死者の視点が胸に迫る 東直子「とりつくしま」

ずっと気になっていた作家、東直子。 もともと歌人で、小説も書くようになったのだとか。 俳句は好きでも(といっても、自分では一句も作ったことありませんけど)、短歌にはまったく興味がなくて、歌人の名前はほとんど知りません。 なぜ、この人が気になったのかは自分でも謎です。 先日、本屋さんで文庫化された「とりつくしま」を発見。 死者について書かれた内容と知っていたので、かなり躊躇した末に購入しました。

とりつくしま (ちくま文庫)とりつくしま (ちくま文庫)
(2011/05/12)
東 直子

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心を残したまま、この世を去った死者たち。 「とりつくしま係」からモノに宿って生者の身近にいることができると告げられ、それぞれが選んだモノは…。 カップ、扇子、補聴器、カメラ…さまざまなモノに宿った死者の視点で描かれた短編集です。

死について書かれた小説をいま読むのは無理かなと思いましたが、読み始めると一気にこの小説の世界にひきこまれました。 「死」を小説をおもしろくするための単なる小道具として扱っているのではなく、真摯な著者の姿勢を感じさせる静かな作品でした。 最初から最後までぼろぼろ泣きながら読みました。 でも、思いがけず世を去ることになった死者の視点はカラッと乾いていて、湿っぽい話でもなければ、安易なお涙頂戴小説でもありません。 ひとつひとつの言葉を大切にしつつ最小限の言葉で描く、やわらかな筆致はさすが歌人。

最初の「ロージン」は、亡き夫が妻を見守るという視点で書かれた池澤夏樹「骨は珊瑚、目は真珠」に少し似ていると感じました。 後味のいい話だけど、ずっとこんな感じだったら、これほどひきこまれなかったと思います。 意外にもとても悲しい結末のものもありましたが(幼い子どもを亡くしたお母さんはこの短編集を読まない方がいいです)、生きること、そして死ぬことの普遍性を描いた短編集として心に響きました。 でも、よくよく考えるとそれぞれの主人公の執着心はすごいわけで、自分ならやっぱり「ロージン」や「骨は珊瑚、目は真珠」のようにスッと大気のなかに拡散するように消えていきたいな。

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