プラハの迷宮にさまよう心地 ブルース・チャトウィン「ウッツ男爵」

ひさびさの読書感想は、最近読んで印象的だったブルース・チャトウィンの「ウッツ男爵」を。

ブルース・チャトウィンは「パタゴニア」がかっこよくて憧れていた作家。 それまで読んだことがない世界、そして乾いているけれど冷たくない文体にクラクラして、どんな風にしたらこんな文章が書けるのだろうとボーっとなりました。 オークションで有名なサザビーズで鑑定の仕事をした後、考古学を学んで、世界を旅して文章を書いた人。 これでもかというくらい深くて広い知識と、真実を見極める、まさに「目利き」でありながら、決して知識をひけらかすような軽さがない。 ああ、ステキ。

と、こんなに好きといっているわりには、読んだのは「パタゴニア」と「どうして僕はこんなところに」だけ。 そして「ウッツ男爵」がチャトウィンの小説だと、買ってから知ったのだけれど(汗)。

12.1ウッツ男爵

第2次大戦後のチェコのプラハ、東西の冷戦下という世情の中で、政治にも出世にも背を向けてひたすらマイセン磁器の人形蒐集だけに情熱を傾けたウッツ男爵が死んだ。 その膨大なコレクションはどこへ…。

帯には「マイセン磁器の蒐集にすべてを捧げた男が人生の最後に残したミステリーとは?」とありますが、ミステリーとして期待してはいけません。 明確な筋書きがないと嫌な人にもおすすめできません。 これはストーリーを追うような小説ではないので。

話があちこち脱線したりするし(ユダヤ教の師が作り出した人造人間ゴーレムの話がでてきたり、錬金術師の命運が語られたり)、語られる時間もあっちへ行ったりこっちへ来たり(これは「パタゴニア」も同じような感じ)。 ウッツ男爵の人生を単純に追うような構成ではなく、迷宮のような町=プラハを彷徨うような読み心地でした。 いったいどこへ連れていかれるんだろう?と思いつつ読み進め、読み終わってから心の奥で何かがこだましているような不思議な読後感。 ウッツを通して「プラハの春」に至るまでのチェコの社会に漂う空気と、壊れやすい磁器に人生のはかなさが重なって、読んだ後にじわじわきました。

12.1赤の山茶花

風邪は熱が出るほどではないのですが、かなりしつこいです。 先週後半は仕事をこなし、その間にストレッチにも行き、母のお歳暮申し込みに付き合ってデパートへでかけたりもしました。 すっきり治らなくてうっとうしい。 みなさまもくれぐれもお気を付けくださいね。


■たくさんの拍手をありがとうございます! 師走になっちゃいましたねえ…今年もあと1か月と思うと理由もなく焦ります。

ささやかな人生を抱きしめる イーユン・リー「千年の祈り」

半年くらい前に読んだイーユン・リーの短編集「千年の祈り」は私にとってひさびさにストライク! ものすごく気に入りました。 それなのにブログに感想を書かないままになっていて。 「SILENTSHEEP*NET」の羊さんのリクエストにお応えしてアップします。



ずっと昔から宦官を輩出してきた町が行き着いた現代は…(「不滅」)。 変転の末に林ばあさんがようやくたどり着いた居場所は小学校での家政婦としての仕事。小学生の男の子に恋をしてしまう孤独な老女を描いた「あまりもの」。 親友のためを思って自分の夫とともにアメリカへ送りだし、結局ひとり中国に置き去りにされた32歳の高学歴の女性と、市場で卵を売って生計を立てている文盲の貧しい母親の断絶の痛みを切りとった「市場の約束」など、10編を収録したイーユン・リーのデビュー短編集。 

デビュー短編集とは思えないほどの完成度の高さに、読み終わってめまいがしそうでした。 かなり話題になっていたのに、中国文学(といっていいのか??中国人が英語で書いた中国および中国人の話)にも中国にもたいして興味がないし、ましてや話題作だからきっとへそ曲がりな私には合わない…と敬遠していたことをすごく後悔しましたよ。 どちらかといえば長編が好きなんですが、収録されている短編はどれもとても深くて胸にしみました。 一番秀逸だったのは「不滅」。 だって、コミュニティが話者なんですよ! そんな小説ってあったでしょうか? 長い長い中国の歴史を短編でしっかり描いてしまう手腕はただ者ではありません。 これがデビュー作だなんて、ホントにすごすぎ。 ただ、タイトル作の「千年の祈り」は映画化もされていますが、この短編集の中でそれほどいいかな?


