多彩な試みに挑戦した意欲作 桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」

桜庭一樹の作品を読むのは初めて。 以前、テレビで桜庭さんが原稿執筆をガーッと集中して書いた後、午後だか夜だかにそれはそれは楽しそうに本屋をめぐって本をたっぷり買いこんでいる様子をみました。 とにかく本が好きなんだなという印象が強く残って、なんとなく気になっていました。

単行本を買おうかどうしようかさんざん迷った「赤朽葉家の伝説」が文庫になっているのをみつけて購入しました。 でも、よく考えてみると、文庫本で840円って結構高いな。

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)
(2010/09/18)
桜庭 一樹

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山陰の山ふところに抱かれた赤朽葉家は、製鉄業で財をなした旧家。 豪壮なお屋敷を舞台に、千里眼の祖母、漫画家の母、ニートの「私」、三代の女性の生き方を昭和の世相をからめて描いた大河(?)小説です。 本の帯に、日本推理作家協会賞受賞作とありましたが、ミステリではありません。 推理小説やハードボイルドを期待して読むと「なんだ、これは!」と腹が立つかも。 賞の名前と内容があまりにもミスマッチ。

女性三代の物語というので、漠然と有吉佐和子の「紀ノ川」みたいな小説かと思っていたのですが、ぜんぜん違いました。 そういう「しっとり語る」系ではまったくなくて、第一章は寓話風、第二章はライトノベル風(ライトノベルを読んだことがないので、あくまでもイメージですが)、第三章は推理小説風(でも推理小説ではない)と、さまざまな文章の書き方に挑戦した作品です。 著者が意図したことすべてが成功していないとしても、おもしろく読めました。 虚構にどっぷりはまる時間、という読書の楽しさをひさびさに味わわせてもらいました。 凍りついた心も少しずつ回復してきているのかも。

特に、「山の民」に置き去りにされた赤子・万葉が、玉の輿にのって赤朽葉家の若奥様になってからの部分が、とても楽しく読めました。 読みながら「これってガルシア=マルケス『百年の孤独』だよね」と思っていたら、あとがきにあの小説を意識して書いたとありました。 摩訶不思議なできごとを当たり前のことのように淡々と語る手法に果敢に挑戦して、山陰の山の中に桜庭一樹という作家がひとつの世界をしっかり構築したことにびっくり。 日本の小説は身近なことを描いたものが多くて、海外小説のように「壮大な虚構」というスケールに欠けていると日頃から感じていましたが、この小説はエンターテイメントに徹しながらも、なかなかいい線いってます。 それだけに第二部での変調は、私の好みではなくて。 最初から最後まで「万葉」路線で語る小説を読んでみたかった。

でも、これから桜庭一樹をどんどん読んでみよう、というのでもないのだけれど。 何かが心に深く残るわけではなくても、この本のようにただ「読んで楽しい」という読書もアリだと思います。 あとがきがおもしろかったので、機会があったら「読書日記」を読んでみたい。

20代に読んで、有吉佐和子にはまるきっかけとなった「紀ノ川」。 いまの私が読んだら、どう感じるのかな。 いつか再読してみよう。

紀ノ川 (新潮文庫 (あ-5-1))紀ノ川 (新潮文庫 (あ-5-1))
(1964/06)
有吉 佐和子

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いまはこんな表紙なんですね。 イメージとぜんぜん違う…

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