まじめで明快な人生論 ヤマザキマリ「国境のない生き方」

仕事の多忙期はいつも始まるのも終わるのも突然。 警戒していた直しも今のところはまだ出てこなさそうで、週の半ばからのんびりできました。 半日ミニチュアの新しいキットに夢中になったら、気持ちがうまくリセットできていい感じ。 雑念ゼロ、頭真っ白になる時間が必要なんですね。

そして、昨日読了したヤマザキマリ「国境のない生き方 私をつくった本と旅」がとてもおもしろくて満足感いっぱい。 ヤマザキマリが漫画「テルマエ・ロマエ」の作者であることぐらいしか知らなかったんですが、ときどきテレビにでているのをみて、この人はどういう人なんだろう?と気になっていました。 この新書を本屋さんの店頭でみつけて、なんとなく呼ばれた気がして買ったら、これが大正解!

9.29国境のない生き方

ヤマザキマリの体験的人生論で、彼女が人生のさまざまな時期に出合って愛読したさまざまな本が全編を通して紹介されています。 本書の冒頭で触れられている「教養」について、いまの時代ものすごく軽視されているけれど、ヤマザキマリは教養の大切さを真正面から説いています。 驚くほど型破りな生き方をしている彼女が、どこにいてもしっかり自分の足で立っていられたのは、ものすごく型破りなお母さまの影響と、読書や映画、イタリアの文学サロンでの対話で磨かれた教養というバックボーンがあったからなんだなと納得できました。

彼女の愛読書のラインナップ、すごいですよ、純文学系。 安部公房、ガルシア・マルケス、三島由紀夫から小松左京、つげ義春、千夜一夜物語、ずっと大切にしている子ども時代の昆虫図鑑まで、幅が広いのもスゴイ。 プイグの「蜘蛛女のキス」、私も好きだったなと思い出したりもして。 アルセーニエス「デルスウ・ウザーラ 沿海州探検行」は全然知らなかったけれど、読んでみたくなりました。

こむずかしそうに感じるかもしれませんが、とても読みやすく親しみやすい内容と文章です(これは正確には聞き書きのようですが)。 自分らしさって誰が決めたこと? そうやって自分の限界を自分で決めてしまっているんじゃないかというくだりのところだけ、頭のカタい姪2号に読ませたら「この本、すぐ買って読む!」とノリノリでしたよ。 まわりとうまくやっていこうと気を遣って息苦しさを感じている人、「こういう風に生きなくてはいけない」という固定観念に縛られている自分にモヤモヤしている人などなど、悩み多き若い世代に特におすすめ。 もちろんオトナにとってもおもしろいですよ。

9.29キンモクセイ

月をみてきれいだなと感じ、草や虫をみてすごいなと感じることが自分にはとても大事なことというヤマザキマリさんの感覚、すごく共感しました。 そういう風に外の世界に向かって開いていること、外の世界とつながっているという感覚、人間も虫も動物も等しく並列にとらえている感覚…うんうん、わかる!

誰でもがヤマザキマリになれるわけではない。 才能にも環境にも恵まれてたんだと思うけれど、いろいろ傷だらけになっても自分の手で人生を切り拓いてきた人だったんですねえ。 


セミが鳴かなくなったなと気づいた翌々日、空気がふんわりキンモクセイの香りをまとい、秋になったんだなと感じた3日後くらいに雨で一気にキンモクセイが散ってしまいました。 雨上がりの石畳にオレンジの花が散り敷いて、まるで木洩れ日がさしているみたい。 もったいなくて、その日はそこだけ掃かずに残しました。

雨の後は気持ちのいい快晴で、家族3人の暖かめの布団をだして日に干して、夏の寝具を片っ端から洗い、玄関の敷物を秋冬用に入れ替えたり、靴も夏冬を入れ替えて3人分全部ピカピカに磨いたり、物置にあったただのゴミ(でも少し大きめのもの)を処分したり、母親の買い物にお付き合いしたり。 たまりにたまった家事を一気に消化中。

悲しみのさじ加減 吉田篤弘「空ばかり見ていた」

この1年ほど、吉田篤弘の作品をぼちぼち読んでいるのに、なかなか感想が書けないまま。 というのも、初めて読んだ「針が飛ぶ」があまりにも好みにぴったりで、それ以後に読んだものは期待が高すぎるからか、いまひとつピンとこなくて。 世間で人気の「つむじ風食堂の夜」もうーん、悪くないけど、別に特別というほどでもないなあ…という感想。

