物語世界をふわふわ漂う 大島真寿美「あなたの本当の人生は」

好きな作家か?と問われたら返事に困る…大島真寿美は私にとって不思議な距離感の作家です。 最初に読んだ「戦友の恋」が印象的で、なんとなく時々本屋さんでみかけると買って読んでみるというくらいのお付き合い。

本の帯には「書けなくなった老作家、代わりに書く秘書、書きたい弟子。「書くこと」に囚われた女たち。三人の奇妙な生活の行く末は?」とあったのですが、実際に読んだ感じは違いました。

4.21あなたの本当の人生は

少女小説の伝説の大家である老女ホーリー、書けなくなったホーリーの代わりにエッセイなどを書いている秘書の宇城、編集者に連れられて憧れのホーリーの内弟子となった芽のでない新人作家國崎という三人の女を巡る話ではあるのだけれど。 ホーリーさんが書いた虚構世界と、この小説内での不思議な現実世界の間でふわふわと漂って、話はあっちへこっちへ。 枕元に置いて、寝たり覚めたりしながら読んでいたので、すごく時間がかかりました。

物語がいかにして生まれるのかわからないのと同じくらい、いや、それ以上に、生きるということのわからなさ=自分には本当は何が向いているのか、どう生きれば幸せなのかは曖昧模糊としていて、自分自身にもよくわからないということを描いているのではないかな。 この読み方でいいのか、あまり自信ないけど。


4.3スノーフレーク

大島真寿美は事前にあまりかっちりプロットや結末を決めずに書いているのかな、と思わせるような、どこへ連れて行かれるのかわからないような感覚が独特です。 きっちりした結末がないからずっと読んできて最後にはぐらかされたようでもありながら、安直な決着をつけないところがいいようでもあり。  きちんと起承転結がある小説が好きな人には向きませんが、私はあまり簡単なオチがつけられていると、かえってしらけてしまうタイプなので、終わり方がふわふわ~としているのも、納得がいかないようで案外嫌いじゃありません(ほめてるんだか、けなしているんだか)。

4.15ヴィオラの花束

改めて「戦友の恋」についての自分の感想を見直してみたら、兄を喪う直前に読んでいました。 まだ、自分の足元が崩れて落ちてしまうような底なしの喪失感を知らなかったときに読んだけれど、この人の「喪失感」のとらえ方が他の人とは少し違っているように感じたことを覚えています。

ものすごく平易な言葉で書いていて、ちょっとジュニア小説風にも思えるくらいなんだけれど、この人のテーマは終始一貫して「喪失感」「人が死ぬとはどういうことなのか」なのだと思います。  死の悲しみを乗り越えて前向きにがんばりましょう、みたいな嘘くさいことはいっさい書かない。 そこに作家として、とても真摯な姿勢を感じています。 それが「ものすごく好き」でもないのに、なんとなく大島真寿美を読み続けている理由かも。

小説を読み終わってから、角田光代の解説を読んだら、いろいろストンと納得。 やっぱり角田光代は洞察が深いな。 でも、読み終わってから解説を読まないと、ほとんど意味がわからないんじゃないかな。


読み終わってしばらくしてから、この本が直木賞候補だったことに気づきました。 最後に、誰が書いたのか判然としない、ホーリーさんの「遺作」の物語が書いてあれば、もっと小説として締まったのかも。 「ピエタ」の方が小説として完成度が高かったんじゃないかな。 どうしてこの作品が候補に選ばれたのか、謎。 モヤモヤした感想になってしまいましたが、自分のための備忘録として。


ずいぶん前に書きかけたまま放置していたから、写真のスノーフレークはとっくに終わってしまって、庭では5月初め頃に咲くはずのナニワイバラの蕾がほころんでいます。 でも、かわいいから、そのまま載せておきます。

今日は暑かった! 今年は季節が半月ぐらい早く進んでいる感覚。 カラッとした快晴だったので、母と自分のセーター13枚をせっせと手洗いして、全部スッキリ乾いて気分いいです。 土曜の夜の講座の続きが始まるため、でかける前に晩ご飯を用意したりして、一日中バタバタ。 よく働き、よく学んで、それなりに充実した一日でした。
 
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香港の街の気配 大島真寿美「香港の甘い豆腐」

「永遠の0」を読みかけてはみたものの、特攻隊の話を読むのは今の私にはやっぱり重すぎました。 そこで、気楽に読めそうな薄い文庫本、大島真寿美「香港の甘い豆腐」を本屋さんでみつけて購入。

