陽射しや風を感じさせる詩のようなエッセイ 梨木香歩「水辺にて」

梨木香歩のエッセイ「水辺にて」。 これほど読み終わるのが惜しいと感じる本に出会ったのは、本当にひさしぶりです。




単行本のときから気になって何度も手にとりながら、なかなか買わなかったのは、カヤックでの川下りという行為にまったく興味がもてなかったから。 「梨木さんって意外にアウトドアなんだ」(自分が結構アウトドアというか山好きなくせに)と勝手に決めつけ、ちょっとついていけないかも…なんて思っていました。 ところが読んでみると、カヤックに乗った梨木さんは、いわゆるアウトドア系の人とはまるで違う世界に浸って、予想していたのとはまるで違う風景を眺めていたのでした。

もう一つ、梨木さんの小説を読んでいて「この人って本当に真面目な人なんだろうな」とたびたび感じていたので(「西の魔女が死んだ」とか「村田エフェンディ滞土録」は特に)、そんな真面目な人のエッセイってますます生真面目でついていけないんじゃないか、なんて思っていたんです。 しかし、ひょっとしたら小説よりもエッセイの方が著者は自由に心を泳がせられるのかもしれません。 先入観をもたずに、もっと早く読めばよかったと思う一方で、いまの私だから一層深く心に響いたのかもしれないとも思えます。

3.13ミヤマカタバミ

梨木さんらしい世界観、自然と人間の関係のとらえ方、いまは消えてしまった村や人たちの営みへの想像力、そして森や風・雪の匂い、生き物のひそやかな気配、陽射しの温もりを切りとる言葉のすばらしさ。 繊細な自然描写を読むだけで、たっぷりと深い森で深呼吸したようなみずみずしさが身体の細胞の一つ一つに染みこんでいくようでした。 ああ、好きだ、大好きだ、こんな文章! 最近めったに巡りあえないような文学的な表現にうっとり。 

冒頭でスウィフト「ウォーターランド」とその舞台が登場したり、私の大好きな星野道夫に触れていたりして、「おお、梨木さんとはやっぱり趣味が合うな」などと偉そうにニンマリ(何様だ、私は)。 また、水面の下に広がる世界へと傾斜していく心の動きなど、「家守綺譚」「冬虫夏草」「沼地のある森を抜けて」「f植物園の巣穴」とつながる著者独特の感性がかいま見えるのも、梨木ファンの読者にとっては興味深いところ。

と、また長文ダラダラ書いてしまいました。 でも、梨木さんもなんでも文字化しようとしてどんどん長くなっていく傾向らしく、一方的に親近感を抱いてしまいました。 そうそう書き始めると、あれもこれも書きたくなるんですよね(笑)。


わが家の庭で、今年もミヤマカタバミが咲いてくれました。 小さな小さな白い花が陽射しを浴びると薄い花びらを広げる。 その健気さが毎年みても、しみじみ愛おしくて、ひざまずいてまじまじ見入ってしまいます。 梨木さんだったら、森の中を歩きながらも、こういう小さな花を足元にパッとみつけるんだろうな。 梨木さんと一緒に森を歩いてみたいなあ。


3.31サンシュウユ

サンシュウユももうあとひと息で咲きそう。


■いろいろな記事に拍手をありがとうございます。
Category: 梨木香歩

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