中国社会の急速な変化に置き去りにされる人、政治的ではないのに政治に絡めとられて身動きができなくなっている若者、現代日本人には想像を絶するような田舎の貧しさなどなど、どの作品も中国と中国人を描いているのに、その根底にすごい普遍性を感じさせるんです。 なんなんだろう、このスケール感は。 感情に流されない淡々とした筆致で人間の孤独の本質に迫っているのに、どんなに辛く悲しいことを書いていても読後感はけっして悪くありません。 市井の片隅に埋もれたまま一生を送る平凡な人を愛おしむような、著者の優しい視点が独特の余韻を醸しだしているようです。 「中国なんて全然興味ないよ」という人にもおすすめ。


11.18ヤブコウジ

少し前の雨の日、足元の緑の中にポチッとかわいい赤い実がなっていました。 ふだんは目立たない存在のヤブコウジ。

東京日帰りでバタバタして家の用事がまたたまってしまいました。 今日は、ガス給湯器がこわれて新しいものを設置する工事で午後が丸々つぶれてしまった。 何をしているのかわからないまま、どんどん師走に向かって加速している感じ。 とりあえず、やっと「千年の祈り」の感想を書くという宿題を達成。 やれやれ。

■拍手をありがとうございます。

孤独な人生への温かな眼差し イーユン・リー「黄金の少年、エメラルドの少女」

特に期待せずに手にとったイーユン・リー「千年の祈り」がものすごくよかったので、新刊が出るのをとても楽しみにしていました。 とかいって、気がつかないうちにとっくに出てました。 本屋さんで見つけて単行本「黄金の少年、エメラルドの少女」を即買いしました。 イーユン・リーは中国出身の女性作家。 天安門事件後にアメリカへ渡り、大人になってから獲得した外国語である英語で、中国を舞台にして、あるいはアメリカに生きる中国人の姿を短編小説で切りとって描いています。 ハ・ジンといいイーユン・リーといい、こういう越境して活躍する小説家はジャンルとして英米文学なのか中国文学なのか?



代理母問題を扱った衝撃の話題作「獄」、心を閉ざした40代の独身女性の追憶「優しさ」、愛と孤独を静かに描く表題作など珠玉の9編。 O・ヘンリー賞受賞作2編収録。(単行本の帯より)

一番心に残ったのは、事件というほどのことが何も起きない、ただ自らの過去をひとりで静かに振り返っているだけの「優しさ」。 この静謐さ、この寂しさ、この淡々とした語り。 普通なら話としてもたないと思うような素材でも小説にしてしまうイーユン・リーはすごい。 そして、どの話もきわめて辛い現実を描いているのに、人生に対する温かな眼差しが感じられるため後味が苦くないのがいい。 表題作はちょっと…だったけど。

イーユン・リーはウィリアム・トレヴァーが好きで、彼の短編と響き合うように「優しさ」を書いたのだそうです。 ウィリアム・トレヴァー「聖母の贈り物」は私にはあまりピンとこなかったのに、そこから生まれたというイーユン・リーの小説は心にしみる。 不思議。

「千年の祈り」が私にとっては強烈なインパクトがある短編集だったから、ちょっと期待が大きすぎたかもしれません。 この短編集もけっして悪くはないんだけれど、大満足!とはいきませんでした。 「千年の祈り」の感想を書いていなかったので、近日中に書くつもり。

11.7南天

冷たい雨が降る一日でした。 この雨の後は冬並みに寒くなるとか。 このところ温暖化の影響なのか、毎年クリスマスの頃にまだ紅葉していることが多かったけど、今年は紅葉がすごく早そう。

仕事が暇になったのに結構忙しい毎日。 2週間に1回といえどもストレッチと書道にも通っているし、人間ドッグを受けたり、20年ぶりくらいの同窓会があったり、法事があったり、姪たちのために補償交渉のための翻訳をあれこれしたり(そのたびに気分が激しく落ちこむ)、今週末は姪3号がイベントに初出店するというので東京日帰りを目論んだり、庭の落ち葉掃きを毎日したり。 年とった両親が風邪をひかないように、寒くなる前の晴れ間に毛布を干したり、ストーブを裏まで徹底的に掃除したり。 昨日は知り合いのカメラマンのグループ展に行って旧交を温め、その帰りにばったり同級生に会って数年分の立ち話をしたり。 うろうろしている間に、今年もあと1ヶ月半! なんだか焦る。

