芥川賞らしくない地味さ 津村記久子「ポトスライムの舟」

芥川賞受賞時から気になっていた津村記久子「ポトスライムの舟」が単行本化されているのを本屋さんでみつけて、早速購入。 先日読んだばかりの芥川賞受賞作、川上未映子「乳と卵」とはまったく違う世界のお話でした。 同じ関西弁系(?)なのにここまで違うということが、興味深かったです。

ポトスライムの舟 (講談社文庫)ポトスライムの舟 (講談社文庫)
(2011/04/15)
津村 記久子

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この小説をひとことで言えば「地味」。 芥川賞っぽい前衛的な表現法や内容を期待すると、たぶんガッカリします。 でも、リアルな重みをもつ作品でした。 かなり重いので、気持ちが落ちこんでいるときにはおすすめできません。 特に、壮絶なパワハラを描いた併録の「十二月の窓辺」が重くて。

バリバリのキャリアウーマンではなく、ひたすらコツコツささやかな仕事をしている30歳前後の平凡な女性が抱えている心の痛みがヒリヒリ伝わってきました。 とはいっても、筆致は軽やかで淡々としているので、サラッと読めます。 小説では詳しく描かれていないけれど、主人公がかつて仕事のことで心を病み、小さく小さく内向きになってしまっている状況と心情が非常に生々しく感じられました。 それが「ポトスライムの舟」の主題なのだけれど、いまの私には重かった…。

カフェを経営している友だちや、主人公の家に身を寄せる友だちの娘、主人公の母親といった、主人公のまわりの人たちがいい味を出していて、じとじとした私小説とはまったく違った乾いた空気感。 そして、奈良・大阪・神戸、それぞれの街の雰囲気も巧みに使われていて、小説としてはなかなかよかったです。

カソウスキの行方カソウスキの行方
(2008/02/02)
津村 記久子

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もっと乾いたユーモアのある「カソウスキの行方」の方が個人的には好きだけど。


6.1スカシユリ

雨降りの一日。 強い雨の中でぱっちり咲いたスカシユリは、まるで発光しているみたい。 眺めてると元気を分けてくれそう。

大学時代の仲間の飲み会に誘われて、返事のメールが書けないまま、ぼんやり過ごしてしまいました。 まだ、おおぜいでワイワイはダメな気分。 明日は仕事の飲み会…うまくやり過ごせますように。
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働くひとへの深い共感 津村記久子「カソウスキの行方」

初めて読んだ「八番街カウンシル」がピンとこなかった津村記久子サン。 もともと「カソウスキの行方」が読みくて同時に図書館で予約したのに、こちらの方が圧倒的に人気でようやくワタシのところへ回ってきました。 すごくよくて一気読み! ああ、ワタシ好みだわ。 ひさびさに余韻に浸れる小説に出会いました。

6.22カソウスキの行方

仕事はそこそこ有能なのに社内での身の処し方が不器用なイリエは、後輩をかばったつもりが裏切られて倉庫へと左遷されてしまいます。 仕事もろくにない、あまりにも退屈な日々をやり過ごすために思いついたのが、職場の男性を「仮想で好きになる」こと。 その人に会っただけで無理やり「ときめいている」と仮想しようとするのだが…という表題作の中編「カソウスキの行方」のほか、短編2編が収められています。

3編ともに働くひとの心情がとてもリアルでした。 キャリアを追い求める上昇志向の強いタイプではなく、でもしっかりと仕事をこなせる普通の人たちが、会社で仕事をしていく中で苦しさや理不尽さに遭遇しながらも、なんとかやり過ごして働き続けよう、あるいはそうやってがんばっている恋人との関係を持続させようとしている姿に深く共感しました。 「働く」ということが、森絵都の「風に舞いあがるビニールシート」よりもずっと深い部分でとらえられているのではないかと感じられました。 かといって、「こんなに歯を食いしばってがんばっているのよ!」みたいな押しつけがましさはゼロ。 主人公たちはみな、いじましく、せこい生き方なんですが、自嘲的な視点での語りが独特のほんのりとしたユーモアとペーソスを醸しだしています。 「カソウスキの行方」も「Everyday I Write A Book」も恋愛はたいしたウェイトを占めず、自分の居場所をそれぞれが自分でみつけていく過程に重点が置かれているのだと感じました。 「カソウスキの行方」でのイリエと男性社員2人の人間関係が深まっていくところ、ほわっと心が温かくなって読後感もいいです。

