれた職場で一人前の調律師になるまでの日々を丹念に描いた静かで優しい成長物語。

いつもはくどい私でも、サクッとひと言でまとめられるくらい(笑)波乱も事件もほとんどなし。 読み終わっての感想は、いまどき珍しいほどにスーーーッと素直なお話。 時系列に沿って淡々と主人公が考えたこと、成長していく過程が描かれていて、ひねりやドラマチックな展開など一切なし。 とっても素直でまっすぐ、徹頭徹尾、真っ当。 宮下奈都さんっていい人なんだろうなあ。 これほどまっすぐなストーリーをさほど飽きさせずに最後まで読ませる力量はなかなかのものかもと思ったりしました。

最後まで読んで、素直すぎて少し物足りなさを感じました。 では不満だったかというと、不思議なことにそうでもないのです。 音楽という言葉にならないものを詩的な言葉に置き換えるようとする著者のセンス、結構好きです。 この人の静謐な詩的表現が心地よくて、散文というより長い詩を味わったような読後感でした。 人間存在の根幹に分け入るような力強いメッセージがなく、全体的にふわっと軽い感じなので、直木賞を受賞しなかったというのは納得。 暗い重い話は気が進まないというときの読書にちょうどいいくらいです。


7.19ハナセキショウ

一目惚れして買ってから、一度も花をつけなかったショウキハナセキショウが、いつのまにかこっそり咲いていました! もう少し大きな植木鉢に植え替えてやらなければと思いつつ、数年以上経った気がします(ごめんね)。 他の草木が茂って埋もれるように隠れていた小さな小さな純白の花をみつけたときは、一人で「ワーッ♪」と小声で歓声をあげてしまいました。 ささやかな幸せをみつけた気分。 もう枯れてしまうのではと思っていたのに、また花をみせてくれてありがとう、ありがとう。 リビングから一番よくみえる位置に移動させて、朝な夕なに眺めています。 なんて可憐な花なんだろうと、うっとり。


■いつも拍手をありがとうございます。 京都は梅雨明けしたら、蒸し風呂状態が少しましになりました。 みなさまのところはいかがですか?

ジグソーパズルを埋めるように 湊かなえ「花の鎖」

読みたい本がひとつもみつからない、ショッピングモール内の不思議な本屋さんで、店頭にどっさり平積みしてある中から選んだのが湊かなえ「花の鎖」。 すごいベストセラーを連発しているけど、この人が書くものってドロドロでちょっと…だったのですが、カバーに書かれているあらすじをみて「これなら読めるかも」と買ってみました。



両親を亡くし、さらにいま唯一の身内である祖母までが癌と宣告された梨花。追い打ちをかけるように倒産で仕事まで失ってしまってお金に行き詰まい、ふと母に毎年豪勢な花束を贈り続けた謎の人物「K」に金銭的助力を頼もうとするが…。 梨花と、子どもができずに心が晴れない専業主婦の美雪、絵画教室の講師と和菓子屋のアルバイトをする紗月という3人の女性の話が交互に描かれていきます。 3人を結ぶものとは? 「K」はなぜ花を贈り続けたのか?

伏線がいっぱい散りばめられていて、ひと言でいえばパズルのような小説。 ミステリと呼ぶほどの謎があるわけではないので読了後のカタルシスがあるわけでもなく、深い読後感があるわけではありません。 でも、作中でいっぱいでてくる「K」を頭文字にもつ人物の中の誰が問題の「K」なのか、花束の意味は何なのかをひたすら追って読みました。 読ませる力のある作家なんだなとは思いました。 血なまぐさくないし後味も悪くないので、退屈しのぎにちょうどいい感じ。

10.6金木犀
 

9月下旬から仕事がギューッと詰まって、複数のまったく関係ない仕事が同時進行。 先週は大嫌いなテープ起こしに集中。 今週月曜日はお昼と夜に別件の仕事が…む~、頭が煮えそう。 いえいえ、実は言うほどじゃないんです。 夜は打ち合わせを兼ねた会食なんだから。 ただ最近、歳のせいか、頭のキャパがすぐにオーバーして煙が出そうになるだけ。

アベノミクスだかなんだかしらないけど、私の仕事は今年に入ってからめっきり減りギャラは確実に下がっている(怒)。 ニュースをみると福島の原発からは連日、汚染水が漏れまくってて、いまだに有効な手立てもみつからないままというのも腹立たしい。 誰だ、オリンピック招致で自信満々に「Under control」なんて言ったのは! 視察に行っても「5号機・6号機の廃炉」って…そんなことより壊れている原子炉の方が緊急の課題でしょう? 仕事で気が立っているからか、見せかけのパフォーマンスばかりでイライラしっぱなし。 本気で世界恐慌が心配な今日この頃です。


■いろいろな記事に拍手をありがとうございます!

