幸せとは?を問われる 姫野カオルコ「リアル・シンデレラ」

中島京子「小さいおうち」が直木賞をとったときの選評を改めてネットで読んでみて、候補にあがっていて受賞を逃した作品に姫野カオルコ「リアル・シンデレラ」があったことを思い出しました。 話題になっていて気になったけど、懐が寂しくて文庫化を待っていて…すっかり忘れていました。 とっくに文庫化されていたんですね。 ちなみに、この回の直木賞候補作の中には、万城目学「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」や冲方丁「天地明察」もありました。

この表紙、すごいインパクト。 家の中で読むときはふだんはカバーをかけないんですが、これはカバーをかけて読みました(笑)。 内容はタイトルや表紙から想像していたものとはずいぶん違いました。



倉本泉(せん)は料理旅館の跡取り娘として生まれたにもかかわらず、妹が病弱だったために影が薄く、幼い頃から両親の愛情を十分に受けることができずに育つ。 周囲には良き理解者(あるいは同情者)もいるのだが、大人になっても常に表舞台から一歩引いたところにいる泉。 脇役に甘んじている泉に幸せはやってくるのか?

周囲の人々の証言から泉の人生をあぶりだすノンフィクション仕立ての小説です。 あまり文章が上手くないライターが書いているという前提なので、読む楽しさがちょっとそがれるような気がしました(「小さいおうち」と似た歯がゆさ)。 主人公が地味なので話もすごく地味、どこまでも。 それでも途中からは、いったい泉はどうなるんだ?というのが気になって、後半は一気読みでした。 ミステリではないけれど、伏線が巧みに張ってあって、終盤でそれが「あれ、これってひょっとしてあの…?」と浮かびあがってきます。 読み終わってから、もう一度どこかに伏線があったかどうか確かめたくてザッと目を通したくらい気になりました。 ただ、ラストがこれでいいよかったのかどうか…カタルシスがなかった。

みんなにかわいがられる華やかな妹に対して、誰かのお下がりの粗末な服ばかり着せられている姉の泉…という出だしはシンデレラそのもの。 しかし、読み進めていくうちに、女性にとっての幸せは「白馬にまたがった王子様が現れて結婚すること」だけなのか?という問いを突きつけられる小説です。 とはいえ、姫野カオルコは読ませるのが上手い作家なので、小難しさはありません。 大絶賛でない程度におすすめ…というか(態度曖昧)。


9.15雨の芙蓉

読了後姫野カオルコの近況が気になって(なんだか鬱になっていそうな感じがして)、ネットでインタビュー記事をみつけました。 ああ、姫野さんが一人っ子なのは知っていたけど、両親を一人で介護してすごくすごくたいへんだったんだなあ。 私にも遠くない未来にいつか来る日…鬱にならずに乗り越えられるだろうか。 小説そのものとは違ったことで胸に迫りました。


三連休なのに台風。 別にどこへ行く予定もなかったけど、なんだか残念。 ここのところ、また真夏日になったりとムシムシ蒸し暑くてウンザリ、 台風一過で爽やかな秋日和になるといいな。 あちこち深刻な被害が出ないといいけど。

■拍手をありがとうございます。

「ツ、イ、ラ、ク」が好きな人向き 姫野カオルコ「桃」

姫野カオルコ「桃」はずいぶん前に読んでいながら、旅行のどたばたで感想が書けないままになっていました。 ようやく書く時間ができた頃には、細かいことは忘れちゃって…(笑)。 サブタイトル「もうひとつのツ、イ、ラ、ク」とある通り、長編小説「ツ、イ、ラ、ク」の周辺を描いた短編小説集です。

10.1桃

この表紙…なんかイヤです。 脱ぎ散らかしたズック靴に汚らしい色をかけて、全体的に汚らしい感じがして、内容とぜんぜん合っていません。 産毛までみえるほどの桃のアップ写真だった単行本の方が装丁がずっと素敵でした。 交歓シーンの生々しい描写がありながらも、まっすぐで清冽な恋に落ちたからこその痛々しさが伝わってきた小説にふさわしくないです、この表紙は。

滋賀県の田舎の中学校で起こった「ある事件」に関わった6人を主人公にした6編を収録しています。 当事者のその当時の内面を吐露するものだったり、「ツ、イ、ラ、ク」では脇役だった子が事件をどう感じて、その後をどう生きたのか…など、視点も時間の構成もバラバラ。 「あ、そうそう、この子はどう思ってたのかな」なんて、脇役の子たちに再会するのを楽しむような本です。 あくまでも「ツ、イ、ラ、ク」のサイドストーリーだと感じました。 短編としてこの本だけを読むと、それぞれの短編に断片的に出てくる「ある事件」がどういう風に感じられるのかな?