大人のための短編集 カズオ・イシグロ「夜想曲集」

自分のブログを開けてビックリ! ちょっとチェックしていなかったら、その間にテンプレートが消えてましたね(汗)。 あわてて新しいテンプレートを探してみたけど、気に入るものがみつからず。 パソコン用のテンプレートって需要が減ってしまったのかな…寂しいな。 結局、以前使っていたテンプレートをひっぱりだしてきました。 このテンプレート、背景の色が白い方が断然いいのになあ…とずっと思っていたので、初めてカスタマイズしてみました。 おお、簡単にできた! 前にホームページをつくってみたいと思って、ほんの少しかじっていたのを忘れてなかった。


さて、読書の備忘録を。 ひさびさにカズオ・イシグロ。 「夜想曲集」は秋の夜長にぴったりの短編集です。



ほろ苦くて、でもほんの少し滑稽…そんな人生の一コマを切りとる手腕が秀逸で、さすがにカズオ・イシグロ。 小品という感じで、長編のようなずしっとした読み応えはないけど、深さを感じさせる独特の軽さもステキ。 大人でなくては味わえない小粋な短編の世界を堪能しました。


9.28ミズヒキソウ

台風前の晴れわたった日に、蚊と戦いながら庭でパチリ。 ミズヒキソウをマクロレンズでのぞいたら、小さな小さな花が咲いていました。 いわゆるミズヒキソウらしい姿は蕾だったんですね。 初めて知りました。


明日から遅い夏休み(遅すぎ!)として、親と一緒にちょっとでかけます。 85歳&84歳が転ばないように、しっかり荷物持ちしてきます。 大好きな山方面の温泉付き。 楽しみ~♪ 


■拍手をありがとうございます。 古い記事への拍手もうれしいです。

テロリストの帰還 ベルンハルト・シュリンク「週末」

世界的なベストセラー小説「朗読者」の著者ベルンハルト・シュリンクの最新作です。 「朗読者」は小説としてあまり好きではなかったのですが、本屋さんに並んでいて、日本でいうところの全共闘世代をテーマにしているということで興味をひかれて、ひさびさに新刊本を購入。 新潮社のクレストブックスはついつい欲しくなるステキな装丁&文字組みですし。



赤軍派テロリストとして殺人を犯し服役していた男が恩赦により20年ぶりに帰ってくる。 母親代わりの姉は弟の出所を迎えるため、週末に弟の旧友たちを郊外のヴィラに招待してパーティーを企画。 しかし、20年の歳月はそれぞれの立場を大きく変えていて、友情、ねたみ、かつての淡い恋…互いに胸に秘めた思いが交錯していく。

裏表紙に書かれている「償うことができない行為をした人間は、その後、どうやって生きていけばいいのか。人は人生との折り合いを、どうつけていけばいいのか。…何より人生への深い洞察がある。」という言葉にひかれて買ったのですが、そうかなあ?? 読む前に「こういうオチだったら嫌だな」と思っていた通りの終わり方でした。 なんだかな。 文章がそれなりにいいから、読んで損した!とまではいいませんけど買わなくてもよかった。

9.23キンミズヒキソウ


この著者の語り口はとても洗練されているんだけれども、どれも「小説のネタにするためによさそうなテーマを探した」という感じがしてなりません。 この小説でも、結局テロリストの断罪はどうなったんだ?と突っこみを入れたくなりました。 テロリストの男がまるで反省の気持ちがないのは実際そんなものなのかもしれないけれど(日本に戻ってきた某・女テロリストもそんな風にみえます)、この小説の登場人物のほとんどが、男の過去の罪に対してほとんど何も気にしていない。 暴力を行使した全共闘世代に対して釈然としない感じを日頃からもっているから、このエンディングにイラッときたのかもしれません。 もしかしたら、著者は「赤軍派世代なんて、こんなものなんだよ」ということがいいたかったのかも。 だとしたら、作戦勝ちです。 とても演劇的で、そのうちこのまま舞台になりそう。 でもなあ…人の命の重さをどう考えているのか、著者なりの答えを示して欲しかったです(勧善懲悪じゃなくてもいいから)。