読めば必ず文楽がみたくなる 三浦しをん「仏果を得ず」

三浦しをんの「仏果を得ず」が文庫化されている…でもなあ、この表紙の感じからして、いつも以上に漫画チックなんだろうな、私には合わなさそう…。 本屋さんで平積みされていて、買うか買わないか何度も迷った末に「文楽を題材にした青春小説ってどんなものなんだろう?」という好奇心に負けて買いました。



30歳の健は文楽の養成所出身の若手義太夫。 文楽とは無縁だった不良高校生の健は修学旅行で文楽を嫌々ながら鑑賞することになり、師匠となる銀太夫の語りに雷に打たれたように魅入られ、それ以来寝ても覚めても頭の中は文楽でいっぱい。 ある日、銀太夫から三味線弾きの兎一とコンビを組むことを厳命される。 気むずかしくて心を開かない兎一との関係や、語るべき登場人物に思いを重ねられない文楽修業の悩みは尽きなず、さらに突然目の前に恋まで降ってきて…。

伝統芸能・文楽の異色で、かつ王道の青春小説です。 文学としての深みはないけれどスラスラと読みやすくて、読後感もさわやか。 各章が有名な演目にからんだ設定なので、読み進むうちに自然にまったく知らない文楽の世界に触れることができて、読めば必ず文楽をみたくなります。 文楽の予備知識ゼロだったせいか、ちょっと出だしに戸惑いましたが、あとは三浦しをんらしく読みやすさ抜群(キャラが漫画っぽいのが少し気になるけれど)。 肩が凝らないおもしろい小説が読みたい人におすすめです。

主人公が突如、自分でもおかしいと思うほど義太夫で頭がいっぱいになってしまうという心境、なんとなく分かる気がします。 いま、私は書道で頭がいっぱい…て単純なだけ?(笑)

6.17紫陽花

土曜日はほんとうにひさしぶりに一日しっとり雨降り。 連日の猛暑日とカラカラ天気でグッタリしていた植物も人も少し息を吹き返せたけれど。 今年の紫陽花はせっかく一番きれいなときに雨がまったく降らないまま満開を過ぎてちょっとかわいそう。

今朝は4時起きでコンフェデレーションカップ観戦。 ああ、なんか以前の日本に戻ってしまってる…。 守備と攻撃をつなぐ人がいないのね。 遠藤も香川も何もできなかった。 ぐったりして、また寝直したら一日が短かった。

■いつも拍手をありがとうございます。
Category: 三浦しをん

無敵の小1にやられた! 万城目学「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」

ひさびさに読み終わりたくない本に出会いました。 期待せずに読み始めたんですけど、万城目学「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」。 すごく好きです、こういう小説。



小学校に入学して出会ったすずちゃんと「ふんけーの友」になった、かのこちゃん。 すずちゃんを招いてお茶会(?)をしたり、へんてこな遊びを考えたり、新しいことの連続の毎日を元気いっぱいに過ごします。 誰でもが経験した小学校1年生の日々、うれしい出会いがあれば、切ない別れもあって…。 かのこちゃんと、かのこちゃんの家の猫・マドレーヌ夫人の視点で語られる小さな喜びや悲しみを温かな筆致で描いた小説です。

安っぽいハートウォーミングな話じゃなくて、しみじみよかったです。 冒頭にマドレーヌ夫人が登場したときは「ふーん、それで?」という感じだったんだけど、かのこちゃんが登場したら、やられました…かのこちゃん、生き生きしてすごくいい! 本の帯の「無敵の小1」という表現がピッタリ。 かのこちゃんとお父さんの会話も楽しかった。 脇を固める、飄々としたお父さん、おじいさん犬の玄三郎もいい味だしてます。 遠い記憶の彼方で忘れてしまった子どもの頃の気持ちが甦ってきますよ、きっと。 万城目学ってこんなの書けるんだあ。 読んだのは「鴨川ホルモー」だけ、映像でみたのはテレビの「鹿男あおによし」(すごくお気に入りだった)だけだから、たいして語れないけど。