香港の甘い豆腐 (小学館文庫)香港の甘い豆腐 (小学館文庫)
(2011/06/07)
大島 真寿美

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なぜ母子家庭なのか、なぜ父親がいないのか、いっさい説明されることなく成長した彩美は17歳の高校生。 夢も自信もなく、級友と群れることに疲れて学校をサボりがち。 それもこれもすべて父親がいないせいにしている覇気のない彩美をみかねた母親が、ある日突然、一方的に香港行きを宣言します。 香港に父親が? 疑問に答えることもなく強引に連れだされた彩美を待っていたのは、エネルギッシュで混沌とした街・香港。 退屈だったはずの夏休みに彩美が出会ったのは…。

タイトルや装丁の雰囲気そのままの、ふんわりと優しい独特の読後感を残す小説でした。 周囲に同調し続けることへの違和感、母親への反発、もやもやとしたものをいっぱい抱えた彩美が、香港の街で自ら人生を選びとっていく女性へとゆるやかに変わっていく。 その過程をほのかなユーモアに包んで描いています。 ごく短くて読みやすいので、夏休みの中学生や高校生の女の子(特に学校生活になじめないと感じている子)にぴったり。 かといって甘酸っぱい青春小説というわけでもなく、大人が読んでも十分に楽しめる内容でした。 ふわふわっとしているようで、しっかり芯のある不思議な味わいがあります。 「ピエタ」とはぜんぜん違う世界。 大島真寿美って結構いろいろ書ける人なんだと認識を新たにしました。 薄い本だし明るい読後感なので、旅のお供にもよさそう。

7.16菖蒲?


富士山が雨で全然みえなかった日に、この本と高野秀行「怪獣記」を宿でゴロゴロしながら読みました。 舞台はかたや香港、かたやトルコ。 どちらも著者のその土地への思い入れが伝わってくるという点でも、旅先で読むのにいいセレクトで満足しました。 「怪獣記」については、また後日に。

いま読み始めた本は、ずっと前にひとりでコーフンして大騒ぎして出版を楽しみにしていたのに、いろんな個人的な事情で結局いままで買えずにいた「あの本」です←ずっとこのブログをじっくり読んでいる方なら意味わかるかな?(わかんない人はスルーしてください) どんな小説なんだろう…ドキドキ。 といいつつ、短編集に浮気したりして。 集中力が欠如していてなかなか読み通せない。

とりあえずプレッシャーを感じていた免許更新ができてやれやれ。 次は歯医者さんと暑中見舞い書き。

■いつも拍手をありがとうございます。 ひとことだけ補足、「Vogel」は「「フォーゲル」と読みます。
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ひっそりと語られる魂の物語 大島真寿美「ピエタ」

大島真寿美「ピエタ」を読み終わりました。 すごくよかったです。 この本に巡りあえてよかった。 これほど物語る文章そのものの美しさを味わって読める小説は本当にひさしぶり。 近頃の小説ってどれも日本語が雑なところが気になっていたので、ひさびさに満足感たっぷりです。

18世紀のヴェネツィア、慈善院「ピエタ」に暮らすエミーリアの元に、恩師である作曲家ヴィヴァルディの訃報が届く。 赤ん坊のとき、ピエタの捨て子受け入れ施設に捨てられ、ほかの捨て子たちとともにピエタでヴィヴァルディから合唱・合奏の手ほどきを受けたエミーリア。 ピエタへの寄付とひきかえに、亡き恩師が遺した一枚の楽譜の行方を捜すことを引き受け、カーニバルに沸きたつ夜の街へとさまよい出た彼女の胸に去来するのは…。

ピエタピエタ
(2011/02/09)
大島真寿美

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爛熟期のヴェネツィアを舞台に、謎多きヴィヴァルディの人生をからめた歴史小説…と書くと、何かこの小説の本質から遠ざかってしまう気がします。 ここで語られるのは、歴史に名を残すことがなく、それぞれに与えられた場所で生きて死んでいった人たちの記憶。

