ぬか床から始まる壮大な話 梨木香歩「沼地のある森を抜けて」

梨木香歩は「家守綺譚」が大好きだけど、「西の魔女が死んだ」は好みではなくて、梨木香歩なら何でもOKというわけではないワタシ。 梨木香歩の本は、本屋さんで手にとってジーッと眺めて好きな匂いがしているかどうか、嗅覚を全開にして判断します。

で、「沼地のある森を抜けて」はですね、嗅覚的にOUTだったんです。 だって、ぬか床をめぐる物語なんですよ。 好き嫌いがほとんどないワタシの2大苦手食物=ぬか漬け&納豆。 無理です、ぬか臭い話なんて、納豆屋繁盛記(そんなのあるのか?)と同じくらい体質的に受けつけられません。 ところが、リンクさせてもらっている「P&M Blog」のpiaaさんが大絶賛されていて、むむむ…。 それならばと読む気になったのに、本屋さんで探してもなぜだかみつからず、ようやく入手できて、やっと読めました。 ああ…なんかね、すごいお話で読後もしばしボーッと放心。 この話、いったいなんと紹介したらいいのか、うまく言葉がみつかりません。

9.18沼地のある森を

両親を学生時代に失った久美は、会社の研究室に勤める独身女性(たぶんほどほど妙齢)。 急死した独身の叔母が遺したマンションとともに、謎めいた祖先伝来のぬか床を受け継ぐことに。 ところが、このぬか床からうめき声が聞こえてきたり、卵のようなものが湧きだしてきたり、ついにはぬか床の卵から人のようなものが出現してきて…。 不思議な運命の糸にたぐられるようにして、叔母の知り合い・風野さんとともに先祖の出身地である島へと向かった久美を待っていたのは…。

ものすごく変わった小説でした。 あらすじを書くとホラーみたいですが、別に怖い話ではありません。 SF的な純文学とでもいえばいいのでしょうか。 生命とは?自己と他者を隔てるものは?死とは?といった問いに対して、哲学もジェンダー論も生物学的生命論も含めた壮大なスケールで梨木香歩は自分なりの答えをブンガクとして提示しようとした…のかな(苦笑)←この小説をちゃんと読めたか自信なし。

9.13シソ白

正直な感想としては、物語世界をちょっと大きく広げすぎたんじゃないか、という気がします。 小説として描くには壮大すぎることに挑戦して、破綻する一歩手前って感じを受けました。 最初の章「フリオのために」は、あり得ないことが目の前で起きて驚きながらも「ま、しかたないか」とわりとあっさり受け入れてしまう主人公のあり方が結構ワタシ好みなんだけど(初期の川上弘美の「神様」「椰子椰子」に似ていて)、その後はだんだん小説のテイストが微妙に変わってしまった。 もっとあっけらかんと不思議なことが不思議でない世界へ連れて行ってくれるのかと思ったんだけど、その後に展開したのは予想したのとはぜんぜん違う世界でした。 途中に挟まれる主人公とはまったく別世界の「かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話」もなんとはなしに、小説全体にしっくりとけこんでいないような、未消化な感じがしました(それでも、シマの物語のクライマックスとなる「死」の描写は感動的!)。

物語の神話的なラストは、すべての始まりであるような終わりであるような永遠のような、細胞の話であるような宇宙創造の話であるような。 まさに「エロスとタナトス」!(さっきみていたTV番組で池澤夏樹が語っていた言葉の受け売り) でも結局、「家守綺譚」に感じたような「圧倒的な共感」というものは「沼地のある森を抜けて」には抱けませんでした。 ま、大嫌いなぬかの匂いに包まれたお話ですからね、所詮無理でした。 それにしても、細胞分裂による増殖から、ほかの細胞との合体による増殖へと移り変わる最初の瞬間って、どんなだったんだろうと、その問いかけがとても心に残りました。

ところで、「家守綺譚」は、「沼地のある森を抜けて」を書いていてとても精神的にたいへんだったときに、まかない食のような感じで軽く書いたものだったそうです。 肩の力が抜けている分だけ、素直に軽く、それでいながらなかなかに深遠なことが書けたのかもしれませんね。


わが家の庭では、雑草と化しているシソが白い花をつけています。 野生化してしまってから、葉っぱはえぐみがあって食用に適さないんだけど、花はどうかなあ。 花が咲いているうちにお刺身を買ってきて、一度は添えて食べてみよ。
Category: 梨木香歩

コメント

え~vogelさん、納豆キライなんですか?我が家は全員好きで、必ず冷蔵庫に常備してあります。

それは置いといて。私この作品そんなに絶賛したっけ?と思って自分の記事を見てみると、おお絶賛してますねえ。
でもこれは結構マニアックな作品ですよね。日本作家の文学はSFっぽいものが多いですが、これは純粋にSFとしてかなり高いレベルにある作品だと思います。
でもやっぱ「家守綺譚」の方がいいですね。

2009/09/15 (Tue) 01:14 | piaa #- | URL | 編集

えへへ、最大の弱点がぬか漬け&納豆なんですよ。
ワタシをいじめるときは納豆責めがよろしいかと(笑)。

「沼地のある森を抜けて」はやっぱりSFなんですね。
SF好きのpiaaさんが満足されるくらいだから、SFとして優れた作品なんでしょう。
それにしてもSFとぬか床って一番相容れないようなものなのに、
よく考えついたものだなあ…とか、この本を読んでいる間ずっと、小説の本筋とは違うところにあれこれ感心してしまいました。

そろそろ発酵してきそうなほど長らく買ったまま仕舞ってある「f植物園の巣穴」を読もうかという気になってきました。 「家守綺譚」みたいな小説かなあ…と期待しているのですが、さてどうでしょう。

2009/09/16 (Wed) 01:15 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

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