5.1紫のヴィオラ

今日から5月ですね。 どんより曇って風が冷たくてかなり寒かった…気温が3月下旬並みだったとか。 今年は気温がほんとうに不安定ですねえ。 1週間ぶりに書道の練習をして、午後からは2ヶ月分の墨汁と紙を買いこんできました。 ヒマ期に突入して、さて明日は何をしようかな。 花粉が気になって、なかなかできなかったウールのセーターのまとめ手洗いでもやろうかな。

■拍手をいつもありがとうございます。

作家・水村美苗の原点 水村節子「高台にある家」

毎夜少しずつ少しずつ読んでいた水村節子の「高台にある家」。 少し前に、1ヶ月近くかかってようやく読了しました。 作家・水村美苗の母・節子が老年になって自らの幼少から青春時代を振り返って書いた私小説です。 



実は一度挫折した本です。 作家・水村美苗の作品を読んだことがない人には退屈だと思います(私がそうだった)。 もともと間違って買った本なんです。 水村美苗の本を読んでみたいと思っていたんだけど、名前さえあやふやで「水村なんとか」としか覚えていなくて、本屋さんでこの本をみつけて「これこれ!」と買ったものの、読み出したら、なんだか素人っぽくくどくどとした表現で、イラッとして著者略歴を見直してやっと間違いに気づいた…とほほ。

途中で放りだしたんだけれど、水村美苗の「本格小説」を読んだら「美苗のお母さんという人はいったいどういう人なんだ!?」というのが気になって気になって(笑)再読。 書き方はまどこっこしいのですが、最後まで読むとそれなりに納得できるというか満足できる内容でした。 著者本人がそうであったように、意図的に節子の目から見えないように隠されていた家族の影の部分が最後の最後になってようやく明らかになり、ややこしく入り組んだ人間関係がストンと腑に落ちます。 貧乏人と異様なほどの金持ちがごっちゃになった親戚、戦前の庶民やお金持ちの生活が渾然一体となって味わい深く立ち現れてくるような、不思議な読後感でした。 娘である美苗のあとがきまで含めて「本格小説」のモチーフがちりばめられているので、「本格小説」の副読本という感じで読むとおもしろいと思います。 くれぐれも読む順番を間違えないように(笑)。

4.2春蘭

いつのまにか春蘭がスクッと首を伸ばして、地味な花を咲かせていました。 去年だったか一昨年だったか、群れ咲いてむせかえるほどの甘い強い香りを振りまいていましたが、今年は3輪だけ。 香りを感じないのは気温や湿度の影響?

4.2八重咲き水仙

祖母が植えた八重咲きの水仙が今年は咲きました。 ぜんぜん違う場所で勝手に芽をだして花を咲かせています。 毎年、蕾のままでなかなか咲けなくて、そのまま枯れてしまったりするんだけど、今年はなんとか咲けてホッとしました。

■いろいろ拍手をありがとうございます。

企みに満ちた長編 水村美苗「本格小説」

水村美苗の小説を手にとる気にはなかなかなりませんでした。 だってデビュー作は「續明暗」だし、「私小説」とか「本格小説」とか、なんか読みたくなるようなタイトルじゃないんだもの。 辻邦生が好きなのに、辻邦生と水村美苗の往復書簡集にも手を伸ばさずにいました、なんとなく。 だいたい、この人の文庫本ってあんまり本屋さんでみかけないし。 ところが「新聞小説」という新作が話題になって、文庫本も新しく刷ったみたい。 新潮文庫「本格小説」は上下巻各600ページ近く、2冊で普通の単行本より高いくらい。 これでおもしろくなかったらイヤだなあ…と心配しながら買いました。

結論からいうと、予想外に(?)おもしろかったです。 

 

戦後直後の日本で貧しくみじめな境遇に育ちながらも、日本の高度成長以前に単身ニューヨークに渡って運転手から独力で大富豪になった東太郎。 幼い日をともに過ごした金持ちの隣家の娘・よう子への思いを胸に日本へ戻った太郎は、よう子の一族が豪華な別荘で夏を過ごす軽井沢に現れる。 そして、やがて悲劇が…。


