ドイツが背負う十字架を恋愛小説風味で ベルンハルト・シュリンク「朗読者」

今頃になってようやく読みました、ベルンハルト・シュリンクの「朗読者」。 すごいベストセラーで木にはなっていたのですが、本のテーマ(戦争犯罪)がおおよそ予想がついて、なんとなく気後れして読まずにいました。 「ベルリン1919」「1933」「1945」の「転換期三部作」を読んだ勢いで、こうなったらドイツ月間だ!と新潮文庫版を手にとりました。

3.26朗読者

15歳の少年がふとしたことで出会い、逢瀬を重ねたハンナは母親ほど年の離れた女性。 ふたりだけの秘密の日々は、ハンナの失踪によって一方的に終止符が打たれてしまう。 大学生になった主人公がハンナと再会を果たしたのは、ナチスの戦争犯罪を裁く法廷だった…。

恋愛小説かと思いきや、後半の思いがけない展開と結末にウルッときました。 が、作品全体を通してみると、う~む…微妙。 ワタシの気持ちにはピタッときませんでした。 第1章がどうもなんだかねえ、無駄に長い気がしました。 第2章から突然トーンが変わって、やっと小説としての面白味がでてきて、後半は一気に読めたんですけど。 前半の少年時代の無邪気な恋愛と、後半の重いテーマを対比させようとしたのかもしれませんが、もう少し違った書き方ならもっと共感できたかも。 男性の方が主人公の気持ちに寄り添いやすい作品かもしれませんね。 女性のワタシからみると、15歳の少年と逢瀬を重ねるハンナの行為は自己中心的に思えます。 それだけハンナが孤独だったということを言いたいのでしょうし、小説が必ずしも道徳的である必要はないと思っていますが。

ドイツの第2次世界大戦中の戦争犯罪について、若い世代のドイツ人が親の世代を厳しく断罪し、一方的に糾弾する。 その姿勢に対する微妙な違和感を描いている点で、この作品はスゴイと思いました。 今までドイツ人はこういうことを表現できなかったから。 戦争からずいぶん時間が経ったから書けるようになったんだなあ、と。 日本でいうところのB級・C級戦犯にあたる人たちが戦時中に犯した罪をどうとらえるのか---上司の命令には逆らえなかったから不可抗力だとするのか、良心があれば命をかけてでも正義のために行動すべきだったとするのか。 「そんなに簡単に断罪してしまえるのか? 親の世代を有罪にしたら、それで終わりなのか?」という問いかけを甘美な恋愛小説のオブラートに包んで提示した…ワタシはそんな風にこの小説を読みました。 読み方は読み手にゆだねられているので、いろんな読み方ができる小説です。 「朗読者」の設定が非常にうまくいかされていて(ネタバレになるので書きませんが)、最後まで心のうちを語らなかったハンナ、ハンナに対する主人公の罪悪感は、戦争にまつわるエピソードを抜きにしても透明な悲しさをたたえていて美しかったです。 それでもなお、結末がワタシが嫌いな「ドイツっぽいパターン」だったので、それもワタシの中ではマイナスでした。 ああいうメランコリーは苦手。 

ベルリン三部作を読んだことで、ドイツが背負っている十字架=ホロコーストをはじめとする第2次世界大戦中のナチスの犯罪について、自分なりにもう一度考えてみたくなりました。 父が昔からこのテーマを個人的に追究していて、小学生の頃に父の横で強制収容所に関するドキュメンタリー番組や雑誌の記事を見たりしてたんですが、あまりにも恐ろしいモノクロ写真の数々が目に焼き付いて、トラウマになってしまい、今まで避けてたんです。 考えれば考えるほど、どんどん暗い気持ちになりそうなので、次に読んでいる「ケストナー ナチスに抵抗し続けた作家」で、とりあえずドイツ月間は終わり。 あんまり続けて読むと苦しくなりそうなので。 あ、でもゲーテの「ファウスト第二部」はがんばって読むつもり。 あくまでも「つもり」なので、どうなるかは分かりません(弱気)。 

コメント

No title

そうですね、確かに第1章が冗長な嫌いがあって、そのせいで必要以上に恋愛小説の印象が強いですね。だからああいうキャッチフレーズになって誤解を招く結果になったのかも。

私は全体としては「恋愛」の要素はほとんど感じなかったですね。
印象が強いのは、先の大戦に対し、日本人に比べてドイツ人ははるかに真摯に自己批判をし、それがこの作品に読めるようなひずみさえ生んだ、ということそのものです。

RINRINは村上龍を産んだ佐世保一の名門進学校、佐世保北高を受験しましたが、どうなるかは神のみぞ知る、というところです。
落ちればかわいそうだし、受かって勉強に追いまくられるのもかわいそう。複雑な気持ちですね。

2008/03/15 (Sat) 01:26 | piaa #- | URL | 編集
No title

piaaさん、
ドイツ人は戦後ずっと、ひたすら謝り続けてきたんですよ。 たぶん「仕方なかったんだ。ナチスの命令に背いたら、自分が殺されたのに、どうしろって言うんだ」と反論したい気持ちだって心の中にはあったのでしょうが、そういうことはドイツ国内でも口に出して言ってはいけないタブーでした。 親の世代ぜんぶを「有罪」「悪」と決めつけて、それで贖罪をしたつもりになっている若い世代に「それでいいのか?」と問いかけた点、そして意地悪く読めば「戦争犯罪者を擁護している」と揚げ足をとられかねない内容をあえて書いた点で、この小説は画期的だと思いました。

piaaさんの娘さん、名門進学校の合格発表待ちなんですか。 それはたいへん。 自分の夢を子どもに背負わせて、プレッシャーで押しつぶしてしまう親が多い中、piaaさんのように大らかに構えたお父さんを持って、娘さんは幸せですね。 無事合格されますよう、お祈りしております。

2008/03/15 (Sat) 12:29 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

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