■拍手をありがとうございます。 みんな、いろいろたいへんなことを抱えているのですよね。 前の記事を書いた直後はあまりにどんより暗い内容だから消そうかと迷ったのですが、生きていればそんな日もあります。 暗い気持ちを書いてしまったけれど、そうすることで少しでも誰かに寄り添えたとしたら幸いです。

大都会の片隅で生きる心細さ ハ・ジン「すばらしい墜落」

以前、図書館で何気なく手にとったハ・ジン「待ち暮らし」があまりにもよかったので、次の出版を楽しみに待っていました。 ところが「自由生活」は上下2巻で合わせて5,500円以上!? 本屋さんで何度も何度も眺めて、でも買う勇気がなくウニョウニョしていたら、新刊の短編集「すばらしい墜落」を発見。 これなら買える!と、5,500円の本を目の前にしたら、突然気前よくなってレジへ一直線でした。

すばらしい墜落すばらしい墜落
(2011/03/18)
ハ ジン

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大都会ニューヨークのクイーンズ地区にあるチャイナタウン、フラッシングで生きる中国系移民の姿を描いた短編集です。 仕事で成功している人、厳しい労働で日々の生活をやっとのことで支えている人、英語がしゃべれないために屈辱的な立場に甘んじている人、アメリカ育ちの孫たちを理解できず不満いっぱいの老夫婦…さまざまな立場の人々の日常生活の一コマを切りとった12編。 中国系移民という枠を超え、市井に生きることのおかしさと哀しさを普遍性をもって描いた現代文学です。

ハ・ジンはやっぱりいい。 すごく好きです。 大都会の片隅で、地味で平凡でささやかな人生を送る人々。 主人公たちは外国暮らしの心細さ、もう戻ることができない遠いふるさとへの郷愁、現地の言葉や生活になじめないがための悔しさなど、それぞれに葛藤を胸の奥に抱えながらも自分がいる場所で精一杯に生きている。 そういう感じがとても好き。 平易でありながら余韻のある表現は、ハ・ジンが外国語として勉強して獲得した英語で書いているからなのでしょう。 美文に堕しない、とつとつとした語り口も好み。 起伏に富んだストーリーが好きという方にはおすすめできませんが、ハ・ジンは一読の価値あり!と私は思います。

待ち暮らし (ハヤカワ・ノヴェルズ)待ち暮らし (ハヤカワ・ノヴェルズ)
(2000/12)
ハ ジン

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■いろいろな記事にたくさんの拍手をありがとうございます。 やさしいコメントをくださったみなさん、本当にありがとう。 みなさんの言葉のひとつひとつ、心の奥までしみて、小さな、でも温かな灯がともったような気持ちになりました。

7.14トラノオ

田貫湖畔に咲いていたトラノオ。 写真に撮れない遠くに群生しているのを眺められて感激。 小さな白い花の穂が風に吹かれたような姿が愛らしい。 会えてうれしかった。

フェルメールの静けさを写しとって トレイシー・シュヴァリエ「真珠の耳飾りの少女」

図書館で「真珠の耳飾りの少女」というタイトルをみつけて、そういえば何年か前に映画化されていたなと気になって借りてきました。 お正月明けに読むのによさそうだったので。 期待通り(?)聡明な少女がひっそりと胸のうちだけで語っているような穏やかさに包まれた、ある意味では少々ダルイ(予定調和的な)展開のお話でした。

1.11

17世紀のオランダを舞台に、画家フェルメールの家で女中として働くことになった少女フリートの視点で語られる日々。 貧しい家庭に育ち、10代半ばから過酷な女中奉公をせざるをえないフリートの境遇や、往時のデルフトの街角を静かに詳細に描きつつ、1枚の名画がうみだされるまでのフェルメール家内の様子が描写されていきます。 なぜフェルメールは人目を忍んでまで女中フリートの肖像画を描こうとしたのか…。

表紙に載っているフェルメールの名画から着想をえて、イギリス在住の女性作家トレイシー・シュバリエが英語で書いた小説です。 フェルメールの生涯はいまだに謎に包まれているため、家族構成や住んでいた場所、パトロンの名前など以外はほとんどすべて創作されたものだそうです。