ひさびさに長編小説の世界にひきこまれて夢中で読みました。 長くて読み応えがある本を探している人におすすめします。 ただ、これほどひきこまれて読んで、これほど後に何も残らないってどういうことなんだろう?と、読んだ後に釈然としない気分になったのも事実。 とはいえ、読む快楽は与えてくれる本です。

2.25誕生日の花束

この釈然としない読後感は、この小説がブンガクに挑戦して書かれたものだからかもしれません。 序章として「本格小説が始まる前の長い長い話」が冒頭200ページ以上続く目次をみてなんか嫌な予感が…。 実際に読み始めてすぐはちょっとまどろっこしくて退屈なんです、話がどこへ向かっているのかさっぱり分からなくて。 著者本人や家族の話が延々と続いて「なんなのこれ?」って感じで。 ところが読み進めていくと、その私小説的な部分が妙におもしろいんですよ。 だんだん主人公の東太郎なんてどうでもよくなってくる。 それが著者の狙いの一つ。 私生活を書いているかのような日本的私小説を意識して書いていると、小説の中で書いているんですから。

「私小説」という枠の中に、「私小説」の対極とされる「本格小説」を入れこみ、さらに物語の語り手が入れ子のようになっているという凝った構成。 文学的な試みとして練りに練った構造になっています。 ミステリではないのに、なにかモヤッとしたものを抱えたまま読み進めて後半になると、前半で巧みに張りめぐらされた伏線が頭の中でチカチカッとひっかかってくる。 構造は凝っているけれど表現は平易なのでスラスラ読めておもしろい。 でも、中身がない!←これも、著者はちゃんと意識しているらしい。 内容は本文中にも書かれているように「嵐が丘」の日本版に挑戦していて、でも「嵐が丘」を越えてはいない。 あの長い序章がなかったら単なる昼メロに堕していたと思います。 詩的な味わいも特にない。 ということで、満足したのかしなかったのか??

この感想を読んで「なにをいってるのか、わけがわからん」と思った方はどうぞ読んでみてください。 一読の価値はあります。


写真の花は、少し前、母の誕生日に贈ったプーゼの花束。 アンニュイな雰囲気が高級避暑地だった往時の軽井沢にあっているかなと思って。


■いろいろな記事に拍手をありがとうございます。 自慢話にもつきあっていただいて恐縮です。

青春小説の王道 三浦しをん「風が強く吹いている」

三浦しをんは好みではないのだけれど「まほろば駅前多田便利軒」が意外におもしろく読めたので、話題作だった「風が強く吹いている」を続けて読みました。



箱根駅伝を目指す弱小陸上部のユニークな面々。 ボロアパートの合宿所を舞台にして、元旦の駅伝出場へ向けて切磋琢磨し、ときにいらだったりケンカしたり、お酒を飲んでバカ騒ぎをしたり恋をしたり。 そして、運命の元旦。 はたして弱小チームはゴールにたどり着けるのか。

箱根駅伝を真正面から描ききった正統派の青春小説です。 すがすがしい読後感のお約束はきっちり守ってもらえますので、安心して読めます。 それだけに波瀾万丈なようで予定調和でもあるのですが、こういう小説は四の五の言わずに読んで楽しければそれでいい。

登場人物が多くて、著者独特のノリについていけないところがあって、前半はだるくて眠くて。 そして最後まで、誰にも感情移入できないまま。 しかし、後半の駅伝の描写は疾走感がびしびし伝わってくるテンポの良さで、とてもよかったです。 走っているときの、それぞれの選手の視点がリアルに感じられて、実際に駅伝を観戦しているような爽快感がありました。 確かに、駅伝の選手たちの顔に当たる風が体感できたような気分に。 運動音痴で走るのが何よりも苦手な私にとっては、それだけでも読む価値はありました。 ああ、いいなあ、走る人ってこんな感覚なんだって。
Category: 三浦しをん