最近少しずつ読んでいた「空ばかり見ていた」は、ひさしぶりに私の好み寄りでした。

4.5空ばかり見ていた

父が遺した東京の下町の理髪店を閉め、ホクトは流しの床屋として世界をさすらう。 自分が切りたいと願う人の髪だけを、自分が好きな場所で切りたいと願って。 あるときは主人公が読む物語に登場する人物として、あるときは主人公たちの傍らを通り過ぎていくだけの点景人物のように、時代も性別も年齢も国もさまざまな人たちと淡く関わりをもつホクトをめぐる12編の短編集。

連続した内容ではなく、1編ずつ登場人物も場所も味わいもバラバラで、ストレートな物語もあれば、シュールな味わいのものや寓話のような変化球もあって、ちらちらとそこここにホクトが顔をのぞかせる、ゆるーくつながる連作集です。 この作家の作品は、ごく普通に起承転結がある小説が好きな人にはおすすめしません。 この人の独特の浮遊感、そしてヨーロッパの洒脱な映画を思い起こさせる淡々とした味わいが、私の好みには合うみたいです。

最後の1編「リトル・ファンファーレ」がよかった。 この話は割と普通の小説形式。 パリの街を背景に風にはためく白いシーツ、その音が聞こえてくるようで、空を見上げるホクトの胸に去来するものが静かに映画のワンシーンのように心に刻まれて。 砂浜で女の子の髪を切る「海の床屋」も好き。 どちらにも私好みの”透き通るような悲しみ”の余韻があってステキでした。 そう考えてみると、「つむじ風食堂の夜」は私好みのこういう悲しみのエッセンスがちょっと足りなかったのかも。

あとがきによると、著者は行きつけの床屋さんで髪を切ってもらっている心地よさと、萩原祖太郎の「猫町」にインスパイアされて、この不思議な味わいの短編集を紡いだそうです。 それだけのことから、これだけいろいろな切り口を考えつくとはなかなかの妄想力。


4.5山桜満開

わが家の山桜は咲き始めて、あっという間に満開になり、昨日の激しい風雨ですっかり散ってしまいました。 今朝は一面の薄紅色の絨毯。 ほんのひととき、夢のようにきれいでした。


抜歯後は3日ほどだるくて眠くて、入浴後はちょびっと痛くなりましたが、あまり痛みが強くならないうちに痛み止めを飲んだら、さほど苦痛もなくやり過ごすことができました。 今日からやっと本調子に戻った感じ。 でも、花粉がきつそうだったので家の中でできることだけ。 セーター類を次から次へと手洗いしたり、たまっていたアイロンがけを片付けたり、脚立に乗って照明のメンテナンスをしたり、少しだけ庭の手入れをしたり、水回りをきれいにしたり、貯蔵食料品のチェックをしたり。 寒さが去った今頃になって、ウールの分厚いカーディガンの仕上げに四苦八苦したり(汗)。 細々としたことばかりだけれど、何かしら作業ができて満足です。


Category: 吉田篤弘

ひそやかな気配に耳を澄ます 吉田篤弘「針がとぶ」

ものすごーくひさしぶりの読書記録です。 点滴後のものすごい倦怠感で、布団の上でのびているしかなかった状態の中で、少しずつ少しずつ読んだ吉田篤弘の「針がとぶ」。 とてもよかった。 心にしみました。


9.11針がとぶ

グッドバイが口癖の翻訳家で詩人の伯母が亡くなり、その家を一人で片づけることになった姪の視点で語られる伯母さんの人生の断片「針がとぶ」。 遠い異国のひなびた海辺の町で、画家が出会った不思議な雑貨屋「パスパルトゥ」。 かすかにリンクするようにして紡がれる7つのささやかな物語からなる短編集。


