読み応えあり イアン・マキューアン「贖罪」

イアン・マキューアン「贖罪」を読み終わりました。 上巻の真ん中あたりから止まらなくなって、夜明けを感じつつも読みふけってしまいました。 仕事を片付けた安堵感も手伝ってか、ひさびさの一気読みです。 前にも書きましたが、ブッカー賞をとった「アムステルダム」がワタシは全然好きになれず、「マキューアンは合わない」と思っていました。 「贖罪」は評判がいいし映画「つぐない」も良さそうだし…読もうかどうしようか迷いに迷った末に読んでみたら…あら、なんだ、普通におもしろいじゃないの(笑)。

5.20贖罪

物語の幕開けは第2次大戦前、イギリスの田園地帯に豪壮な屋敷を構える資産家タリス一家。 その末娘ブライオニーは13歳、お話しを作ることに夢中になっている少女で、頭の中はすっかり作家気分です。 世の中や家族に向ける目が以前よりも冷ややかになりつつあるものの、自分が思っているほど大人ではない微妙なお年頃。 上巻の300ページを費やして、ブライオニーが自らの妄想癖と思いこみから、一生をかけて償わなくてはいけない罪を背負いこむに至る夏の一日の出来事がじっくり描かれています。 下巻では、ブライオニーによって引き裂かれた恋人たち(姉セシーリアと使用人の息子ロビー)の”その後”が第2次世界大戦を背景に語られます。 そして、最後に待ち受けるのは思いがけない事実…。

とはいうものの、ブライオニーがやらかしたことも、その後の展開も、おおよそ予想がつきます(最後以外は)。 それでも、「愛」そして「小説」というテーマに真正面から取り組んでいて読み応えがありました。 「アムステルダム」を読んだときのような、気取った空疎な感じはありませんでした。 ちなみに、訳者あとがきによると、マキューアン本人も(「アムステルダム」は前作を書いた後の)「ある種の軽いしゃれだった」と言っていたそうです。 まさか「アムステルダム」でブッカー賞をもらうとは思っていなかったのだとか。 そして「贖罪」でブッカー賞がとれなかったことが今でも悔しいらしい。 確かに2作を読んでみれば「ブッカー賞の選考委員ってアホかも」と思います。 ま、日本の直木賞でも「なんで、この作品で?」と思うようなので受賞してますものね。
 
じれったいほどゆっくり進む第1部とは対照的に、第2部からは怒濤のストーリーテリングで、引きずられるように読みました。 語り口も第1部はヴァージニア・ウルフ風、第2部からは一転してたたみかけるような筆致(イギリス文学に詳しければマキューアンが誰を意識して書いたかわかるのかも)と、表現法にも構成にも技巧が凝らされています。 こういうところがマキューアンらしさなんでしょうか? 「贖罪」は確かにおもしろかったんだけど、マキューアンはなんか苦手。 最後の最後で、あれですから…それで納得がいったかといえば、かえって釈然としなくなるような感じで。 もちろん、著者はそれを狙って書いてるんですけどね。 ネタバレになるので書きませんけど。 なんというのか…この人(著者)は冷たい人なんだろうなあ…とかね、思ってしまうわけですよ、単純なワタシは(ブツブツ)。

5.11ベルフラワー

戦争のシーンを読んでいて、つい「コールドマウンテン」を思い浮かべました。 引き裂かれた恋人たち、戦争の残酷さを真正面から描いているという点でよく似ていますね。 技巧に走らずストレートに物語として書かれている「コールドマウンテン」の方が、背景となる美しい自然の繊細な描写を含めて、ワタシの好みでした。 「贖罪」か「コールドマウンテン」かどちらか一つを読むとしたら、ワタシのおすすめは「コールドマウンテン」。 あれ…結局、マキューアンが嫌いってことか?

辛口なこと言いつつ、映画「つぐない」も近いうちにみにいくつもり(笑)。 とても映像化しやすそうな話なので。 こんな感想では「読もうかどうしようか」迷っている方の参考になりませんねえ…。

コメント

>この人(著者)は冷たい人

そうそう、それ私も「アムステルダム」読んだ時に感じましたよ。

でもこれは結構よさげですね。暇があったら読んでもいいかな、くらいに参考にさせていただきます。

2008/05/20 (Tue) 01:56 | piaa #- | URL | 編集

先日、映画の方が新聞に紹介されていて、面白そうだなあと思ったンですよ。
原作は上下巻に別れた大作なんですね~

映画は映像もとてもキレイならしいです。
映画をみた感想もぜひ聞かせてね♪
大抵は原作を越えることはないと思うけど、この作品はどうかな・・・?

2008/05/20 (Tue) 07:41 | こころ #- | URL | 編集

■piaaさん

piaaさんも感じられましたか、冷たい人だと。 心底冷たい感じが好きになれない原因なのかもしれませんね。 主人公ブライオニーがちっとも魅力的に思えないように(たぶん)意識的に書いて、「あんた、それで償ってるつもり!」と突っこみたくなるようなエンディングにするあたりからも、そうとう意地悪な人なんだろうな(笑)と勝手に思ったりしてます。

>暇があったら読んでもいいかな、くらいに参考にさせていただきます。

あはは…piaaさん、ちゃんとワタシのモヤモヤした空気を読んでくださいましたね(笑)。

2008/05/20 (Tue) 22:55 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

■こころさん

映画の評判もそこそこいいみたいですね。
前半はイギリスの地方にある豪邸が舞台で、女優さんがきれいだし、戦争が絡んでドラマチックに盛り上がるので映像化しやすそう。 映画も楽しみです。
また映画の感想をアップしますね。

2008/05/20 (Tue) 23:01 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

 こんばんは。
マキューアンは特に好きってわけではないけど、なぜか読んでしまうんですよ。「マキューアンお好きなんですか?」と聞かれると、べ、別に好きじゃないんだけどねっ!と否定しつつも、読んでます…新作も読んじゃったし。私は「アムステルダム」が一番好きだったりしますね。たぶんvogelさんが嫌いなところが自分にはいいんだと思います。
冷たい人というか、人間をつきはなして書くところがありますよね。でもイギリスって、お笑いにしても文学にしても、そーいう傾向があるような気がします。びっくりしてしまうぐらいシニカルというか。

2008/05/21 (Wed) 19:14 | ぎんこ #n64RtCaA | URL | 編集

ぎんこさん、こんばんは!

>べ、別に好きじゃないんだけどねっ!

うふふ、そういう感じはわかります。 「べ、べつに」ってあたりが特に(笑)。
好き嫌いがはっきり別れる作家だと思うのですが、マキューアンはそれだけ強い芯を持っているんでしょうね。

>びっくりしてしまうぐらいシニカル

まさに、その表現がぴったり! この人、ほんとに人間を突き放して見てますよね。 ブライオニーへの視線が冷たーい(笑)。 イギリス文学といっても、日本にルーツがあるカズオ・イシグロだと全然違うんですけどね。

なんだかんだ言いつつ「贖罪」はおもしろく読めたのだから、文句ばっかり言ってちゃいけませんね。 

2008/05/22 (Thu) 00:30 | vogel #9JN9NMwM | URL | 編集

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