母になることとは? 角田光代「八日目の蝉」

相変わらず、というより近頃ますます人気の角田光代。 次々に新刊が出て、すごい勢いで書いてますねえ。 物語を創りだす深くて豊かな泉を抱えた作家なんだろうな。 売れて書いて書いて書きまくって、枯れないどころか、だんだんすごくなってる気がする。 初期の「みどりの月」を読んで以来、書かれている世界の息苦しさ、読んだ後の独特のザラリとした違和感がなんともいえなくて、好きではないけれど「気になる」作家になりました。 でも、直木賞をとった「対岸の彼女」は、角田光代でなくても書けた気がして納得いかず(悪くはないんだけど)。 「対岸の彼女」の前に直木賞にノミネートされた「空中庭園」の方が、ワタシはずっと好き。 角田光代らしさが充満していながらも、突き抜けた明るい諦観が漂っていて。 やっぱり、毒がある方がカクタさんらしいと思っていました。

けれども、「八日目の蝉」はいままでとは違った優しく温かな小説で、カクタさんらしい毒がなくて、でも、とてもよかったです。 ひさびさに小説の中にどっぷり浸かって、後半はウルウルと涙を流しました。 30代~50代くらいの子どものいない女性が読むと、主人公の気持ちが痛いほどよく分かって、心臓わしづかみになるはず。 そうでもなくても(男性でも女性でも)、生理的に赤ん坊が嫌い、という人でなければ、主人公の子どもに注いだ愛情は理解できるんじゃないでしょうか。 「母」になりたくて、でも産めなかった女の心情が切なくて哀しくて。

3.12八日目の蝉

どうしようもなくだらしない男を愛した希和子は、その男の子どもが欲しいと願った末、衝動的に男の奥さんが産んだ赤ん坊を誘拐してしまう。 「薫」と名付けて、自分の子どもとして育てようとするのだが、もちろんそれは犯罪で…。 友人も、住み慣れた街も、安定した生活もすべて捨てて、赤ん坊を抱いて逃避行する愚かな女の内面と、事件の顛末を真正面から直球勝負で描ききっています。 角田光代にしては珍しくサスペンスの要素もあって、逃避行の間は「いつ捕まるのか」とドキドキ。 なるべく予備知識ゼロで読むことをおすすめします。 「薫」を思う希和子の必死さ、深い愛情にひきこまれ、たとえそれが間違ったことだとしても、きっと主人公の心の動きにひきこまれてしまいますよ。

一人称で語られる第1章だけだと、単なる私小説風サスペンスで終わりになってしまうところですが、秀逸なのは第2章が事件の当事者となってしまった「薫」の視点で描かれたこと。 小説としての奥行きと深さが増し、「母になるのはどういうことか」「家族って何?」という問いかけが胸に迫ってきます。 産むだけ、血のつながりだけで、母になるわけではないんですよねえ。 この小説を読んだら、「遺伝子的につながった子」だけしか愛せないほど、人間は狭量じゃないと信じられる気がしました。 ストーリーを展開する筆致も構成もすばらしく、カクタさん、うまくなったなあ…と、ワタシにほめられても仕方ないけど。 終盤のお医者さんのひとこと、そして光りを感じさせるエンディングに、悲しい話でありながら爽やかな読後感が残りました。 舞台となった風景がきっと見たくなりますよ。

3.12オキザリス 3.12雪割草2


この2日間、異様なほど暖かくなってカラダがついていけません。 花粉も最盛期で頭が重いし。 でも、庭に出るのが楽しみな季節です。 オキザリスは咲きかけの姿もいいですね。 雪割草も元気に咲いてます。

■Takakoさん
いつもブログに遊びに来てくださって、ありがとうございます。 ワタシも春は苦手なんですよ。 寒暖の差が激しいのがしんどいですよね。 爽やか新緑の季節が待ち遠しいです。 梅の木は全体の姿がすごく不格好なんですよ。 野放図に伸びてしまった木の丈を詰めたから、幹が太いのに花はしょぼしょぼ。 父なんて、そこに梅の木があることにまったく気づいてません。
Category: 角田光代

コメント

はじめまして。

Vogelさん こんにちは。
くじらといいます。

「八日目の蝉」の感想興味深く拝見しました。
人間は 『「遺伝子的につながった子」だけしか愛せないほど、人間は狭量じゃないと信じられる』というこちらの感想、本当にそうだなぁと思いました。

2008/03/30 (Sun) 13:26 | 本命くじら #89zBIK8s | URL | 編集

くじらさん、はじめまして。
コメントをありがとうございます!
週末は珍しく(?)忙しくて、返事が遅くなってしまいました。

くじらさんも「八日目の蝉」を読まれたのですね。
よかったですよね、ドキドキしたり、しみじみしたり。
読んでしばらく経ってからも、いろんな想いが胸をよぎって。
この本に出会えてよかったとワタシも思いました。

くじらさんのブログに、また遊びに行きますね。
これからも、どうぞよろしく!

2008/03/31 (Mon) 12:24 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

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