歴史の空白を想像力豊かに描く 村木嵐「マルガリータ」

桃山時代に天正少年使節として日本を発ち、ローマ法王に謁見、ヨーロッパ各地を見聞した4人。 見目麗しく勉学に秀でた少年たちはヨーロッパで熱烈な歓迎を受けたが、帰国後に待ち受けていたのは過酷なキリシタン禁制だった。 使節団の仲間たちが信仰に命を捧げるなか、ひとり千々石ミゲルだけが棄教。 キリシタンが多い長崎で激しい侮蔑を受けながらも、いっさい申し開きをしなかったミゲル。 なぜミゲルは棄教したのか。 彼が真に求めたものとは…。

マルガリータマルガリータ
(2010/06/24)
村木 嵐

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豊かな想像力と温かな視線で、歴史の謎に真っ向からとりくんだ正統派歴史小説。 昨年の松本清張賞受賞作です。

天正少年使節団の事実だけは知っていても、キリシタンというと迫害や拷問、殉教を思い浮かべてしまう私にはどうも苦手で興味をひかれないジャンルだったのですが、村木嵐「マルガリータ」は興味深く読めました。 信仰についてのドロドロとした内省ではなく、意外にも優しい友情の物語でした。 悲劇的な人生を描いているにもかかわらず内容的に重すぎず読みやすく、ミゲルの妻・珠の無垢な視点で描かれているので読後感もよかったです。

いままで名前も認識していなかった千々石ミゲル。 ほんとうはどんな人物だったのか、機会があれば他の本も読んでみたいと興味を持ちました。 デビュー作にして、このレベル、すごいです。 デビュー作というのに円熟味さえ感じさせる筆致と構成。 無理やりケチをつけるとしたら(別につけなくてもいいんですけどね)、うますぎてほんの少し物足りないというくらいで。 そんなふうに感じたのは、この本のすぐあとに百田尚樹のデビュー作「永遠の0」を読んだからかもしれません。 「キリシタンの歴史なんて全然興味ない」という方にこそ、おすすめしたい一冊です。 みなさん、ぜひ買って読みましょう!


10.25ホトトギス

わが家の庭は、いま野趣豊かな杜鵑(ホトトギス)の花でいっぱい。 真っ白から濃い紫までいろんな色の花が咲いています。 写真はオーソドックスな杜鵑。

読書中の本の影響で、磨き熱に片づけ熱が加わり、ひたすら衣類を選別中。 どんだけ必要ない服を貯蔵していたんだ、私は!とあきれてます。 片づけしようという気力がでるくらい、復活してきました。 完全復活まであと一歩…かな。

■拍手をありがとうございます。

映像的な表現がうまい 三浦しをん「まほろ駅前多田便利軒」

三浦しをんにはあまり心ひかれなかったのですが、直木賞受賞作が文庫化されていたので一応読んでみようと購入。 しかし、長期にわたって積ん読状態でした。 いつのまにか表紙が変わってました。 このふたりで映画化されたんですね。 それぞれイメージに合っていると思うけれど、小説を読む前にイメージが固定されてしまって邪魔な気もします。


まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)
(2009/01/09)
三浦 しをん

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東京近郊の架空の街・まほろば市駅前で多田便利軒を営んでいる多田啓介は、日々の細かい雑用を請け負ってただ流されるように生きていた。 ところが、彼の元に高校の同級生・行天春彦が転がりこんできたことから、退屈な毎日がにわかに動き始めて…。 小さな取るに足らないような依頼をこなすうち、それぞれが抱える闇があぶりだされていく。

ぜんぜん期待せずに読み始めたんですが、意外にも(失礼!)おもしろく読めました。 まるで映像をみているような、ノリのいいスピード感あふれる文章で、グイグイと最後までひっぱられました。 設定も展開も「うまい」と思いました。 ただし、読みながら「うまい」と感じるということは、どこか小説世界に没入できず醒めたままってことかも。 ノリがいいってことは軽いってことでもあります。 読みながら、このノリの良さは「傷だらけの天使」のショーケンと水谷豊だなあ(古いなあ)…なんて思い出したり。

直木賞受賞作だからといって、この小説に高村薫「マークスの山」とか熊谷達也「邂逅の森」みたいな重厚感を求めてはいけません。 ずしんと心に何かが残るのではなく、あっさり読めて結構拾いものという感じ。 とりあえず読んでも損はないと思いますよ。

■いつも拍手をありがとうございます。
Category: 三浦しをん