ひっそりと語られる魂の物語 大島真寿美「ピエタ」

大島真寿美「ピエタ」を読み終わりました。 すごくよかったです。 この本に巡りあえてよかった。 これほど物語る文章そのものの美しさを味わって読める小説は本当にひさしぶり。 近頃の小説ってどれも日本語が雑なところが気になっていたので、ひさびさに満足感たっぷりです。

18世紀のヴェネツィア、慈善院「ピエタ」に暮らすエミーリアの元に、恩師である作曲家ヴィヴァルディの訃報が届く。 赤ん坊のとき、ピエタの捨て子受け入れ施設に捨てられ、ほかの捨て子たちとともにピエタでヴィヴァルディから合唱・合奏の手ほどきを受けたエミーリア。 ピエタへの寄付とひきかえに、亡き恩師が遺した一枚の楽譜の行方を捜すことを引き受け、カーニバルに沸きたつ夜の街へとさまよい出た彼女の胸に去来するのは…。

ピエタピエタ
(2011/02/09)
大島真寿美

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爛熟期のヴェネツィアを舞台に、謎多きヴィヴァルディの人生をからめた歴史小説…と書くと、何かこの小説の本質から遠ざかってしまう気がします。 ここで語られるのは、歴史に名を残すことがなく、それぞれに与えられた場所で生きて死んでいった人たちの記憶。

巻末に並ぶ多数の資料をじっくり読みこんだ末に、著者はほとんどのものを思い切りよく捨てて、自分の世界を構築したのだろうと想像できます。 エミーリアがひっそりと語る物語は、とても静かに魂の奥深くまでゆっくりしみこんでいくよう。 人が生きるとはどういうことなのか、大きなテーマに真正面から取り組んだ、著者の真摯な姿勢が伝わってくる佳作です。 以前に読んだ大島真寿美の「戦友の恋」と同じモチーフなのに、もっともっと深い世界が広がっていました。 スリルとサスペンスだけが小説じゃない!と思っている方におすすめ。

それにしても、とても不思議な文体。 会話と地の文がとけあっているところもあれば、「」でくくられているところもあって。 途中で気になって、かなり詳細にじっくり読んだんですが、どうも「」に入れる入れないに規則性はなさそう。 でも、エミーリアの静謐な独白が、石造りのピエタのひんやりとした空気感とともに、自然に心に流れこんでくる心地いい文体でした。 こんな本を読んだら、次に何を読んだらいいのか困るなあ。 「乳と卵」を読みかけましたが、「ピエタ」の直後には無理でした…。

大島真寿美って、朝倉かすみとか中島京子とか平安寿子と同じような、現代に生きる女性を描く作家かと勝手に思っていたんですが(というほど、どの人のも読んでませんけど)、「ピエタ」はなんかスケールが違いました。 新境地なのかな?


戦友の恋戦友の恋
(2009/11/27)
大島 真寿美

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思うところあって、というよりただ単に本の写真を撮るのが面倒になってなんですけど、Amazonにリンクすることにしました。 使い心地はどうなんだろう?

■いつも拍手をありがとうございます。 これまでに読んだ数少ない本についても、ぼちぼち書いていきます。
Category: 大島真寿美

コメント

こうやって以前と変わらない感触のvogelさんの記事に触れられて感無量です。
ほぼ一年ぶりの書評の記事登場で、完全復活と考えてもいいのでしょうか。

さて「ピエタ」ですが、すごく面白そうですね。機会があったらぜひ読みたいと思います。でも1500円は高いなあ。
それと「ただいま読書中」の欄に熊谷達也「漂泊の牙」が出ててちょっとびっくり。実は私も今この作家の「山背郷」という短編集を読んでいるので・・・

2011/05/16 (Mon) 00:53 | piaa #- | URL | 編集

piaaさん、いつも優しいコメントをありがとうございます。
まだ完全復活!とまではいきそうもありませんが、また、、ぼちぼち本の紹介などやっていきたいと思います。、
かつてはあれほどまでに大好きだった「小説を読む楽しさ」を、この「ピエタ」が思い出せてくれました。 なかなかよい本でしたよ。 直木賞とるかな。

熊谷達也は偶然ですね! 「邂逅の森」はしびれるくらいよかったんですものねえ。 「山背郷」もすごく気になります。 piaaさんのレビューを楽しみに待っています。

2011/05/17 (Tue) 01:27 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

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