でも、3編の中で一番心に響いたのは「Everyday I Write A Book」。 あこがれの男性と結婚した、時流に乗って注目を集めている女性のブログを読んで、自分が受け持っている平凡な仕事との差に落胆し、業務の煩雑さに押しつぶされそうになる野枝…ああ、わかるよ、わかるよ、その気持ち!と、ついホロッ。

6.23タイサンボク

「カソウスキの行方」も「Everyday I Write A Book」も、プロフィールを読むと津村サンの実体験がベースになっているようです。 かといって、私小説のようなウェット感もナルシストな視点もいっさいなく、カラッと乾いた上質な小説に昇華されています。 小説家として器用ではなさそうだけど、もっと読んでみたいと思わせる個性をもつ作家さんです。 それにしても作家として売れてきたら、日中は会社員、夜に仮眠してから執筆という兼業作家状態はさぞやたいへんでしょう。 会社はネタの宝庫だからですって。 すごいなあ。


月曜日にお中元の申し込みに付き添って、やっとお中元選びの大騒ぎから解放されました。 珍しく両親ともに出かけた静かな午後、雨上がりの庭をうろうろ。 下ばっかり眺めていたけど、何気なく雲間からちらっとのぞいた青空をみあげると、頭上はるか高いところでタイサンボクが1輪咲いているのに気がつきました。 「泰山木」なんていう名前だし、どことなく和っぽい雰囲気の木だから、てっきり日本か中国が原産だと思っていたら、実はアメリカ原産で明治の初めに渡来してきたそうです。 芳香があるそうですが、あまりにも高いところで咲いているので、一度も花の香りを感じたことがありません。 どんな香りなんだろう?
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盛りだくさんすぎ 津村記久子「八番街カウンシル」

津村記久子がずっと気になっていて、直木賞をとった「ポトスライムの舟」を読みたかったんですが、図書館の予約があまりにも多くて諦めました(気弱)。 で、かわりに読むならと「カソウスキの行方」と最新作(?)の「八番筋カウンシル」を予約。 一番読む気がなかった「八番筋カウンシル」が最初に回ってきました。

5.10八番街カウンシル

大阪の下町にある八番筋商店街。 どこにでもありそうな、活気を失ってすすけたような商店街の近くにショッピングモール建設の話が持ちあがり、商店街の人々は自分にとって有利になるように事を運ぼうと互いに牽制し合います。 文学新人賞をとってニート生活中のタケヤスは、幼なじみで会社を辞めて祖父の文具店を再開しようとしているヨシズミと、商店街の実家から出ることを願っている元同級生の女ホカリとともに、不本意ながら商店街の人間関係に巻きこまれていく…。 商店街の未来、母子家庭のつましい生活、昔から憧れていた同級生の女の子のその後、生き別れの父への複雑な気持ち、そしてわだかまりを抱えたまま別れた友だちの消息が絡みあう中で、主人公タケヤスは自分らしい生き方を探していきます。

5.11クレマチス

う、うーん、なんかモヤモヤ。 すっきりしないなあ、というのが正直な感想です。 読後感が悪いわけじゃないんですよ。 終わり方はかなり好きです。 でもね、いろんな要素を詰めこみすぎて消化しきれていないみたいに感じました。 情景描写や過去の出来事の細部を書きすぎてて余分な気がしました。 商店街の面々も最後まで意外性のない描き方で、非常に類型的でつまんない。 登場人物の名前を全部カタカナで書くと、すごく頭に入りにくい! 何かこだわりあるみたいだけど、あだ名でもないのなら、ことさらにカタカナで書く意味はないと思うんですが? 前半読んでて、著者の物語を展開するテンポに乗れなくて、ちょっとイライラしました。 後半は一気に読めたんですけど。 まじめな人なんですね、この著者は。 だから、この作品で書きたかっただろうことも理解できます。 でも、理解できることと読んでおもしろいことは違うわけです。 この人の表現はキライじゃないから、次の「カソウスキの行方」に期待しましょう。


庭の紫の花シリーズ、今日はクレマチス。 鉄線と同類だけど、こちらは花が小ぶり。 見やすい低いところで咲いてくれてます。
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