本のタイトルにもなっている名画「真珠の耳飾りの少女」が描かれる後半は、読む手を止めて何度も何度も表紙の絵に見入りました。 このモデルは誰だったのか? なぜターバンを巻いたようなスタイルをしているのか? なにか言いたげな視線と半開きの口。 そしてフェルメールの光のとらえ方のすばらしさを改めて認識しました。 フェルメールがどのような絵の具を使っていたのかは事実に基づいているようで、そういう点で「へえ」と思うところはありましたし、たった1枚の絵から想像力を働かせて、フェルメールの絵画がまとう静けさをそのまま写しとったような静かな小説に仕立て上げた著者の手腕はなかなかのものだと思います。 ただワタシが勝手に期待していたほど文学的ではなかったです。 自分の体調がいまいちで、本に集中できなかったせいかもしれませんが。 フェルメールが好き!という人なら、もっと楽しめるのかも。 読み終わってみると、主人公やフェルメールの人物像よりも、むしろ往時のオランダの町の方が強く心に残りました。 読んで損はなかったけど、図書館本でよかったというのが正直な感想です。 でも、いま無性にフェルメールの絵がみてみたい気分。


明朝までの大急ぎ仕事が片付いてホッ。 まぶたの腫れはまだ続いていて、内蔵にもじんま疹が出ているような嫌な感じがあるので、そろそろ寝ます。

■いつも拍手をありがとうございます。

■Tさん、ご心配ありがとうございます。 フェリシモのこぎん刺しは、典型的な模様よりさらに北欧っぽい感じですよね。 北欧の織りも気になりますよねえ…簡単な織機のパンフレットを眺めては「これ以上、手を広げてはダメ!」と必死で自戒しています。 Tさんはひょっとしてそろそろ始められるのかしら?

遅れてきたカウボーイの旅路 コーマック・マッカーシー「すべての美しい馬」

なんとなく気になったハヤカワepi文庫の新刊「越境」。 買って帰ってよくよくみたら、コーマック・マッカーシーの国境3部作の2作目と書いてあって、あれれ失敗した! やっぱり最初から読んだ方がいいだろうと第1作の「すべての美しい馬」をさらに買い求めました。 最後まで読んでみたら、「越境」は「すべての美しい馬」の続編というわけではなくて、主人公も別だとわかりました。 なんだ…。 ただ3作目の「平原の町」で第1作と第2作の主人公が登場するそうです。 ということで、「越境」が気になる人はとりあえず「越境」を先に読んでも問題ないみたいです。

12.7すべての美しい馬

物語は主人公ジョン・グレイディの祖父の棺を前にして唐突に始まります。 祖父が守ってきた牧場が人手に渡ることになると知った16歳のジョン・グレイディは、親友ロリンズとともに愛馬を駆ってメキシコへと向かいます。 途中で正体不明の少年が2人の旅に強引に割りこみ、3人で違法に国境を越えてメキシコに入国。 荒れ地をさまよううち、少年が馬を失ったことから、とんでもない災厄に巻きこまれていくことに…。 馬を愛し、牧童として生きたいと願うものの、生まれてくる時代が少しばかり遅すぎたジョン・グレイディの魂の旅を描いたハードボイルド風の小説です。

最初の100ページくらい、さすらいの旅の部分は眠気を誘う何らかの特殊効果が埋めこまれているのかと疑いたくなるほど、えらく読むのに時間がかかりました。 叙情的でゆったりとした前半とは打って変わって、後半は怒濤の展開であっというまに読了。 物語にひきこまれたというのとは少し違うんですが。 唐突に暴力的な世界にぶちこまれて(この小説のストーリーはすべて唐突なんです)、「こういうのはあんまり好きじゃないなあ」と思いながらも読み続けてしまいました。 それだけ小説に力があるっていうことかもしれません。

12.7小さな紅葉

この小説は文体がものすごく独特です。 句読点がないまま何行にもわたって一文が続き、会話には「」がありません。 説明も心理描写もありません。 ただただ起こったことを描写するだけ。 かなり読みにくいのだけれども、反面、このねじくれた文体が小説に強さを与えていて、読み終わってみると、ひょっとしたらこの小説はこの文体がすべてなんじゃないかという気さえしました。 ストーリーは通俗的というか、全体を俯瞰すればハリウッド映画によくありそうな話です(実際に映画化されているそうです)。 現代に舞台を移した西部劇をベースに、時代がかったロマンスの甘みとピカレスクの苦みのテイストをまぶしたハードボイルドという感じ。

