夢かうつつか幻か 梨木香歩「f植物園の巣穴」

数ヶ月前に買って温存していた梨木香歩「f植物園の巣穴」を、ついに紐解きました。 表紙の秋海棠のイメージから、読むなら初秋の頃がいいと漠然と考えていたんです。 いま、わが家でも秋海棠がかわいらしく楚々とうつむき加減に咲いています。

9.26f植物園

f植物園の園丁が歯痛に耐えきれず、勤め先の近所の歯医者にかけこんだところから、少しずつ現実の世界からずれていくような感覚にとらわれていきます。 歯医者の言っていることは微妙にヘンだし、歯医者の奥さんがときどき犬の姿になってしまったり、職場の周囲の風景がいつもと少し違って見えてきたり、戸惑っているうちに植物園の巨木の洞に落ちてしまったような気もするのだが、記憶がだんだん混濁してきて…。

梨木香歩の「家守綺譚」が大大大好きなもので、ものすごく期待して読みました。 だって、表紙の美しい装丁も、帯に書いてある惹句も、いかにも「家守綺譚」の世界なんですもの。 でも、あの独特の「のほほん」としたような、ゆっくりした時が流れるような世界観とは違う作品で、読んでいる間は心中で「?」「!」の連続。 物語世界にどっぷり浸かって「ああ、読んで幸せ~」とつぶやくような甘い感じはまったくないんですよ。 とはいっても「家守」とまったく同じだったら、それはそれでがっかりするんですけどね。 ワタシの正直な感想は、「家守」を越えるものではなかった…。 期待しすぎると、ややガッカリかもしれません。

夢かうつつか幻なのか判然としないまま、どんどん主人公の心と記憶の奥深くへと降りていく非常に感覚な文章が延々と続きます。 読みながらも「いったいどこへ連れて行かれるのか?」という思いが何度も胸をよぎりました。 着地点は思いがけないところだったけれど、著者のメッセージがしっかり読者に届く、梨木さんらしい結末でした。 読み終わった後は、忘れてしまったこと、そして忘れてしまいたかったことと対峙することになった主人公と一緒に、長いようで一瞬だったような異次元の旅を終えた気分。 直後は、なんか物足りないなあ…と感じたのですが、なんともいえない余韻を残す小説でした。 とにかく、ほかの何ものとも違う世界を梨木さんは目指しているんですねえ。 すごいチャレンジャー魂だわ。


9.26初秋の庭

老婆心ですが、読もうと思っている人はAmazonのレビューを読まない方がいいですよ。 完全にネタバレしているのがありましたから。 ネタに寄りかかった作品ではないけれど、「どこへ連れて行くの~ッ!」という不安感みたいなものも、この小説の醍醐味のひとつだと思うので。

そろそろ歯医者さんに行かなくてはいけないと前から思ってたんですが、歯医者さんで口を開けてるときに薄目を開けたら、助手の手がいつのまにか犬の足になってたりして…(笑)。 さらに、題名の植物園の名前については作中で何も触れられていないのですが、ワタシの歯医者さんは府立植物園のそば。 「f植物園」ですよ。 ひょっとして、あの植物園をイメージして書いたの?? あの近くには深泥池という沼っぽい地質的にも非常に古い池があるしなあ。


今日の写真は珍しくひきぎみに撮ってみました。 杜鵑(ホトトギス)がいっせいに咲き始めたのでパチリ。 アカマンマやゲンノショウコもそのままで、うちの庭はすっかり野草園です。

■Tさんは「ボローニャ絵本展」をみられたんですね。 いいなあ。 毎年、「今年こそみにいきたい」と思いながら、なかなか行けなくて。 来年こそは!
Category: 梨木香歩

コメント

夢うつつ

「家守」を結びつけずに梨木さんを読むのはむずかしいけれど、あまり「家守」感を期待しすぎずにv-237、いつか読みたいと思います。

vogelさん、きっとそうですよ。
イメージはその歯医者さん。
そうするとお話が100倍楽しいですね。

さて、白のホトトギス。
身近では見かけませんが、きれいですね、と
前もそんなふうに思ったのは
vogelさんのお庭でだったような。

2009/09/27 (Sun) 22:22 | donau #tUnKcmU. | URL | 編集

donauさん、そうなんですよ、「家守」とはまったく別のものとして読めば
感じ方はまた違ってくると思います。

植物園のそばにある歯医者さんのことを思い浮かべながら読んだら、
ホントおもしろかったです。
口を開けたままにしているときに、「犬の手」を思い出したら
吹き出してしまいそう(笑)。

ホトトギスはうちの庭にすごく合っているようで、毎年群れ咲いて、
そうすると白と斑の花粉が混じって、花とシベの色に
いろんなバリエーションが出てくるんですよ。

2009/09/28 (Mon) 00:26 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

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