生々しく痛々しい中学生の恋 姫野カオルコ「ツ、イ、ラ、ク」

姫野カオルコの「ツ、イ、ラ、ク」は単行本が出たときから、買おうか買うまいか何度も何度も本屋さんで手にとって、迷った末に買わなかった本です。 20代の頃は姫野カオルコの本が文庫になったら、たいてい読んでいました。 この10年くらい読まなかったので、最近はどんな小説を書いているのか気になっていました。 でも、この本がネットで一時すごく評判になったらしいと知ると、へそ曲がりなワタシは読む気がなくなってしまいました。 文庫になったのでようやく入手。 でも、そのまま3ヶ月以上放置していました。 なんだか読むのが怖いようでもあって。 

姫野カオルコが好きな作家なのかどうか、いまだにわかりません。 どっちかといえば好きじゃないかもしれない、でも気になる。 ワタシにとっては不思議な存在です。 この人が書いたものは心地よくないのです。 読んだ後になんともいえない感覚を残すのです。 女であることの奥底をのぞかされるというか、あんまり直視したくないような女がもつ薄暗いところをえぐって「ほら、あんたにもこういうところあるでしょ」と迫られるような感じ。 あるいは「官能」とも違う、おき火のようなエロスのうずきというか…「女性であること」への変質的な粘着的なひっかかりというか。

6.10ツイラク

舞台は滋賀県の片田舎。 狭い狭い社会の中で子どもたちが成長していくところから物語は始まります。 序盤はとてもゆっくりで、なかなか恋愛小説になりません。 それでも、小学校2年生の女の子たちは無意識ながらそれぞれに、もうすでに性的なことに目覚めている。 登場人物が中学生になると、ていねいに描写された子どもたちの群像から、だんだんひとりの少女に焦点が合ってきます。 早熟なその子はある男性と、世間の常識が許さない関係へと落ちていく…。

この本も、以前の姫野カオルコ同様、読んだ後に爽快感はありませんでした。 ネットでは「エンディングが爽快」とか「感動で泣いた」という感想をたくさんみかけましたから、ワタシの感覚が一般とずれているのかもしれませんが。 とにかく主人公の女の子が痛々しくて、その痛みがとても生々しくて、その子の「その後」がとても案じられて。 忘れ去っていた中学生時代の痛みを思い出させられて。 もちろん、ワタシは「その他おおぜいの子」の立場でしたけどね。 

読もうかどうしようか決めかねたら、文庫本の著者のあとがきと、斎藤美奈子の鋭い洞察に富んだ解説を読んで判断してください。 ネタバレはありませんから。 あとがきにある通りに若すぎる人=ワタシの解釈では20歳以下&性的な描写にアレルギー反応が起きる人には向きません。 といってもイヤらしいのを期待すると、ハズレですからね、念のため。 著者のいうとおり30代、40代くらいで読むといいみたいです。 誰にでもおすすめ!というものではないけれど、みぞおちのあたりにドスンと来るスゴイ小説であることは間違いありません。 でも、この内容じゃ、やっぱり直木賞は無理だったんだろうなとある意味、納得しました。

6.10アジサイ

小説の本筋とはまったく関係ないことですが、滋賀の言葉って京都弁とはずいぶん違うんだなあ、とそんなことにも驚きました。 知らなかったわ。

コメント

まりぃです。
今日、このお部屋を見つけることができて嬉しいです。美しいですね。

姫野カオルコさんの作品は、私は面白く読めてしまいます。私もこの作品は買うのをなぜかずーっと迷いに迷ってしまったのです。(驚くことに母に勧められました。)やっと文庫化されたので読んでみました。けっこう乱暴ないつもの姫野さんらしい小説だなと思いました。
痛々しいことを平気で意地悪な視線?で無神経に堂々と書いていく作家さんですよね。
一般では「ヒリヒリする恋」「純粋な恋愛」とか色々書評を読みましたが、どこがそうなの?って聞いてみたい気がしました。vogelさんはずれていないと思いましたヨ!でも凄い作品!無冠の女王と言われてしまうのはそんなわけだったのですね(苦笑)。

そういえばこの間、「ハルカ エイテイ」が文庫化されましたね。この作品は気持ちよく読めると思います。
変わっていますが、けっこう彼女の作品ではあっさりしている方だと思いました。

2008/10/15 (Wed) 15:59 | まりぃ #mQop/nM. | URL | 編集

まりぃさん、ブログをじっくり堪能していただけたようでうれしいです。

まりぃさんも姫野カオルコをよく読まれているのですね。 この人の小説はワクワク楽しくはないけど面白い、とでもいえばいいのでしょうか。 確かに「意地悪な視線」ですよね。 この意地の悪さ、角田光代が同じ路線のような気がします。

まりぃさんが言われるとおり、「ツ、イ、ラ、ク」は一般にいわれているような純愛小説ではないですよね。 主人公の女の子がかわいそうに思えました。 そんな恋、知らない方がよかったのにって。

姫野カオルコは「ツ、イ、ラ、ク」で直木賞がとれなかったのがものすごく悔しくて、「じゃ、中学生じゃなきゃいいのね!」と開き直って「ハルカ、エイティ」を書いたんだって、一時よく皮肉られてましたね。 それでも直木賞がとれなくて…気の毒。 若いときから異色で実力あったのに。

2008/10/16 (Thu) 01:42 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

ありがとうございます。

「ハルカ エイテイ」は直木賞を意識して書かれたのですかー!
この作品のハルカさんて姫野さんの伯母さんをモチーフに書いたということは知っていたのですが。
「受難」なんて私の愛する米原万里さんたちが芥川賞をあげたいと解説に書かれてありましたが、とてつもない作品でして出だしからオロオロしてしまいます(笑)。凄い作品ですよー。処女三部作なんて正直にありのまま書かれてあるように思いますがそれでは賞はいただけないんでしょうね。

2008/10/16 (Thu) 11:35 | まりぃ #mQop/nM. | URL | 編集

「ひと呼んでミツコ」「空にすむ飛行機」「ガラスの仮面の告白」「変奏曲」「H」「禁欲のすすめ」とか、姫野カオルコがデビューしてすぐの頃は集中的に読んでたんですけどね。 「喪失記」があまりにもすごくて(ほとんどホラーだ)、その驚愕とともに姫野カオルコから卒業してしまったという感じです。 「喪失記」が衝撃的すぎて、もうおなかがいっぱい(笑)。 「ツ、イ、ラ、ク」はよかったけれど、すぐに次を読みたいとはやっぱり思えなくて。 自分の体質が変わったんでしょうね。

2008/10/16 (Thu) 21:38 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

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