全米図書賞を受賞したベストセラーだそうですが、ストーリーは意外に陳腐。 女性の描き方も薄っぺらいし、あんまり好きなタイプの小説じゃないんだけど、馬の美しさ、馬への愛情、メキシコの乾いた風景は強く心に残りました。 ひたすら馬に乗って、夜になれば焚き火に当たりながらコーヒーを飲んで煙草をくゆらす。 男臭いシーンが多くて、アメリカ人なら古き良き時代への郷愁、ニヒルな男の世界への憧れでうっとりするのかもしれません。 裏表紙の紹介文に「青春小説の傑作」と書かれていましたが、この主人公はどう考えても16歳とは思えません。 途中で主人公の年齢を忘れて、漠然と20代後半くらいの男を想像しながら読んでいて、最後の方で「16歳」と何度も出てきて、「うっそー! こんな16歳、いるわけないだろ」と突っこみたくなりました。 こんなに寡黙で自分のするべきことがわかっていて、強いのに罪の意識も持てるようなまじめな16歳っている? と、文句たらたら言いながら、しばらくしたら「越境」を読むつもり。 好きじゃないけど、嫌いでもないので。

■sifakaさん、はじめまして! 拍手とコメントをありがとうございました! いっぱい拍手してくださっていたんですね、本当にありがとうございます。 コメントを残してくださって、とても嬉しかったです。 アカリスの写真をみました。 かわいいですねえ。 リスってあまりにもかわいいから、どんな風に作っても本物よりかわいくできないんですよ。 リスを作るとき、このリスの写真を参考にしました(←かわいくて萌えますよ~。動物好きの方はぜひ!)。 最近ちょっとサボりペースなんですが、また遊びに来てくださいね!

■とりほさん、こぎん刺しでエールを送っていただいてホントに感謝です! あれがなかったら、まだ放置していたかも(笑)。 近ごろ羊毛沼にはまってしまって…こぎん刺しの在庫消化は年が明けてからかな。 とりあえず、材料だけは着実にためこんでます。

子どもの孤独が心に刺さる ル・クレジオ「海を見たことがなかった少年」

毎日、なんだか気分がすっきりしなくてうだうだ。 ブログもすっかりサボり癖がついてしまいました。 自分自身の気分がどんより低調を維持しているような状態なのに、高齢の両親に振り回されて、あっというまに一日が終わってしまいます。 まだ介護をしなくていいだけありがたいと思わなくてはいけないのでしょうが、ひとりで耳がすごく遠い年寄りふたりを相手にするのはとても疲れます。 怒鳴りたくないけど、怒鳴らないと親には何も聞こえなくて、怒鳴ると自分が一番気分が悪い…完全に悪循環。 読書もまったく集中できず…ああ、これが更年期うつってやつなんでしょうか(ため息)。

そんな状態で、ごく薄い文庫本なのに読むのにとても時間がかかったのが、ノーベル賞作家ル・クレジオ「海を見たことがなかった少年」。 なので、この感想はあまりアテになりません。

11.18海を見たことが

筋というほどの筋はなく、どちらかといえば美しい文章とイメージを味わう短編集です。 主人公はいずれも少年や少女。 好きな要素がたっぷりで、ずっと読んでみたくて本屋さんで探しまくった本だったのですが、ワタシの肌には合いませんでした。

同じ著者の「パワナ」は好きだったんだけどなあ。 読み終わった後、どうして共感できなかったのか、ずっと考えていました。 文庫の解説でも言及されていた宮沢賢治の「風の又三郎」やミヒャエル・エンデ「モモ」、そして「星の王子さま」と、この短編集はとても似た世界なんですね。 どれも名作として知られているものばかりなのに、正直にいうとこれら全部がワタシは苦手なんです。 嫌いというのではなくて、苦手。 物語世界にまったく入りこめないんです。 みんなに愛されている名作なのに、どうして好きになれないのか…不思議だったんですが、「海を見たことがなかった少年」を読んだ後にあれこれ考えてみて、ようやく原因がわかった気がしました。 主人公たちはみんな子どもなのに、圧倒的に孤独、少なくとも精神的には「天涯孤独」な境遇。 そこに、喉の奥に刺さった小さな小さな魚の骨のような違和感を覚えていたんだと気づきました。 まだ保護されるべき幼い子どもがたったひとりで生きているというシチュエーションが、生理的に(理性とは関係なく)受け入れられなかったらしいです。 だって冒頭の「モンド」からして悲しすぎる。 モンドみたいな子どもに出会ったら、何も言わずギューッと抱きしめたくなります、きっと。 そんなわけで、読書としては楽しめませんでした。 たぶん「風の又三郎」「モモ」「星の王子さま」が好きな人なら、とっても好きだと思いますよ。