語られるのは、いまはもうそこにいない人たちの人生の切れ端…そこに意味があるのかないのか、そんなことはどうでもいい。 文章をゆっくりゆっくり味わいながら読むのがぴったりの本で、何から何まで私の好みでした。 文章も、行間に漂うノスタルジックな気配も、ミヒャエル・ゾーヴァの絵を使った装丁も。 けれど、好きか嫌いかとても分かれる本だと思います。 読書に何らかの教訓や意味を求める人にはまったくおもしろくないだろうし、明確なストーリー展開を好む人にもおすすめできません。 私にとっては、このひそやかさがとても心地よかった。 著者について「クラフト・エヴィング商會」というセンスのよさげなブックデザイナーが本も書いているという程度の認識で、ずっと気になりながらも一度も手にとったことがなかったことを後悔しました。 早速、ネットで他の本も取り寄せることに。

9.11ゲンノショウコ

がん告知を受けて以来、あんなに好きだった読書が楽しめなくなりました。 心の中の葛藤が大きすぎて虚構に浸る余裕がないのか、治療で刻々と変わる体調に振り回されて、私の感受性がもういっぱいいっぱいの状態なのか、自分でもわかりません。 抗がん剤の点滴を受け始めるとケモブレインになったせいか、字を読んで意味を理解しても心に何も入ってこない感覚になってしまって。 何冊か本は読んだけれど、ちっとも心に響かない。 その本について感想を書くのはためらわれました。 おもしろく感じられなかったのは自分の体調のせいかもしれませんから。

やっと感想を書きたいと思える1冊に、本屋さんの店頭で出会えて本当によかった(積ん読状態が長かったけれど)。 そして、そんな自分にちょっとホッとしています。


■いつも読んでくださって拍手をありがとうございます! みじかーいまつげと眉毛が生えてきて、は虫類からほ乳類にほんのちょっと戻ってきました♪

■donauさん、抗がん剤って血管に入ってくるときもなんか違和感あるんですよ。 ニューッと濃いものが血管をいま入ってきたって感じがするんです。 そして、ある日突然、薬が抜けるというか消化器官の粘膜が復活したという、なんとも不思議な実感があるんです。 がんのカケラを殺すための毒って、ホントにスゴイ…。 でも、抜けてしまえば、辛さをケロッと忘れられる。 忘れっぽい体質でよかったです(笑)。
Category: 吉田篤弘

姪と叔母さんの物語 椰月美智子「るり姉」

本屋さんで平積みにされていてなんとなく手にとった文庫本が椰月美智子「るり姉」でした。 著者の名前も知らなかったのですが、思春期の三姉妹+叔母を描いているのが自分+姪たちの関係に似ている気がして。



シングルマザー家庭に育つ小学生から高校生の三姉妹、さつき・みやこ・みのり。 自分たちの叔母=母親の妹を「るり姉(ねえ)」と呼んで慕っていた。 型破りな叔母さん・るり姉が考えつく悪ふざけや楽しいイベント。 ところが、そのるり姉が入院してしまい…。 家族それぞれの視点から語られる、るり姉を通して家族を描いた心温まる小説。 

著者のプロフィールに児童文学でデビューしたとあって納得がいきました。 読後感のいい、やさしい小説です。 どしんと胸に響くような本格派小説のような読み応えはないので、手持ちぶさたであまり重いものを読みたくない気分のときにはちょうどいいと思います。 ちょっと物足りない気もしましたが、途中からはるり姉がどうなったのかが気になって一気読み。 「腐った赤キャベツみたい」な色に髪の毛を染めているものの、内面に繊細さを隠し持っている中学生の次女・みやこがとてもよかった。 その反面、るり姉のカレのエピソードは余分だったかも。 お涙頂戴な安っぽさに堕していなくて、これはこれでいいと感じました。 でも、またこの著者の本を読むかというと、うーむ…。

どうでもいいことなんだけど、この本の中で最も気になったこと。 それは高校の入学祝いとして、叔母さんは姪にそれぞれ3万円も贈るの??ってこと。 えっと、そんなにあげたことがないんですけど。 という理由で、姪にはこの本をすすめられません、絶対に(笑)。 

11.20初嵐

写真は「初嵐」という椿。 名前の通り、毎年、木枯らし一号が吹く少し前からちゃんと咲き始めます。 今年は特に花つきが良くて、いまも次々に咲いています。

ほんとうは「なぜ私だけが苦しむのか 現代のヨブ記」の感想を書きたかったのですが、時間切れ。 こちらは、悲嘆についてのとても重い内容の本なのでさらっと書けそうもありません。 補償交渉のことでストレスがたまっていた先週半ば、友だちが突然「近くまで来てるからお昼一緒に食べよう」と誘ってくれて、近所でイタリアンのランチ。 彼女の仕事の合間に、他愛ない話を1時間ほどしただけ。 でも、中学時代から変わらない笑顔にとてもとても癒されました。 Bさん、ありがとう!


