近世日本画の見方を覆す 辻惟雄「奇想の系譜」

リンクさせていただている「読書夜話」のぎんこさんが書かれていたレビューがとてもおもしろそうで、ずーっと気になっていた辻惟雄「奇想の系譜」。 ついに買ってしまいました。 文庫本なのに1300円という値段にひるんで、最初に本屋さんで見たときは買えなかったのですが、内容がおもしろくて白黒とはいえ図版がたくさん載っているので買ってよかった! 期待以上に、おもしろく読めました。

5.10奇想の系譜

この本では、江戸時代の画家の中から、従来は「異端」とか「傍系」とされていた岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳をとりあげています。 多少なりとも認識していたのは伊藤若冲だけで、狩野山雪や歌川国芳、長沢蘆雪は名前を聞いたことがある程度、曾我蕭白はいつかどこかで展示されている作品を見て「なんじゃこりゃ!?」と驚きあきれた記憶があるのみ、岩佐又兵衛なんて存在さえも知りませんでした。 どの人にも「全然興味なし」のワタシが読んでもおもしろく読めることにビックリ! 文章も話の展開の仕方もまったく抵抗なくすらすら読めて、一気に引きこまれてしまいました。

実際に読むまでは、興味のない未知の画家について書かれた評伝なんて、読んでもおもしろいと思えるはずがないのでは…と考えていたのですが、意外や意外、美術史の知識がない素人が読んでもおもしろく読めるように平易に親しみやすく書かれているんですよ。 著者は並外れた「語り」の才能をもっているのだと思います。 著者が30代のときに書いたものなので、美術評論的じゃない比喩というか、くだけすぎギリギリのところもあるのですが、それもふざけているわけではなく、内面からほとばしり出てくる「この画家がすてきなことをわかって欲しい!」という感じがあって好感が持てます。

著者は美術史の研究家で、それぞれの異色な(というか意表を突いた)画風の中に前衛的な表現の萌芽を読み取っていきます。 図版を眺めながら読むことで、造形のダイナミックさやデフォルメの斬新さという視点から再認識できるようになっています。 それまでは「なんなのだ?」と単にエグイ表現やバカバカしい画題としか思えなかった絵を、まったく違った角度から眺めなおすことになりました。

スプラッターな(?)岩佐又兵衛の絵を見ていて、以前、高知県でみた絵金の屏風絵を思い出しました。 絵金も岩佐又兵衛と同様、血みどろな残酷描写とどぎつい色彩が特色で、初めて見たワタシは「なんなの、これ?」とひたすら驚いたのですが、でも地元の方はみなさん、とても絵金の屏風絵を愛してられて…ワタシの頭の中は「???」。 子どもにこんなどぎつい絵を見せていいのかなあ、なんて思ってました(笑) この本を読んでみて、こういう絵が江戸時代の人たちに人気があったことと、絵金に愛着を感じてられる人たちの姿がぴったり重なりました。 「民衆に愛される絵」だったんですね、この本に載っている人たちが描いた絵は。

ところで、最近の伊藤若冲ブームってちょっと異常では?と、なんでも流行ものには背を向けるワタシだったのですが、この本を読んだら若冲の「動植綵絵」がむしょうに見たくなりました(単純)。 若冲の絵はグラフィックアート的によくあちこちで使われてますが、たいていは絵の隅っこをトリミングしたようなものですよね。 この画家は構図が弱いというか、鶏の躍動感はスゴイけど、植物の絵なんかは特に画面構成が退屈で興味がなかったんです。 でも、ぼんやりした白黒写真の図版でみても「動植綵絵」はスゴイ! その独特の浮遊感と装飾性に、思わず興奮しました。 みたいなあ、でも宮内庁所蔵ではみる機会なんてないなあ…と思っていたら、偶然、先日遊びに来た叔父が「若冲のこんな展覧会があるから、前売り券をわざわざ買いに行ってきた」とチケットを見せてくれました。 すごいタイミング!!

相国寺で開催される「若冲展」。 これはみておかないと!と母にまず本を読むことをすすめたら、すぐに読んで、早速ワタシの分も前売り券を買ってきてくれました。 ちなみに、60歳以上の前売りは一般よりさらに安いです。 たった3週間しか公開されないので、どれほどの人が殺到するかと思うと、ちょっと怖いのですが、とても楽しみです。

ぎんこさん、すてきな本を紹介していただいてありがとうございました!

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