11.18ヒイラギ

これはヒイラギの花。 雨が降りだす前、小さな花が密やかに咲いていました。 見落としてしまいそうなほど地味な花。 なんともいえない甘い香りで気づきました。 庭では冬の花が咲きだして、やっと雨が上がったから写真を撮りたかったんですが、母の頼み事でネット検索に明け暮れて、結局、今日は庭にでる時間がありませんでした。 こぎん刺しのキットもようやくひとつ仕上げられて写真に撮りたかったんだけど。 明日は撮れるかな。 羊毛の方は失敗を恐れずあれこれ試した結果、失敗だらけ(涙)。 コサージュを作っていたはずが、やっぱり毛の生えたものの方が楽しくて、いつのまにまた立体をサクサクしてしまっています。 年賀状のトラも作らなくちゃ(汗)。

オランダ絵画から紡ぎだされた小説 デボラ・モガー「チューリップ熱」

なんの予備知識もなく図書館でたまたまみつけたデボラ・モガー「チューリップ熱」。 タイトルをみて、ひょっとしてチューリップを媒介にして広まる病気の話?なんて想像しながら取り出してみると、表紙の装丁が退廃的だけど素敵。 パラパラとページを繰ると、いくつもオランダ絵画のカラー画像が入っていて美術書みたい。 これが小説?と気になって借りてきました。

10.31チューリップ熱

スペインから独立して市民階級が台頭した17世紀のオランダを舞台に、豪商の若き妻と肖像画家の不倫の顛末を描いた小説です。 美しく敬虔なカトリック教徒だった人妻は画家との道ならぬ恋に溺れ、やがて望まない妊娠をしてしまった女中を利用して年配の夫から逃れようと画策するが…。

いい意味でも悪い意味でも、ものすごく映画的な小説というか、映画を小説化したかのような感じを受ける本でした。 スピルバーグが映画化権をもっているというのもうなずけます。 この本なら、素人目にも脚本化するのもとても簡単そうに思えます。 前半が少々だるくて、深みがほんの少し足りないような読後感でしたが、エンターテイメントとしてはおもしろく読めました。 オランダ絵画からインスパイアされた小説で、かつ各章の前に当時の格言や画家の言葉を入れた額縁のような構成(当時は絵と格言で構成された本があったとか)も凝っていたため、なんとなく文学的なものを期待していたのですが、これは完全にエンタメ系でした。

一気に興隆してきた市民階級の需要を受けてオランダ絵画が描かれた時代背景、トルコから伝来したチューリップが人気となり、やがて投機対象となりチューリップ・バブルに湧いた歴史的事実が、この小説を通してすんなり頭に入りました。 最近みた「ルーブル美術館展」や、中野京子「怖い絵」シリーズの影響で、これまでそれほどオランダ絵画に興味を持っていなかったワタシも楽しめたのかも。 たしか「怖い絵2」に載っていたと記憶しているんですが、年寄りの金持ちと若くて不幸そうな顔つきの妻のオランダの肖像画が、ものすごくこの小説に似通っていて、ひょっとして著者はあの絵を見て小説を考えついたのでは…なんて想像したり。 さしはさまれているさまざまな絵から紡ぎだされたような小説なので、フェルメールをはじめとする17世紀のオランダ絵画に興味がある人に特におすすめです。

11.1センリョウの実

センリョウがすっかり色づいています。 例年よりずいぶん早いなあ。 お正月までもつんだろうか?

みなさん、いつも拍手をありがとうございます。 ちょこちょこでかけて買い物したり友だちと会ったり羊毛チクチクしたりしてるんですが、なんとはなしにブログはサボり気味。 集中力に欠けて読書もほとんど進まず。 これがトシってやつらしいです…とほほ。 連休明けはきつい締切の仕事が重なってるのに、大丈夫なんだろうか、ワタシは。