凝った構成がおもしろい ナンシー・ヒューストン「時のかさなり」

読み応えのある海外作品を美しい装丁で次々に紹介している新潮クレストブックスは、ワタシ好みのものが多くていつも気になっています。 金欠とスペース問題のため、最近あまり本屋さんで見ないようにしていたのですが、ナンシー・ヒューストン「時のかさなり」はどうしても読みたくなって図書館で予約。 あまり人気がないらしく、たいして待つことなく手元にやってきました。

3.5時のかさなり

第2次世界大戦から現代のアメリカへと、4世代にわたる家族の歴史を描いた作品…ということで、テーマは特に目新しくありません。 が、表現方法がとても斬新で「こういう書き方もありなのね!」と驚きつつ、不思議にねじれた作品世界をじっくり楽しみました。 ナチスの「生命の泉」、ドレスデン大空襲、キューバ危機、パレスチナ問題、イラク戦争、ユダヤ人として生きること(登場するユダヤ人はユダヤ的であることに意外なほど不熱心だけれど)など、背景も欲張りすぎなほど盛りだくさん。 よく1冊にまとめられたものだなあ。

現代から1世代ずつ逆行していく構成で、語り手はすべて6歳の子どもなんですよ。 6歳だから歴史や政治の知識の断片に触れても、全体を見渡す視点がまだもてていない。 そういう子どもの視点オンリーで語るなんて、この著者はものすごい力量があるんですねえ。 一見、幼い子どもが日常をだらだらと語っているだけのような叙述の中に、ときどきチラッチラッと過去に関連していそうなこと、あるいは関係なさそうで後になってみると「あ、これ、どこかに出てきてた!」と気づく断片が交じっている。 いずれのチラッもごくかすかなサインなので、筋を追うだけの読み方だと大事なことを見落としてしまいそうなくらい。 最後まで読んでから、「えっと、あの人はその後どうなったんだっけ?」と最初からもう一度パラパラとページを繰って見直しました(「その後」を知るためにはその章よりも前の章を探さないといけない構成になっていますから)。

3.6馬酔木

ナンシー・ヒューストンを初めて読んだのですが、どの小説も技巧が凝らされているらしいです。 こういう技巧を「あざとい」と感じる人もいるでしょうが、ワタシは別に気になりませんでした。 というより、おもしろかったです。 ナチス・ドイツを一方的に糾弾するのではなく、一族の血脈をたどる大河小説として完成させた客観的な著者の視点も好感が持てました。 ドイツ人そのものが「悪」なわけでもないし、ユダヤ人の中にもパレスチナ問題に心を痛める人もいるという、当たり前のことに真正面から取り組んでいる作品です。 一族の曾祖母エラが過酷な運命に負けず輝いていること、子どもがそれぞれにしっかりと個性を持った存在として書き分けられていることで、深刻なテーマを扱いながらも暗さや重さを感じさせませんでした。 冒頭のクソガキ(!)の章がちょっとつかみとしてはしんどいのですが。 


今日は一日たっぷり雨。 風雨が強かったので写真は撮れず、馬酔木の写真は数日前に撮ったもの。 2軒隣の家の馬酔木はとっくに鈴なりで満開になっているのに、うちのはやっと咲き始めたところです。 雨の中、父が無事に退院してきました。 また心筋梗塞を起こしていたのに自覚症状ゼロ=死にかけた自覚ゼロ。 ぜんぜん痛くないなんて結構な体質。 これからも好き放題やるつもりらしいです…(ため息)。

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