別世界に引きずりこまれる冒険小説 船戸与一「砂のクロニクル」

リンクさせてもらっている「とりほの日常」のとりほさんが読んでられた船戸与一「砂のクロニクル」。 自主的に手にとることが絶対になさそうな本なのですが、なんかすごくおもしろそうだったので買っちゃいました。 上下巻合わせて1000ページを超える長編なんですが、読み出したらやめられない止まらない(笑)。 ひさびさに一気読み。 おもしろい、といっていいのかどうか(すさまじいシーンの連続)…でも、船戸与一が構築したフィクションの世界にひきずりこまれてしまいました。

7.29砂のクロニクル

「砂のクロニクル」はイラン・イスラム革命後のイランを舞台に繰りひろげられる、ゲリラや武器商人、革命防衛隊の暗闘を描いた冒険小説です。 独立国家樹立をめざすクルド人ゲリラ、イラン革命から排除された左翼ゲリラ、非情な武器商人、純粋にイスラム革命を信じる革命防衛隊員、ホメイニを憎むイランのゾロアスター教徒…歴史に名を刻むことなく、砂の中に消えていく無名の人々の人生が複雑に絡みあい、やがてひとつの物語に集約されていく…。 山本周五郎賞受賞作です。

どの登場人物も、ふつうの日本人にとっては全く異質な世界に生きていて、理解不能な価値観に導かれて破滅へとまっしぐら。 誰ひとり、感情移入できる人がいません。 さらに、エンディングに救いがないし、次々に出てくる殺戮シーンのえぐさや、男性向けサービスと思われる男女絡みシーンなど、ワタシの好みでない点がてんこ盛り。 ストーリー展開も途中でなんとなく予感できる。 それなのに、読むのをやめられないんですよ。 はじめて船戸与一を読んだんですが、作家の力技にねじ伏せられて完敗、という感じです。 救いがない終わり方のはずが、最後を読んだら、自分も茫漠とした砂嵐の中に消えていってしまいそうで、なんともいえない余韻が残りました。 その余韻はけっしてイヤなものじゃなくて。 それだけ読んだら陳腐なものになりそうな最後の数行は、1100ページを読んだ末にたどり着くと、とてもよかったです(だから、読む前にそこだけ見ては絶対いけませんよ!)。 暑い夏の「もう何もしたくない!」という昼下がりに読むのがおすすめ。

7.19トンボ

ひきこまれた理由のひとつは、地の文章の良さにあるのかもしれません。 きわだって素晴らしい目立った表現があるのではなくて、でもしっかりとした情景描写が過不足なく挿入されているんです。 若い作家だと、自分のしゃれた表現に酔ったようなところがときどきあるんですが、そういう自意識過剰なところがいっさいありません。 ハードボイルド特有の鼻につくようなマッチョな、わざとらしいほど淡々とした感じもありません。 ハードな内容のわりに、表現がとても素直とでも言ったらいいのでしょうか…味がないようでいて、独特の味がある文章。 唯一気になったのは、ふつうは「~している」と書くべきところのほとんどを「~してる」「~してた」と書いていたこと。 ワタシが編集者なら、喧嘩してでも直してほしい(笑)。 ほかの表現はごくふつうだから、よけいに目障りでした。 なんで、こんな表現にこだわるんだろう? あ、それと「な、なにが」とか「あ、ああ」とか、会話の中でいろんな登場人物が頻繁にどもるのも妙な感じがしました。 とりほさんがこの本の感想に「かわいい」表現と書いてられましたが、確かに「ちょびっと」といった表現が暗いトーンの中でたびたび出てきて、それがなんとなくかわいいような(笑)。


数日前から庭でみかけたトンボは、ネットで調べてみたらオオシオカラトンボというらしい。 棒に止まっているところをパチリ。 繊細な羽が夏の光を受けて美しい。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する