それにしても著者の「文庫本あとがき」は書かなきゃよかったのになあ…。 姫野サンは「ツ、イ、ラ、ク」で直木賞がとれなかったのがそんなに悔しかったのかぁ。 自嘲気味に「権威とは無縁の、功成らず名も遂げず三十年を過ごした小説家なわけです」と書いてあるのを読むと、10数年前には姫野サンの熱心な読者だったワタシは「そんなにいじけなくても」と言いたくなりました。 確かに、姫野カオルコがなんの賞ももらっていないのは意外な気がしました。 もっとつまんない小説で直木賞をもらってる人もいますからね。 ふてくされずに独特の毒をもった小説をこれからも書いていって欲しいです。 恋愛小説があまり心に響かなくなってしまったワタシは読まないかもしれないけど(ゴメン)。

10.1ハート茸

雨上がりの庭で蚊と戦いながら撮った1枚。 薄暗いところにハート型みたいなキノコが生えていました。 前夜の雨がたまっていてかわいい。

生々しく痛々しい中学生の恋 姫野カオルコ「ツ、イ、ラ、ク」

姫野カオルコの「ツ、イ、ラ、ク」は単行本が出たときから、買おうか買うまいか何度も何度も本屋さんで手にとって、迷った末に買わなかった本です。 20代の頃は姫野カオルコの本が文庫になったら、たいてい読んでいました。 この10年くらい読まなかったので、最近はどんな小説を書いているのか気になっていました。 でも、この本がネットで一時すごく評判になったらしいと知ると、へそ曲がりなワタシは読む気がなくなってしまいました。 文庫になったのでようやく入手。 でも、そのまま3ヶ月以上放置していました。 なんだか読むのが怖いようでもあって。 

姫野カオルコが好きな作家なのかどうか、いまだにわかりません。 どっちかといえば好きじゃないかもしれない、でも気になる。 ワタシにとっては不思議な存在です。 この人が書いたものは心地よくないのです。 読んだ後になんともいえない感覚を残すのです。 女であることの奥底をのぞかされるというか、あんまり直視したくないような女がもつ薄暗いところをえぐって「ほら、あんたにもこういうところあるでしょ」と迫られるような感じ。 あるいは「官能」とも違う、おき火のようなエロスのうずきというか…「女性であること」への変質的な粘着的なひっかかりというか。

6.10ツイラク

舞台は滋賀県の片田舎。 狭い狭い社会の中で子どもたちが成長していくところから物語は始まります。 序盤はとてもゆっくりで、なかなか恋愛小説になりません。 それでも、小学校2年生の女の子たちは無意識ながらそれぞれに、もうすでに性的なことに目覚めている。 登場人物が中学生になると、ていねいに描写された子どもたちの群像から、だんだんひとりの少女に焦点が合ってきます。 早熟なその子はある男性と、世間の常識が許さない関係へと落ちていく…。

この本も、以前の姫野カオルコ同様、読んだ後に爽快感はありませんでした。 ネットでは「エンディングが爽快」とか「感動で泣いた」という感想をたくさんみかけましたから、ワタシの感覚が一般とずれているのかもしれませんが。 とにかく主人公の女の子が痛々しくて、その痛みがとても生々しくて、その子の「その後」がとても案じられて。 忘れ去っていた中学生時代の痛みを思い出させられて。 もちろん、ワタシは「その他おおぜいの子」の立場でしたけどね。 

読もうかどうしようか決めかねたら、文庫本の著者のあとがきと、斎藤美奈子の鋭い洞察に富んだ解説を読んで判断してください。 ネタバレはありませんから。 あとがきにある通りに若すぎる人=ワタシの解釈では20歳以下&性的な描写にアレルギー反応が起きる人には向きません。 といってもイヤらしいのを期待すると、ハズレですからね、念のため。 著者のいうとおり30代、40代くらいで読むといいみたいです。 誰にでもおすすめ!というものではないけれど、みぞおちのあたりにドスンと来るスゴイ小説であることは間違いありません。 でも、この内容じゃ、やっぱり直木賞は無理だったんだろうなとある意味、納得しました。

6.10アジサイ

小説の本筋とはまったく関係ないことですが、滋賀の言葉って京都弁とはずいぶん違うんだなあ、とそんなことにも驚きました。 知らなかったわ。