古典的文学をまじめに論じた本 清水義範・西原理恵子「独断流『読書』必勝法」

実は西原理恵子の絵、好きじゃないんです。 だから、どうして世間でこんなに話題になっているのかわからないし、わかろうとして読む気もしないまま今日に至っています。 唯一、サイバラの絵に触れたのは、清水義範との共著「おもしろくても理科」。 本の内容は清水センセイとサイバラのコンビが軽妙な味をだしていて、とてもおもしろかったけれど、サイバラの絵そのものには魅力を感じませんでした。

6.14独断流読書必勝法

というわけで、本屋さんに平積みされている新刊本「独断流『読書』必勝法」も、「表紙の絵がなんだかなあ」と買うかどうか迷いました。 読んでみたら、とてもよかった。 買ってよかった。 サイバラの絵の印象から内容的に軽いものを連想させてしまうんですが、中身は清水義範が古今東西(といっても現代の作品はなし)の名作といわれる小説を題材にして、ものすごくまじめに文学を論じています。 ワーワーめちゃくちゃにこき下ろすような書評ではなくて、ホントにまじめ。

清水義範は名作をていねいに読み直して、ストーリーだけではない味わい方、あるいは名作の裏側事情を、愛情をもって真摯な言葉で解説しています。 けっして「上から目線」ではなく、「こんな古くさいブンガク、読む価値あるの?」と思っている人にもわかりやすく味わいどころを書いていて、好感が持てます。 こんなにまじめな本、ひさしぶりに読んだ気がする。

6.14アジサイ紫

まじめな清水センセイに対して、サイバラはどんどん逸脱して、後半はまるで本と関係のないことばかり描いているんですが(それも、かなりおゲレツなネタ)。 それでも、1つ下の川端康成の感想とコメントのところに書いたように、「伊豆の踊子」への深い洞察だけでサイバラを見直しました。 「伊豆の踊子」について、ずっともわもわと抱えていた釈然としない気持ちの元凶をズパッと言語化されていて、目からウロコが落ちて視界が一気に開けた気分。 サイバラに対する高い評価はこういう洞察力にあるんだと納得しました。 清水センセイからでた課題図書には興味がわかなかったらしいけど、この人、子どもの頃からかなり本を読んで自分で考えているんですね(マンガの端々に出てくる)。 アイルランド人作家のジェイムズ・ジョイス「若い芸術家の肖像」のところで、「『ダブリン市民』が生涯読んだなかでダントツにつまんなかった」と、思い出しつまんない泣きしつつ「『アンジェラの灰』はすごい好きだったなー」というコメントに、うんうん、わかってるじゃん、サイバラ!と独りごちしました(「ダブリン市民」読んでないけど)。 いま話題沸騰のハルキをサイバラはどう読むんだろう? 知りたいなあ。

6.14アジサイ白

この本で取りあげられているのは「坊ちゃん」「ロビンソン・クルーソー」「伊豆の踊子」「ガリヴァー旅行記」「細雪」「ハムレット」「陰獣」「嵐が丘」「高野聖」「罪と罰」「河童」「谷間の百合」「濹東綺譚」「黒猫」「暗夜行路」「ボヴァリー夫人」「金閣寺」「若い芸術家の肖像」「万延元年のフットボール」「魔の山」。 ね、すごいラインナップでしょ? 「谷間の百合」とか「ボヴァリー夫人」なんて、サイバラじゃないけど、いまどき読むひといるの?と思った反面、ハーレクインロマンスを読み過ぎちゃった主婦の話みたいな「ボヴァリー夫人」をちょっと読んでみたくなりました。 一時、片っ端から読んだ谷崎潤一郎や三島由紀夫の何にワタシがひかれていたのかも腑に落ちました。 ミシマに遅れた世代として生まれたおかげで、清水義範のような先入観なしにミシマに触れられたのはラッキーだったなとか、ドストエフスキーは大人になってからの方が断然おもしろく読めるというのはまったく同感だなとか、いろいろ楽しめました。

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