ささやかな人生を抱きしめる イーユン・リー「千年の祈り」

半年くらい前に読んだイーユン・リーの短編集「千年の祈り」は私にとってひさびさにストライク! ものすごく気に入りました。 それなのにブログに感想を書かないままになっていて。 「SILENTSHEEP*NET」の羊さんのリクエストにお応えしてアップします。



ずっと昔から宦官を輩出してきた町が行き着いた現代は…(「不滅」)。 変転の末に林ばあさんがようやくたどり着いた居場所は小学校での家政婦としての仕事。小学生の男の子に恋をしてしまう孤独な老女を描いた「あまりもの」。 親友のためを思って自分の夫とともにアメリカへ送りだし、結局ひとり中国に置き去りにされた32歳の高学歴の女性と、市場で卵を売って生計を立てている文盲の貧しい母親の断絶の痛みを切りとった「市場の約束」など、10編を収録したイーユン・リーのデビュー短編集。 

デビュー短編集とは思えないほどの完成度の高さに、読み終わってめまいがしそうでした。 かなり話題になっていたのに、中国文学(といっていいのか??中国人が英語で書いた中国および中国人の話)にも中国にもたいして興味がないし、ましてや話題作だからきっとへそ曲がりな私には合わない…と敬遠していたことをすごく後悔しましたよ。 どちらかといえば長編が好きなんですが、収録されている短編はどれもとても深くて胸にしみました。 一番秀逸だったのは「不滅」。 だって、コミュニティが話者なんですよ! そんな小説ってあったでしょうか? 長い長い中国の歴史を短編でしっかり描いてしまう手腕はただ者ではありません。 これがデビュー作だなんて、ホントにすごすぎ。 ただ、タイトル作の「千年の祈り」は映画化もされていますが、この短編集の中でそれほどいいかな?


中国社会の急速な変化に置き去りにされる人、政治的ではないのに政治に絡めとられて身動きができなくなっている若者、現代日本人には想像を絶するような田舎の貧しさなどなど、どの作品も中国と中国人を描いているのに、その根底にすごい普遍性を感じさせるんです。 なんなんだろう、このスケール感は。 感情に流されない淡々とした筆致で人間の孤独の本質に迫っているのに、どんなに辛く悲しいことを書いていても読後感はけっして悪くありません。 市井の片隅に埋もれたまま一生を送る平凡な人を愛おしむような、著者の優しい視点が独特の余韻を醸しだしているようです。 「中国なんて全然興味ないよ」という人にもおすすめ。


11.18ヤブコウジ

少し前の雨の日、足元の緑の中にポチッとかわいい赤い実がなっていました。 ふだんは目立たない存在のヤブコウジ。

東京日帰りでバタバタして家の用事がまたたまってしまいました。 今日は、ガス給湯器がこわれて新しいものを設置する工事で午後が丸々つぶれてしまった。 何をしているのかわからないまま、どんどん師走に向かって加速している感じ。 とりあえず、やっと「千年の祈り」の感想を書くという宿題を達成。 やれやれ。

■拍手をありがとうございます。

コメント

お待ちしていました。ありがとうございます!
・・・が、駄サイトまで晒されてしまうとは(^^;)

お願いしただけあってさすがの評です。
一遍ごとに世界の違う珠玉の作品集、カバー裏の堀江氏の「冷えない感情の溶岩」もさすがな解説でした。

私は偶然、機内上映で知ったのですが、それも他にもう見るものがないから、中国映画で興味はなく仕方なく最後に選んでみたら最高に打たれて小説も・・・となった次第です。表題作は映像の方が案外いいかもしれません。
例えると田辺聖子さんのジョゼ虎も映画で有名になった作品ですけれど、短編集自体がとてもいいと同時に、ストーリーの膨らんだ映画もまた(人によっては小説以上に)いい、というような感じでしょうか(個人的には)。

2013/11/20 (Wed) 23:47 | 羊 #hE4kmW4M | URL | 編集

羊さん、お待たせしました。

サイトのリンク外した方がいいですか??
これを機会にリンクさせていただきたいなと思っていたのですが。 ダメなら言ってください。

「千年の祈り」はあまりにも気に入りすぎて、そして内容があまりにもバラエティに富んでいて圧倒されてしまって、感想をサラッとまとめられそうもなくて、なんとなく書かないままに日が過ぎてしまっていました。 羊さんから宿題をいただいたおかげでようやく自分なりの感想が書けました。 ありがとうございます!

「千年の祈り」は確かに映画にしたことで味わいが増したかもしれませんね。 素材としてはすごくいいので。 小説としてはちょっとあっさりしすぎで、もう一押し何かが欲しかった感じ。
「ジョゼと虎と魚たち」も小説しか読んでいないのですが、羊さんの感想を読んだらどちらも映画をみたくなりました。

羊さんが読んでおられたハ・ジンの「自由生活」もやっぱり読みたくなりました。 上下巻の分厚さと値段におびえて躊躇したままだったんですけど(汗)。 

2013/11/22 (Fri) 00:16 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

サイトリンク、恐縮です。
謹んで恥を甘受したいと思います(^^;)

そうですか、自由生活はまだだったのですね。確か文庫がもう出たのではなかったですか。
こちらは男性著者の、ちょっと硬くて真面目な感じはありますが、個人的にはそういう系が好きなので非常に心打たれました。
この中にも、中国人はよその国の国民になって初めてまともに扱われる、といわせているところがあって、何となくうなずけるような、でも、中国系作家だからとか中国の内容の映画だから、と最初自分も関心の無かった度量の狭さも恥じたいものでした。

私も他のイーユン・リーやハ・ジンの作品を読んでみようと思います。

2013/11/23 (Sat) 23:41 | 羊 #hE4kmW4M | URL | 編集

羊さん

サイトリンクの件、ありがとうございます。

ハ・ジンの訥々とした文章、いいですよね。私もとても好きです。
「待ち暮らし」おすすめですよ。女性からみたらとってもヒドイ話のはずなんですが、ノックアウトされました。
イーユン・リーといいハ・ジンといい、中国人が母語でない英語で書いていることで、中国に対する立ち位置や筆致が客観的になって味わいが深まっている感じがします。

「自由生活」が文庫化される日を首を長くして待っているのですが、まだみたいです。 待ちきれない…。

2013/11/24 (Sun) 23:49 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

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