■いろいろな記事に拍手をありがとうございます。

戦時中の空気 柳広司「ジョーカー・ゲーム」

ベストセラーになった柳広司の「ジョーカー・ゲーム」が文庫化されていたので買ってみました。 最近のベストセラーってどれもいまひとつピンとこないことが多いけれど、それなりに楽しめました。



第2次世界大戦へと傾斜していく戦前の日本を背景に、「魔王」結城中佐のもとにニヒリストのスーパーエリートを集めて密かに始まったスパイ養成学校「D機関」の人々を描くスパイ小説です。

本格派ミステリや欧米のハードボイルド、極上のサスペンスを期待すると肩すかしかもしれませんが、「気分転換に軽い読みものを」という人におすすめ。 連作のような構成なので、乗り物や待合室など細切れの時間に読むのにちょうどいい感じです。 第2次大戦という重苦しい時代を背景にしているのに暗さや重さは全然ありません。 それが魅力であり、同時に欠点でもあるという気がしました。 章ごとに視点となる人物の立場を変え、舞台となる場所も変わったりと結構凝った構成で、戦争へと突き進んでいく陸軍内部の雰囲気とか上海での日本人の立場といった背景がなかなかうまく描かれていて、私は話の筋よりもそちらの方がおもしろかったです。

もともとは、父が好きそうだと思って買った本。 思惑通り(?)食いつきました(笑)。 夢中で一気読みしていたので続編も買ってきたら、それも一気読み。 次は近藤史恵「エデン」を貸しました。

2.23福寿草

数日前にやっと福寿草が咲き始めました。 今年はほんとうに寒いですねえ。 土曜日は呼吸法&ストレッチに行ったおかげで、身体がゆるんで気持ちよくぐったり。 日曜日はお雛様を飾るのに丸一日かかりそう。 昨日読了した水村美苗「本格小説」についてはまた近いうちに。 長編のお口直し(?)に軽く読めそうなものが欲しくて、次はストレッチ帰りに本屋さんでみつけた中島たい子「ハッピー・チョイス」を読むつもり。

■いつも拍手をありがとうございます。

普通な日々の大切さ 吉田修一「横道世之介」

話題になっていた吉田修一「横道世之介」が文庫化されていました。 吉田修一はあんまり相性がよくないからなあと敬遠していたんだけど、読み始めたらこれが意外におもしろくて。



地方から上京した大学1年生男子がボーッと周囲に流されるようにしながら、少しずつ東京での日々になじんでいく1年間を描いた青春小説です。 目的意識も欲もあんまりない平凡な男子大学生の日常をコミカルにふわふわと優しく描いた長編。 

主人公・世之介の人生とつかのま交わって、いつのまにか自然に離れていった男女。 ときどき、そういう人たちの20年後が差しはさまれつつ、外から眺めた世之介がふわっと描かれていて、その視点が独特でした。 平々凡々な大学生の日常がどこまでも続いているんだけど、自分も同じ空気を吸っているような気分にさせられて読ませます。 世間知らずなお嬢さま・祥子ちゃんのエピソードがとてもよかった。 バブル時代を知っている人なら、さらに懐かしく楽しく読めると思います。 ただ…最後の最後、きれいにまとめようとしすぎて、そこがちょっとイヤ。 職業も何だかなあ、都合よすぎ。 あのまま、のほほんとした大人になった世之介に会いたかった。

このオチで「よかった」と思える人は幸せな人。 著者は普通な日々がどれくらい尊いことかを伝えたかったのかも。 普通じゃない体験をしてしまった私には…。 アルジェリアでのテロのニュースを聞いているだけで、胸がとても痛い。 家族の方々は現場から遠く離れた場所でいま、どんな気持ちで1秒1秒を過ごしておられるかと想像するだけできりきり胸が痛い。 こんなとき、外務省は会議だかなだんかしてるばっかりでなんの頼りにもならないのだから。


