敗者への温かなまなざし 大崎善生「将棋の子」

上高地へ行く前に読み出したら止まらなくなって、一気に読んでしまった本
です。 実は、ずっと以前に大崎善生の恋愛小説「パイロットフィッシュ」を
吉川英治文学新人賞受賞という言葉にひかれて読んだのですが、うじうじと
過去を引きずる男性の話が全然好きになれず、この作家は苦手と決めつけ
それ以後、読む気がなくなっていました。 ところが、偶然本屋さんに平積み
されている「将棋の子」を手にとってみたら、大崎善生は日本将棋連盟の
「将棋マガジン」編集長だったと知って、将棋に関するノンフィクションなら
ひょっとしておもしろいかも…という気に。 そんなとき、リンクさせて
もらっている「読書夜話」のぎんこさんから「おもしろいですよ」とおすすめ
いただいたので、以前の恋愛小説の件は忘れて再度、この作家の本を
読んでみることにしました。

9.17将棋の子

とても良質のノンフィクションです。 講談社ノンフィクション賞受賞も
納得です。 昔の悪いイメージは単にワタシ個人が恋愛小説一般があまり
好きでないということに起因していたのかも…。 ちなみに、ワタシは将棋に
まったく興味がない人間です。 それでも、非常に興味深く読めました。

プロの棋士を目指す少年たちが在籍する「奨励会」の存在を知ったのは、
羽生善治が注目を集めたときでした。 中学を卒業すると、将棋一筋の生活を
送るため高校に進学せず、地方在住者はわざわざ東京へ出てきて奨励会に
入るということが普通だと報道番組で知って、ものすごく驚きました。
そして、それほどまでしてもプロになれるのは一握り。 その番組を見て
プロになれなかった青年は、その後どんな人生を歩むのだろう。 中学卒
という学歴と、一般社会を全く知らないままに20代後半になってしまった経歴で
社会に受け入れてもらえるのだろうか…ということが、とても気になりました。
本書はその疑問に対する答えでした。 その後の人生は千差万別。 子ども
時代からの夢を20代半ばで断たれる残酷さ、社会性のないまま社会の荒波に
放り出される過酷さに愕然としました。 親の人生さえも巻き込んで、それでも
プロになれなかった無念さと、そんな息子を最後まで支え続ける母の愛情に
何度もホロリ。 中盤からは涙でグシャグシャ(人一倍泣き虫なので)。

けっして明るい話ではありません。 勝者として脚光を浴びる人がいれば、
その背後には誰にも見送られずにひっそりと消えていく敗者がいる。
それはとても当たり前のことなんです。 でも、いまの時代は勝者だけしか
見えない時代になってしまっていて、いつも違和感を感じていました。
読みはじめたときは感傷的な(沢木耕太郎的な)「私ノンフィクション」
なのか、と思いましたが、読み進むうちにこれは将棋を間近で見てきた
大崎善生でなくては書けないものだったことがわかりました。 敗者のその後
に向けられた著者のまなざしは、将棋を愛する人だからこその温かみが
感じられて、重い題材ながら読後感はけっして重くありません。
読むようにすすめてくださったぎんこさん、ありがとうございました!

コメント

 vogelさんこんばんは~。「将棋の子」お気に召したようで良かったです。大崎善生は「聖の青春」と「将棋の子」だけで充分だと思います。これを超える小説書くのは無理だろーなーと。「将棋の子」もいいけど「聖の青春」も面白いですよ!こっちはまさに「栄光なき天才」の物語ですから、これまたドラマチックです!

2006/09/22 (Fri) 00:28 | ぎんこ #emXmKJzE | URL | 編集

ぎんこさん、こんばんは。 「将棋の子」は非常に興味深く読めました。 すすめてくださって、ありがとうございました。

「将棋の子」はじんわり、「聖の青春」はドーンと感動…ということでしたが、すでに「将棋の子」のお母さんのエピソードで涙ボロボロ。 こんな調子で「聖の青春」を読むと、顔が崩れて翌日の仕事に支障が出るかも…と、すでに買ってある本を読みタイミングをはかっているところです。

大崎善生はこの2作品だけで十分なんですね、やっぱり(笑)

カポーティと将棋話と江戸もの…まるでテイストが違うのに、どれも早く読みたくてウレシイ困惑状態です。

2006/09/22 (Fri) 19:55 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

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