闘病記とは一線を画するエッセイ 内澤旬子「身体のいいなり」

先日、マルタさんにおすすめされた内澤旬子「身体のいいなり」。 母が先に読み始めて、やっと私に回ってきました。 読み始めたら止まらず、あっというまに読了。 乳がん治療に対する個人的な興味という面も確かにあったのだけれど、それ以上に読みものとしてとてもおもしろかったです。 マルタさん、ありがとうございました!



「世界屠畜紀行」でブレイクする前、まだ無名のイラストレーターだった内澤旬子さんに早期の乳がんがみつかったのは38歳の時。 片胸ずつ温存手術→両胸全摘手術→乳房再建手術と計4回の全身麻酔手術を受けるという、壮絶な乳がん治療体験を淡々とした筆致と真正直な主観でルポしたノンフィクション作品です。 講談社エッセイ賞受賞。

身体と意志のバランスの不思議さ、治療現場の理不尽、フリーランスとしての仕事を失うことへの底なしの不安、乳房という女性性に思いがけず振り回される自分に戸惑いつつ決意した乳房再建のすったもんだ、亡くなった癌友への思いをひとりで抱えざるをえない切なさ…語られるのはヘビーな内容なのだが、湿っぽさは皆無。 著者独特の突き抜けた、とても乾いた視線で切りとられる病気の日常は、困難に打ち克って…という普通の闘病記とはまったく違うものでした。

なんなんでしょう、この引力は。 エッセイは一般には書き手をすでに知っていて、その人への興味で読ませるといった内容が多いのですが、この著者のことを全然知らない人が読んでも面白い。 内澤旬子さんの出世作「世界屠畜紀行」はかなり気になったんですが、小心者の私は手にとることはありませんでしたから。

ただ、著者の発想に全面的に共感したかというと、それはまたちょっと違うわけで。 自分でも書いておられる通り「面倒くさい考え方」をする人なんですね。 そして、とても意地を張っている。 病気なんだから、もう少し両親や配偶者(のちに離婚)に甘えてもよかったんじゃないの? 「助けて欲しい」とひと言もいわないことは強さなんだろうか? しょせん人間って自分一人だけで生きているわけじゃない。 配偶者が治療費を一銭も出そうともしてくれなかったと嘆いたりしているけれど、著書の中で一方的にさらし者にされてしまったご主人がちょっと気の毒になってしまいました。 聡明な彼女は自分でもよくわかっているようでしたが。 うちの母親は著者の頑なな考え方に反発を感じたようで、「この人、ちょっと協調性がなさ過ぎるんじゃない? だから、お医者さんともうまくいかなかったんじゃないの」という感想でした。

すでに夫婦関係が破綻していて、仕事もうまくいかず、どん詰まりな気分だった著者は、がんと宣告されてもやけっぱち。 「死ぬかも」ということにホッとしているなんていっていられるのは、やっぱり早期がんだったからじゃないかなあと、がんになって私は感じました。 もっと進行したがんだったら、いくらやけくそでもそうサバサバしていられないのではないかな。

激しい腰痛やアトピーに長年悩まされてきたのに、乳がんになってからどんどん健康になったとありましたが、そうではない気がしました。 たまたま乳がんになったときに、それまでにコツコツ自腹で世界各地を取材してようやく出版された「世界屠畜紀行」が売れて、ハイレベルな仕事の依頼も増え、生活が安定して将来への不安が軽減されたことで精神的にずっと楽になり、それが体調にプラスに作用したのだと思います。 モヤモヤしていたご主人との関係も離婚で精算されたし。

…なんていろいろ書いていると、ちっともおもしろくなさそうかもしれませんが(汗)、共感はしないけど、でもおもしろかった! 闘病記を「おもしろい」と評していいのかどうかわかりませんが。 乳がんなんてまるで関係のない人にも、男性にも、おすすめします。 一読の価値はあります。

1.31リュウノヒゲの青い実

抱えていた仕事は期日前に納品して、男性担当者にも乳がんで手術することを正直に伝えて。 それだけでひと仕事した気分でした。 あとは節分に母と一緒に吉田神社にお参りしたり、麻酔科の先生の説明を聞きに病院へ行ったり、入院用にタオルやパジャマ・下着を買いに行ったり。 毎日右往左往しています。 あ、美容院の予約もしておかなくちゃ!

■たくさんの拍手をありがとうございます。

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