巻末に並ぶ多数の資料をじっくり読みこんだ末に、著者はほとんどのものを思い切りよく捨てて、自分の世界を構築したのだろうと想像できます。 エミーリアがひっそりと語る物語は、とても静かに魂の奥深くまでゆっくりしみこんでいくよう。 人が生きるとはどういうことなのか、大きなテーマに真正面から取り組んだ、著者の真摯な姿勢が伝わってくる佳作です。 以前に読んだ大島真寿美の「戦友の恋」と同じモチーフなのに、もっともっと深い世界が広がっていました。 スリルとサスペンスだけが小説じゃない!と思っている方におすすめ。

それにしても、とても不思議な文体。 会話と地の文がとけあっているところもあれば、「」でくくられているところもあって。 途中で気になって、かなり詳細にじっくり読んだんですが、どうも「」に入れる入れないに規則性はなさそう。 でも、エミーリアの静謐な独白が、石造りのピエタのひんやりとした空気感とともに、自然に心に流れこんでくる心地いい文体でした。 こんな本を読んだら、次に何を読んだらいいのか困るなあ。 「乳と卵」を読みかけましたが、「ピエタ」の直後には無理でした…。

大島真寿美って、朝倉かすみとか中島京子とか平安寿子と同じような、現代に生きる女性を描く作家かと勝手に思っていたんですが(というほど、どの人のも読んでませんけど)、「ピエタ」はなんかスケールが違いました。 新境地なのかな?


戦友の恋戦友の恋
(2009/11/27)
大島 真寿美

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思うところあって、というよりただ単に本の写真を撮るのが面倒になってなんですけど、Amazonにリンクすることにしました。 使い心地はどうなんだろう?

■いつも拍手をありがとうございます。 これまでに読んだ数少ない本についても、ぼちぼち書いていきます。
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静かに語られる再生への日々 大島真寿美「戦友の恋」

大島真寿美という作家の名前さえまったく知りませんでしたが、ネットをさまよっていてなんとなく気になり、図書館で予約しました。 下で紹介した角田光代のどろどろとした「森に住む魚」の対局ともいえる、あっさりとした水彩画のような味わいの小説でした。

3.15戦友の恋

表紙の色のトーンはちょうどいい感じなんだけど、絵があんまり内容に合ってないなあ。 少女マンガっぽい表紙ですが、もう少し「大人」の話です。 若い頃の気力体力で仕事も恋も強引にでも押していくイケイケな気分がなくなる年齢=30代後半~の女性なら、とても共感できると思います。

漫画の原作者である佐紀と担当編集者・玖美子は、互いの駆け出しの頃から仕事上で支え合うだけでなく、仕事を離れても友だちとして多くの時間を一緒に過ごしてきた間柄。 玖美子はその関係を友だちよりも深い絆で結ばれた「戦友」と呼んでいた。 ところが、玖美子はあっけなく佐紀の人生から消えてしまう。 深い深い喪失感からの再生、ゆっくりと進む日々を静かで清澄な筆致でたどる長編小説です。

3.19クリスマスローズ 3.19クリスマスローズ2

暗い内容だったら嫌だと思って警戒していたんですが、ぜんぜん違いました。 この小説には号泣も嗚咽も後悔もありません。 主人公が涙を流すシーンもほとんどなかったように思います。 涙を押し売りするような話がもてはやされている風潮とは真反対に、とても静かな筆致が心地よい大人の小説でした。 日々の仕事に向かいつつ、周囲の人たちと少しずつ関わり、その人たちを喪うかもしれない恐れを胸に抱えた主人公・佐紀。 その淡々とした暮らし方から、かえって喪ったものの大きさが伝わってきました。 仕事のパートナーでもある大切な友人を失うって、どれくらい深いあなぐらに落ちこんだ感じになるんだろう。 幸いにもいままでそうした喪失感を経験していないのだけれど、ワタシは耐えられるだろうか。 みんな長生きしてよね、お願いだから(涙目)。


昨年買ったクリスマスローズは咲き始めは白で、時間がたつとだんだんチョコレート色に変化していきます。 たくさん花がつくと、1株でいろんな色合いになるのがいい感じ。 本日は、風邪ひき中にやりかけたものの、体調不良で集中力・決断力が足りずに放置していたアクセサリーを2本完成させました。 微々たるものだけれど、ひさびさに達成感を味わえました。 この調子で明日はこぎん刺し、明後日はニードルの赤ちゃんをなんとか完成させたい!(あくまで希望ですが)

ただいま読書中の「警官の血」、おもしろい! 上・下巻の長編だから遅読のワタシは一気には読めず、寝不足になるのが困るけど。
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