懐かしい時代の余韻 小川洋子「ミーナの行進」

春先に買った小川洋子「ミーナの行進」をやっと読みました。 「博士の愛した数式」と「偶然の祝福」がとてもよかったので、小川洋子に対する期待がふくらむ反面、「あれより気に入る小説にはそうそう出会えるものじゃない」とも思えて、期待はずれだったらイヤだな…となかなか読み始められずにいた小説です。 でも、いったん読み出したら、たいして劇的なことが起こる物語でもないのに一気に最後まで読んでしまいました。

3.24ミーナ

ほわんと心温まる小説です。 主人公である中学生の朋子が、家庭の事情で芦屋に住むお金持ちの伯母さんの家に預けられた1年間の出来事が、ゆっくり静かに語られていきます。 サスペンスや過剰な演出は一切なくて、引き出しの奥から出てきた子ども時代に大切にしていたビー玉を、そっと手のひらにとって慈しむような感覚。 朋子と一緒に、今はもうそこにはない時代を懐かしむ気持ちにさせられます。 朋子が親元を離れているという設定と、朋子の回想として語られることで、小説全体にほのかな陰影がつけられているところに、(ワタシがイメージするところの)小川洋子らしさがありました。 ほんの少しでも違っていたら「中学生のあの頃は楽しかった」という脳天気な懐古主義に陥りそうなのに、小川洋子の手にかかると美しい「時間の結晶」に変化するのですね。

ローザおばあさんがドイツ人であることや、ハンサムな伯父さんが不在である理由、ミーナとマッチ箱のエピソードなど、すてきな要素をうまく盛りこんであるのですが、でも…「博士の愛した数式」ほどピタッとはきませんでした。 ちょっとうまくまとまりすぎているような感じで。 暗い話は読みたくない、温かい話で和みたい、という気分の人におすすめです。 それにしても、先日読んだ姫野カオルコ「ツ・イ・ラ・ク」とは真反対の世界(笑)。 中学生が読んでも安心な本ともいえますが、この小説の味も「ツ・イ・ラ・ク」同様、ある程度の年齢から上でないと本当にはわからないのではないかという気がします。 ワタシの中学時代はもちろん「ミーナの行進」の世界の側でしたから、主人公の朋子が憧れの図書館司書のお兄さんと話すシーンなんかは、なんだか甘酸っぱいような昔懐かしい気持ちになりました。

それと、ミーナの家で飼われているポチ子が、梨木香歩「家守綺譚」(小説自体の味わいは全然異質なんだけれど)に登場する犬のゴローに匹敵する、いい味を出していて、動物好きの心くすぐります。 装丁がとても美しく、挿画に統一感があってステキで、ずっと持っていたい本です。 

6.25ドクダミ

この小説は谷崎潤一郎賞を受賞していますが、谷崎潤一郎賞についてはずいぶん前にココに書いた通りの印象を今回も持ちました。 谷崎潤一郎は好きなんだけどなあ…なぜだか谷崎潤一郎賞はワタシの好みに合わない。 選考委員はいったい誰なんだろう? というよりも、ワタシの好みが一般人よりかなりずれているのかも(汗)。

この本はずいぶん前に読み終わっていたのですが(たぶん「ツ・イ・ラ・ク」のお口直しに読んだはず)、感想を書きかけて途中で止まっていました。 気に入っていないわけではないけど大絶賛というほどでもなく、なんとなく感想が書きにくい本でした。 そんなわけで、庭の花の写真も今のものではありません。 6月上旬、木漏れ日の中で咲くドクダミがけなげだったので、写真はそのままでアップします。
Category: 小川洋子

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