ひそやかな気配に耳を澄ます 吉田篤弘「針がとぶ」

ものすごーくひさしぶりの読書記録です。 点滴後のものすごい倦怠感で、布団の上でのびているしかなかった状態の中で、少しずつ少しずつ読んだ吉田篤弘の「針がとぶ」。 とてもよかった。 心にしみました。


9.11針がとぶ

グッドバイが口癖の翻訳家で詩人の伯母が亡くなり、その家を一人で片づけることになった姪の視点で語られる伯母さんの人生の断片「針がとぶ」。 遠い異国のひなびた海辺の町で、画家が出会った不思議な雑貨屋「パスパルトゥ」。 かすかにリンクするようにして紡がれる7つのささやかな物語からなる短編集。


語られるのは、いまはもうそこにいない人たちの人生の切れ端…そこに意味があるのかないのか、そんなことはどうでもいい。 文章をゆっくりゆっくり味わいながら読むのがぴったりの本で、何から何まで私の好みでした。 文章も、行間に漂うノスタルジックな気配も、ミヒャエル・ゾーヴァの絵を使った装丁も。 けれど、好きか嫌いかとても分かれる本だと思います。 読書に何らかの教訓や意味を求める人にはまったくおもしろくないだろうし、明確なストーリー展開を好む人にもおすすめできません。 私にとっては、このひそやかさがとても心地よかった。 著者について「クラフト・エヴィング商會」というセンスのよさげなブックデザイナーが本も書いているという程度の認識で、ずっと気になりながらも一度も手にとったことがなかったことを後悔しました。 早速、ネットで他の本も取り寄せることに。

9.11ゲンノショウコ

がん告知を受けて以来、あんなに好きだった読書が楽しめなくなりました。 心の中の葛藤が大きすぎて虚構に浸る余裕がないのか、治療で刻々と変わる体調に振り回されて、私の感受性がもういっぱいいっぱいの状態なのか、自分でもわかりません。 抗がん剤の点滴を受け始めるとケモブレインになったせいか、字を読んで意味を理解しても心に何も入ってこない感覚になってしまって。 何冊か本は読んだけれど、ちっとも心に響かない。 その本について感想を書くのはためらわれました。 おもしろく感じられなかったのは自分の体調のせいかもしれませんから。

やっと感想を書きたいと思える1冊に、本屋さんの店頭で出会えて本当によかった(積ん読状態が長かったけれど)。 そして、そんな自分にちょっとホッとしています。


■いつも読んでくださって拍手をありがとうございます! みじかーいまつげと眉毛が生えてきて、は虫類からほ乳類にほんのちょっと戻ってきました♪

■donauさん、抗がん剤って血管に入ってくるときもなんか違和感あるんですよ。 ニューッと濃いものが血管をいま入ってきたって感じがするんです。 そして、ある日突然、薬が抜けるというか消化器官の粘膜が復活したという、なんとも不思議な実感があるんです。 がんのカケラを殺すための毒って、ホントにスゴイ…。 でも、抜けてしまえば、辛さをケロッと忘れられる。 忘れっぽい体質でよかったです(笑)。
Category: 吉田篤弘

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