1.17ジョウビタキ

近頃、毎日のように来ているジョウビタキ。 手前にボケて写っているテイカカズラの赤い実、誰が食べているのかと思ったら、かわいいこの方でした。 庭のあちこちを行ったり来たりしつつ、さりげなくジワジワと赤い実に近づいて、最後は驚きの早業。 去年の冬は野鳥がおかしいほど来なかったから、今年は来てくれてうれしいよ。

たあいない雑談の大切さ 山崎ナオコーラ「ここに消えない会話がある」

山崎ナオコーラってどんな作家なのか、ずっと興味がありました。 名前が変わってるし、デビュー作は「人のセックスを笑うな」なんていうタイトルだし。 すごく若い感じの小説なのかなとか、とんがりすぎてたらついて行けないかなと躊躇してたんですが、図書館で新作の「ここに消えない会話がある」を借りてみました。

9.18消えない会話

あれ…意外に普通じゃないの!というのが正直な感想。 名前やタイトルは奇をてらってる感じ全開なのに、文章は普通に読みやすくて素直でした。 内容は、テレビ欄のデータを新聞社に配信する職場の小説です。 社員と派遣社員混成の小さな班の中で、日常の厳しい業務の合間に交わされる小さな会話の断片。 それぞれが少しずつ相手のことを考えたり、職場での自分の立場や将来を考えたりしながら、たあいない「おしゃべり」が続くだけの小説です。 登場人物6人が特に親しくなるわけでもなく、でもギスギスしない人間関係をおしゃべりを通して構築していて、読むとちょっとホッとした気分になれました。 深くどーんと迫ってくるテーマがある小説ではなくて、コーヒーブレイクのような感じ。 それにしても、派遣社員の待遇はキツイなあ…格差あるのに悪びれずに働いている20代の子たちがけなげに思えたりしました(それは小説の本筋とは違うことなんだけれど)。

視点となる人物が変わったりシーンが変わるたびに行間をとるスタイルと、ところどころに著者による箴言のようなものが入っているのが文学的にちょっと変わっていて、そういう点では芥川賞ぽい小説の書き方だと思います。 何度か候補になって、まだもらっていないようですが。

9.20サンジソウ

そういえば駆け出しの頃は、「仕事ができたらメールで送って終わり」なんていう時代ではなかったから、締切日にはフロッピーもって行かなくてはいけなくて、それ以外にも打ち合わせが頻繁にあったり、写真の切り出しに呼びつけられたりと、たびたび事務所に顔を出す用事がありました。 当時は面倒くさいなあと思っていたんですが、いまから振り返ると、みんなで集まってワイワイしゃべるのがすごく楽しかった。 資料をコピーしたり写真切ったり行数を数えてる横で、ほかの人たちがおしゃべりしているのを聞くのはおもしろかったな。 いまは通信手段が便利になった分だけ、あんなに熱気のある仕事場に遭遇することがなくなって、ちょっと寂しような物足りないような。 そういう点でも、「ここに消えない会話がある」のような職場が現在もどこかにあってくれたらなと思えました。


上の写真の花、わが家では「サンジソウ(三時草)」と呼んでいますが、ネットで調べると「ハゼラン」「コーラルフラワー」「サンジカ(三時花)」となっています。 そろそろ咲いているかなと、2時過ぎに庭に出てみたんですが、まだつぼみ。 ホントに3時頃にならないと咲かないんですよ。 かすみ草くらいの小さな小さなピンクの花のまわりに、ドットのような真っ赤な実を散りばめたところは、雑草とは思えないほどかわいい。

不思議な読後感 山本兼一「利休にたずねよ」

直木賞発表後すぐに本を買ったのに、今頃になって読んだ山本兼一「利休にたずねよ」。 以前にも書いたように、先にすごく楽しみにして読んだ母の感想が低調だったため、読む気力がしぼんでしまって、ようやく今頃です。

5.29利休にたずねよ

利休はなぜ切腹させられたのか。 切腹の日から時をさかのぼりつつ、秀吉や利休本人、歴史に名を残す武将、師や弟子などそのときそのときに利休に関わったさまざまな人物の目を通して利休の姿が語られていきます。 やがて、何よりも大切にしている緑釉の香合に秘められた、利休19歳の美の原点となった事件が明らかに…。

