全編に溢れる匂いのイメージ パトリック・ジュースキント「香水」

耐震工事で家の中がまったく落ち着きません。 必要なものがあってもそれがおいてある部屋が封鎖されていたり、大工さんの1日2回の休憩用お茶菓子を用意するのに毎日いろいろ目先が違うものを探してスーパーやお菓子屋さんをウロウロしたり、ガンガンの騒音を聞きながら工事の隣の部屋で(それも他に座るところがないからソファーで)仕事をしたり。 朝と昼のお茶を用意するのも、仕事に集中しているとウッカリ時間を過ぎてしまいそうになるし。 仕事が進まないなら本でも読もうか、と思っても騒音とホコリでそれも無理。

そんな毎日で、寝る直前に少しずつダラダラと読んでいたパトリック・ジュースキント「香水」を読み終わりました。 「ものすごく変わった小説」を読んでしまった、というのが正直な感想です。 こんな小説はたぶん他にない。 主役は「匂い」なんですから。 母親だけでなく育て親からもひとかけらの愛も受けられず、愛されることも愛することもまったく知らずに育った冷血漢グルヌイユがいちおう物語の主人公にはなっているものの、小説全体を覆うのは匂い、臭い、香気。 タイトルからすばらしい香りに包まれた小説を想像したとしたら大間違いです。 むしろ不衛生な18世紀のパリに漂う人間のあらゆる臭気など、いやな臭いもたんまり盛りこまれています。 反面、香水を作る詳細な描写ではさまざまな植物や花の香りがこれでもかと登場して、とにかく全編を通して横溢する匂いのイメージに圧倒されます。 もともと匂いはもっとも記憶に定着しにくい感覚で、言葉で表しにくいものなのに。 ジュースキントはあえて言葉で表現できないことを言葉で描いてみたかったのでしょう。

1.27香水

この小説は「パフューム ある人殺しの物語」というタイトルで映画化されて今年の3月に公開されるそうです。 そのため、文春文庫のカバーも以前見たのと違っていました。 新しいカバーの方がキレイですね。 それにしても、映画も小説と同じくらい、匂いの前で無力な表現手段なのに、どういう風に説得力を持たせているのか、ちょっと興味があります。 文庫本の帯は映画の宣伝用なのか「『羊たちの沈黙』を凌ぐ禁断の衝撃作」と書いてありますが、そういうエグイ感じはまるでしませんでした。 残酷な描写が苦手なワタシでも気にならないくらい、物語は淡々と進んでいきます。 人が死んだり殺されたりするんですけど、この淡々とした具合はなんなのでしょう? とても寓話的です。

主人公グルヌイユは嗅覚だけが異様に発達していて、初めは悲惨な皮なめし業者の徒弟でありながら、やがて調香の天才としての頭角を現していきます。 オンナになる直前の処女の体臭こそ究極の芳香だと知ったグルヌイユは、その香りを手に入れるためにとんでもない罪を犯していく…。 お金も愛も求めず、他人との関わりも必要としない石のような心を抱いたグルヌイユはどうなっていくのか。 パリで調香師として成功するのかと思いきや、話はどんどん予想しない方向へと進んでいって、「もう終わりだな」と思った後でまったく意外な結末へと突き進んでいきます。 破滅の物語なのにドロドロした重さがみじんもなく、あっけらかんとした明るささえ感じる異様な読後感。 好きとか嫌いとか、そういう次元を超えています。 こんな物語はこの本だけで十分、もう読みたいとは思わないけど。


1.27メジロ

このメジロはつがいで来ていましたが、食い気にはまってしまって大工仕事の騒音も忘れてました。 「ん? 誰かと一緒に来てたんだっけ」

昨日はお昼過ぎに滋賀で仕事があってお昼ご飯を食べそこね、そのまま大阪へ向かって仕事仲間の個展オープニング・パーティーへ。 でも、立食パーティーだったから夜ご飯もほとんど食べられず、11時にようやく帰宅。 お腹ペコペコ、疲労困憊。 今日は今日で、区内の図書館に取り寄せてもらった仕事用資料が届いたというので、午前中に大急ぎで取りに行き、速攻で帰って父のお昼ご飯を用意して、午後は急ぎの仕事を居間のソファーに座ってやらなくてはいけなくて(両親が不在で大工さん対応のため)。 あ~肩コリコリ。 今夜はもう寝よ。

コメント

e-250ホント、このカバー綺麗です。目を引きますね。内容もちょっと読んでみたいな。試験も終わったことだし、探してみます。
グルヌイユってフランス語の「カエル」なんですよね・・・。ぐすん。

2007/01/28 (Sun) 17:06 | とりほ #yl2HcnkM | URL | 編集

■とりほさん

試験終わったのですね。 お疲れさま!

主人公の名前をグルヌイユ=カエルにすることで「醜い」というイメージを添えたかったらしいですよ。 フランス人にとってカエルって印象よくないんでしょうか? でも、著者のジュースキントはドイツ人なんだけど…そして、ドイツ人はカエルが好きなんだけど(ドイツは、そこいら中にカエル・モチーフがあふれてます)。

この小説はフランスやパリへ行ったことがある人だと、さらにおもしろく読めると思いますよ。 陰惨なストーリーになりそうなのに、不思議にあっけらかんとしていて文章も読みやすかったです。

2007/01/28 (Sun) 23:15 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

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