とても凝った構成の小説です。 時系列は逆順だし、細かい章ごとに視点となる人物がころころ変わるし、こんな風に複雑な構成で、よく破綻もなく書けたものだと驚きつつも、なんだかテンションは盛りあがらず。 テクニックには感心してるけど、物語には感動してない、といえばいいのでしょうか。 お茶室の雰囲気や茶の湯の趣はとてもよく伝わってきて、美についての表現も大げさすぎず静かで、いい感じです。 母が「あんたは焼物とか漆器とか伝統工芸が好きだから、楽しめると思うよ」と言っていたとおり、そういうところは興味深く読めました。 ただ、あまりにも構成や文章を練りすぎて、読者に迫ってくる熱気が抜けてしまったのかも。 知的な長編小説の割には、読んだ後のカタルシスがないんですよ。 利休の胸のうちにたぎっていた(と小説中でも書かれている)、まわりのすべてを冷酷なまでに切り捨てでも「絶対的な美」へと傾倒していく衝動は、残念ながらまったく伝わってきませんでした。

5.29ヘビイチゴ

ワタシは利休よりも秀吉の気持ちの方がずっと共感できました。 秀吉にしたら、常に慇懃無礼なオブラートに包んだようにして侮辱されているように感じられただろうなと。 この小説では秀吉が俗物根性を持ちつつも、茶人としてもひとかどの人物であったように描かれていて、その点はとても好感が持てました。 秀吉を一方的に断罪しているわけではないんですよね。 この著者は利休を聖人としてあがめ奉ることなく、フェアに書こうと非常に考えたんだろうと思います。 本場の京都に在住していて、ある意味、よくこの小説が書けたなあ…京都なんてお茶についてうっかり素人が語ったら、その瞬間から地雷原だもんなあ…とまた本筋と関係ないところで感心。 細かく章立てされた中で、読後に一番印象が強く残っているのは楽茶碗の誕生のところ。 もう一度(一度だけ非常に価値のある楽茶碗を持たせていただいたことがあって)、楽茶碗でおいしい抹茶をいただきたくなりました。

読んだ後の素直な感想は、母とまったく同じでした。 「やっぱり茶道って嫌だなあ」って(笑)。 特に最後に出てくる利休の師匠がもうイヤ! 利休と師匠の会話がもう最悪。 お茶って、茶人が思っているほど崇高なものなんですかね?(ハイ、地雷踏みましたね、ワタシは) お茶をやめて良かったわ、ホントに。 この本に関しては、たぶん、読む人ごとに感想は千差万別なんじゃないでしょうか。 ひょっとするとラストに感動して泣ける人もいるかもしれませんし(信じられないけど)、ワタシのようにひんやりした心持ちになる人もいるでしょう。

お茶がなんたるかを知りたい人、工芸品や数寄屋造りに関心がある人が読むと興味深いと思います。 損はしません。 ただ美術にまつわる小説が大好きなワタシにとっては、なにか根本的なところでの著者の冷静さが物足りなくて、なおかつ「オチがそれかよ」と肩すかしを食ったような気になりました。

短くまとめようと思ったのに、ものすごく長くなってしまった…いつも、くどくてスミマセン(仕事のときもくどいワタシ)。

静かに紡ぎだされた新作 山本文緒「アカペラ」

山本文緒が特に好きというわけではないのですが、同い年なのと、直木賞をとったときの「普通の感じ」からずっと気になる作家でした。 直木賞をとって、優しいだんなさんにも巡りあえたのに、ウツになってしまったと聞いてよけいに気になっていました。 長いブランクを経てひさびさに出た新作ということで、図書館で予約したのですが、人気が高いらしくずいぶん待たされました。

4.14アカペラ

祖父とのふたり暮らしを必死で守ろうとして彷徨する女子中学生の孤独。 すべてから逃げ出してばかりいる30代のダメ男が20年ぶりに舞い戻った故郷でみつけたものは…。 地味な仕事をしながら病弱な弟の面倒をみつづけている50代独身女に舞いこんだ結婚話の顛末。 主人公はみんな、そっと息をひそめて生きている人たちばかり。 乾いた語り口とは裏腹に、静かで哀しい雰囲気に包まれた短編集でした。

いままでの山本文緒とはどことなく違いました。 以前のような強引とも思われるほどのスピード感はなくて、丁寧に丁寧に書いたという感じの文章でした。 文章としては以前より磨かれたような、「らしさ」がその分薄れたような…。 書かれている平凡な人たちはいいなと思うのですが、何か個性という点で物足りない気もしたりして。 いままでにみられなかった丁寧な描写に、ウツの辛さがにじんでいるようでもあって痛々しさが伝わってきました。 ゆっくりゆっくり書きながら少しずつ新境地を切り開いていくのを、これからも同い年として見守っていきたいです。


4.14黄水仙 4.14稚児百合の蕾

今日は雨降りの一日。 カラカラに乾いた庭にとっては恵みの雨ですね。 親しい人たちとの気楽なおしゃべりは、まさに恵みの雨のように、大切な人を失った寂しい心にしみこんで静かに潤してくれました。 みんな、ありがとう。 

ふらふらしてる40代に共感 山田詠美「無銭優雅」

山田詠美の最新刊「無銭優雅」を買いました。 山田詠美は特に好きな作家ではありません。 ずっと昔に「蝶々の纏足」「色彩の息子」を読んだだけ。 そのときの感想はキライではないけれど好きでもないという程度。 その後、続けて本を買おうとは思いませんでした。 ところが、新聞の書評を読んでいた母が「この主人公、あんたに似ているみたい。 読んでみたい」とリクエスト。 確かに、主人公の立場はワタシに近いようです。 だいたい「無銭」で「優雅」だなんて、ワタシみたい(笑)←ウソ! ただ、お金も地位もないけど、あまり気にしていないのは本当です。 それと、ブログを読んでいる友人・知人はみんな「vogelちゃんのブログだけみてると、どんな優雅な人やろ…て思えてくるわ」と異口同音。 その後で必ず「でもねえ…ホントはねえ…ぐふふ」という笑いがつくんですけど。

4.1無銭優雅

主人公の女性・慈雨は父親にお金を出してもらった花屋さんを友人と共同経営しています。 お金はほとんど儲かりませんが、親と同居しているので食べるのには困りません。 ただ、家の中での立場は弱い。 お兄さんたちには「いい歳をして、ふらふらしてる」などと言われるし、親には「早く嫁に行け」と40を過ぎてるのに言われています。 いやね、この設定だけで「ワタシのこと?」という感じ。 でも、小説自体は延々と主人公が恋する男への想いを独白するスタイルで、べったべたの恋愛小説風。 塾の講師で、主人公と同じように「しっかりしたオトナ」と世間から認定されていなさそうな男性がどんなにステキな恋人かという言葉が小説の大半を埋め尽くしていて、正直、読んでいる最中はちょっとうんざりしました。 「恋のない人生はありえない」と思っている人は、こういう本を読むと楽しいのかしら? というか、この主人公たちより若い世代がおもしろく読む本なのか?? いい歳してても、中身は意外に若いのね、とか思うのか??? だんだん読むのがイヤになってきたところで(全体の3分の2くらい読んだところ)やっぱり甘いだけの恋愛小説じゃないんだと納得しました。 独白風の文体も生理的に違和感があるし、もともと恋愛体質じゃないワタシはどうしても詠美ワールドにはついていけません。 歳をとった親への気持ちには思いっきり感情移入しましたが。 けっして悪い小説じゃありません。 ただワタシには合わなかったというだけのこと。 人はみんな生きて、いつかは死んでいくもの…そういう諦観を作者は書きたかったのかな、と思いました。 親にはあんまりすすめられない内容だけど、どうしようかしら。
 
 
4.1雪柳

昨日も今日も雷が鳴って突然激しい雨が降ったり止んだり。 一日中、薄暗いお天気で肌寒かったです。 やっと我が家の雪柳が咲きました。 鴨川沿いなんてもうずいぶん前から雪柳が満開だったのに。 あそこの雪柳は驚くほど茂って、白い花のかたまりは遠くからみると、なんだかSF映画にでてくる未知の生物みたい。 繁り過ぎもあんまりよくないですね。

4.1キノコ

湿度たっぷりだからか、気持ち悪~いキノコが庭の真ん中にニョキニョキ出てきました。 うっ、ジッと見ると鳥肌!